第四章 駅弁開発で、ししょー身バレの危機!?

第24話 駅弁作り

 オレたちは、SLで一旦『鹿の駅』に戻った。ペペルと話をまとめる。


「キョウマ、駅弁って何?」


「駅に売っている弁当のことだよ」


 オレは「各駅に弁当を置いてみてはどうか」と、ナタリーナたちに提案した。


「お弁当って、売れるの?」


 異世界ならではの質問が、ナタリーナの口から飛ぶ。


「こっちには、弁当を販売するって文化はないのか?」


 ナタリーナもペペルも、首を振る。


「お弁当は、奥さんに作ってもらうか、自分で作るもの。保存の関係とか好き嫌いとかあるから、売って出すってことはない」


「携帯食はあるだろ?」


「あるけど、実用性重視。食べるのを楽しむためじゃない」


 オレも何人か、携帯食を買っている冒険者の姿を見た。オレも食ったことがあるが、本当に腹を満たすだけのものである。固形物を食っている気分になった。


「ペペル。こっちの世界にも、梅干しなんかの漬物ってあるんだよな?」


「はい。薬草に漬け込んでいるので、防腐剤と胃腸薬を兼ねているんですよ」


 このゲーム世界では、梅干しや漬物はオカズではない。「水なしでも食べられる薬」のような役割を持つという。 


「だったら、保存問題は解決だ。あとは……」


 弁当の文化自体を、世界に浸透させる必要があるのか。


「よほどの目玉商品でなければ、根付くことはないでしょう。それこそ、名物レベルで」


「でなければ、作った意味がねえよなあ」


 オレたちは、腕を組んで長考する。

 もっとも、オレには必勝のネタがあるのだが。


「ブキミシししょーにも、会議に参加してもらう」


 スマホ型の冒険者用端末を出して、ブキミししょーにコメントを求める。といっても、ブキミししょーとはオレのことなのだが。


 オレはわざと、ナタリーナがブキミししょーに意見を求めるよう仕向けたのだ。

 絶対とは言わないが、オレがアドバイスをするより角が立たない。


 できるだけ、ナタリーナが能動的に動けるようなサポートを、してやりたいのだ。


『フルーツポーションかお茶とセットにして、お弁当を出すんですよ』


 弁当とはという根本的な質問に、オレは丁寧に助言する。


『お弁当を作って、持ち込むの?』


『いいえ。SLの中で売るんです。トロッコ列車の方では、駅で買えるようにします』


 SLくらいの広さなら、ワゴンだって通れるだろう。そっちは長旅になるから、ワゴンで定期的に移動販売をするほうが喜ばれるはずだ。ワゴンも、木組みで作れそうだし。


『たとえばメニューは? サンドイッチとか?』


 この世界での弁当といえば、ハムを白パンに挟んだサンドイッチが定番だ。


「たしかに、それのいいアイデアだ」と前置きして、オレは一つの弁当を提案する。


『私の国では、【釜めし】という文化がありますよ』


『見たことないけど、名前の響きだけでめちゃおいしそう』


 うまい。オレも二、三度食っただけだが、今でも味を覚えているくらいだ。


『球技用のボールサイズの薄い石製の釜を使って、お米と具材を一緒に炊くんです。お米がふっくらしていて、おいしいですよ』


 オレたちのいた世界では、鉄道で弁当が売られている。ご当地弁当などもあって、バリエーションも豊富だ。


 山の幸や鶏肉だけではなく、海沿いなら【鯛めし】という選択肢もある。


『それ絶対おいしいやつ』


 ナタリーナのノドが鳴った。


『この世界にはお米の文化があるようですし、畜産も盛んです。ドワーフの技術があれば、石から釜を作ることだって、造作もないでしょう。なにより、結婚式に釜をプレゼントするなんて、素敵な文化ですよね』


 ナタリーナはわずかに黙り込んだ後、『うん』と答える。


『では駅弁は、釜めしなんていかがでしょう?』


『やってみる。ありがと、ししょー』


 ようやく、駅弁のコンセプトが固まった。





 一瞬ナタリーナが、「ん?」という顔をしたのが気になるが。

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