第23話 線路増設

 SLを通す路線の他に、トロッコ型列車用の新しい線路を引くことになった。こちらは軽貨物の運搬と、一般客の送迎に用いられる。馬車の負担が減るわけだ。


 線路周辺の魔物は、レッドアイ夫妻に迎撃してもらう。


 オレたちは、線路開発に勤しんだ。この付近にいたボスクラスの魔物もいなくなったことで、開発はまずますの感じ。


「あれだけ草ボーボーだった土地が、見違えるようになっていきマース!」


 開発途中のトロッコ駅を見て、ジャックが歓喜する。


「これで、北ナマゾにも人が戻ってきマース!」


「魔物ばかりの修羅の国が、だんだんと生き返っていくのがわかりますわ!」


 手を付けるのは、駅だけではない。北ナマゾで採れた果物を使って、ジャムや酒を作ることになった。


 果実酒やジャムの開発は、ハーバリストのペペルに頼む。


「こんな感じですかね、鹿の人?」


 オレとナタリーナで、ペペルの作ったジャムを味見した。ジャムを白パンにつけて、一口いただく。


「うまい。ハチミツがきいてる」


「たしかに。こいつはパンが進んじゃうやつだな」


 こちらでのパンはスープに付けて食べるのが主流だが、これは貴族でも一般家庭でも食ってもらえそうだ。


『道の駅 北ナマゾ』の建設も、順調である。オレたちが拠点にしている『鹿の駅』と繋がったことで、人材や物資の運搬が容易になった。SLの風圧にふっとばされないように、本線との距離は離してある。パッと目的地に行きたければ、力強いSLを。のんびり旅をしたいなら、トロッコによる鈍行に乗ってもらえばいい。


 南ナマゾに戻ることになった。ナタリーナはSL駅のベンチに腰掛け、スマホにメールを打っている。相手は、【ブキミししょー】だろう。


「ナタリーナは、お前はどっちの路線が好みだ?」


 オレは、ナタリーナのそばに座る。


「どっちにもよさがある。行きと帰りで違う路線を両方使う」


「ぜいたくな利用方法だな。お前らしいや」


「でも、なにか足りない。なにかがほしい。列車ならではのなにかが」


 スマホを握りしめ、ナタリーナは思案していた。


「だよな。SLにせよトロッコ列車にせよ、もうひとつ決め手がほしい」


「だから、今それを相談している」


 オレのスマホをよく見ると、大量のメッセージが。ナタリーナは【ブキミししょー】に、というかオレに、ベストなアドバイスを要求していた。


『私も考えているところです。欲しいものはありますか?』


 ナタリーナに隠れて、オレは意見を求める。コイツがほしいものを知らないと、助言しようがない。


『景色やロケーションは最高。でも、途中でお腹が空いてくる』


 腹か。たしかに、ナタリーナは食いしん坊だもんな。


『列車に果物を持ち込んで食べるのでは、ダメなんですか?』



『それでもいい。実際にやってみた。でも、なんか違う』


 悩んでいるナタリーナの前に、一組のドワーフカップルがSLから降りてきた。

 男性は白いタキシード、女性はウェディングドレスに身を包む。


「おお、鹿の人ですか。ここで、挙式をしてくださると聞いてきたのですが?」


「そうなの?」


 メッセージを送っているところに急な質問がきたせいか、ナタリーナは素になっている。


「地元でもよかったのだが、新しい式場ができたから、せっかくなのでそっちで式をあげようと妻と決めたのです」


「ああ、ミスター・ジャスティスのことか? 挙式の会場はこちらだ。どうぞ」


 オレにつられて、ようやくナタリーナも「どうぞ」と道案内を始めた。


「おお、お二人ともご親切に」


 新郎新婦が、屋敷の隣にある教会へと向かう。それにしても、二人で担いでいるあのデカい釜はなんだ?


 ジャスティスことジャックとモヒートらのレッドアイ夫妻は、副業で結婚式のコーディネーターをやっている。既婚者だから、現地人になにかしてやれないかと考えてのことらしい。


「妻よ。どうかこの釜で、俺のメシを炊いてほしい」


 ドワーフの新郎が、同じくドワーフ族の新婦に大きな釜をプレゼントした。

 手作り感満載だが、愛情がたっぷりこもっているのがわかる。


「はい。よろこんで」


 妻も、愛おしげにその釜を受け取った。あのデカい釜を一人で担ぐなんて、すげえな。


 その後、二人はメンディーニ王国へと帰っていった。


「ドワーフは結婚したら、釜を作るのが夫の仕事。亭主の作った釜でごはんを炊くのは、妻の仕事だって言われている」


 いい風習だな。男女平等をうたう人からすれば差別だと言われかねないが、共同作業という意味ではすばらしいと、オレは思う。 


 ここまで聞いて、オレは親と帰郷した過去を思い出した。


 新幹線に乗って食ったアレ、うまかったなあと。


「そうだ! 駅弁なんてどうだ?」


「えきべん?」


(第三章 完)

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