第26話 駅弁開発
エルフ王と王妃が、オレたちに頭を下げる。
「我が北ナマゾに尽力してくださって、感謝いたします」
「いえ。こちらこそ、楽しんでいる」
「それは、よきことで。ナタリーナ様も」
ナタリーナも、エルフ王に会釈した。
「さっそくだが、北ナマゾ付近の薬草やハチミツ関連を収穫していいか? エルフの方たちでも食べられる、駅弁を提供する」
「もちろん。我がエルフの里でできることなら、なんでも提供いたそう。必要なものがあれば、おっしゃるがよい」
「ありがとう」
オレに続いて、ナタリーナも「ありがとう」と礼を言う。
「売り出す商品には、肉を入れる。肉食が盛んになるが、抵抗はあるか?」
「ございません。我々のような高齢のエルフなら手を付けない。が、最近は世俗の真似事をして、肉を欲するエルフ族もおるので。安心して商品開発なされよ」
エルフが肉を食わないのは、消化できないとかではないようだ。宗教上・文化的な事情があるらしいな。
「ナギアン地方から、邪魔が入るようなことは?」
聞いた話だと、ナギアン地方はかなりキナ臭いようだが。
「決して、そのようなマネはさせぬ。それにナギアンは、偉そうなだけ。本質的には、研鑽を繰り返すあなたがたに分があろう」
「じゃあ、遠慮なく」
「我々も、偏見なく対応いたす。では、よろしくおねがいします」
エルフの協力も得たことで、駅弁開発に着手を始めた。
まずは、普通のサンドイッチを。卵焼きを入れたハムサンドと、いちごジャムのフルーツサンドだ。
バナナサンドでもよかったが、バナナはそのまま出すことにした。いくら調理しても、原型のほうがうまかったのである。
「うん。うまい!」
フワッフワの卵焼きなんて、オレに作れるのかと思ったが。男の手料理でも、案外作れるもんだ。
「これはこれで、朝食にいけるんじゃないか?」
「いいかも。どっちもおいしい」
レッドアイ夫妻にも、試食してもらう。
「最高ですわね。いちごといえばケーキという印象でしたが、パンに挟むとこれはなかなかの味わい。スポンジケーキにはない食感を、楽しめますわ」
モヒートは、いちごが大好物らしい。
「ミー的にはカツサンドがほしいところでしたが、これを食べて考えが変わりマシタ。朝はこんな感じがいいかもデース」
ひとまず労働者用の朝食兼、駅弁としての役割は果たせているようだ。
売り出してみると、作業員たちが一斉に買っていく。忙しい朝に、電車の中で食っていた。薬草茶の売上もいい。
駅弁は、浸透しつつあると思っていいだろう。
続いては、メインの釜めしだ。これが売れなければ、意味がない。
「材料はウズラの卵、シイタケ、鶏肉、タケノコ、ゴボウがあるといいな」
ウズラと鶏肉は、エルフ向けだと除外する。
「釜が焼きあがった」
ナタリーナには、釜を作ってもらった。
「じゃあ、これに具材とダシを詰めて、炊いていくぞ」
が、ここまできて大きな問題が。釜は大量にあるが、それを炊くコンロが不足していたのだ。
ただでさえ、釜めし一食分作るだけでも時間がかかるというのに。
「完っ全に、失念していた」
「大丈夫デース」
オレがミスるのを見越していたのか、ジャックはちゃんと対策してくれていた。
生産工場となる屋敷の庭に、案内してもらう。
そこには小屋が建っていた。石でできた土台に、大量の穴が空いている。土鍋がすっぽりと収まるサイズの。これなら、大量生産が可能だ。
「魔方陣の上に土鍋が収まるように、置いてくだサーイ」
「おお、さすが異世界!」
生産ラインが確保できたところで、いよいよ実食だ。
「……あははは。言葉が出ねえくらい、うまい」
信じられない。異世界で釜めしがくれるってだけでも、チートに近いのに。現地食材だけで、こんなにうまくなるのか。
コメをあまり食わないというレッドアイ夫妻も、あっという間に土鍋を空にした。
これなら、誰に出しても恥ずかしくない。
ナタリーナが、ずずっとオレのそばまでやってくる。
「どうした? 鹿の人」
「ん」
ナタリーナが、フードを取った。ペペルもいるというのに、彼女は素顔を見せてくれたのだ。オレに釜を差し出してくる。
この行為って、たしか求婚の。
「いつもありがとう。キョウマ。いいえ。ブキミししょー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます