第三章 新天地の領主は、新たな転移者!?

第15話 ドリル縦ロールの地雷令嬢と、銃使いの聖騎士

「改めまして。わたくしは、レッドアイ夫人のモヒート。北ナマゾ地区の辺境伯ですわ」


 ドリル縦ロールのわかりやすい悪役令嬢は、紺色のドレスを着たバンギャ……つまりヘビメタ好きな地雷女風である。髪の毛が、紫と赤で分裂していた。ファイトスタイルは、ベースが【ウィザード】である。日本刀を携えているので、サブが【サムライ】だ。おそらくバランス型のジョブ、【ルーンナイト】だろう。


 一方男性の方は、【聖騎士パラディン】だ。真っ白いヨロイを純白の軍服の上に装着している。デカい襟で顔を隠し、素顔は見えない。だが、言葉遣いや背筋の伸び具合から、かなりのイケメンだとわかる。腰に二丁拳銃を携帯し、背中にシールドを背負っていた。


 女性の方が、前衛型か。思っていた以上に、前のめりなお嬢様のようである。


「こちらが夫のジャック・レッドアイ。婿養子という名の居候ですわ」


「チガイマース! ミーのネームはジャスティス・クレイモアでーす!」


「……ごめんあそばせ。伝記モノの絵物語に夢中ですの。すっかりヒーロー気取りで

して」


「気取ってなんかいまセーン! 正義はミーにあるのデース!」


 二人が、口論を始めてしまっている。


 これは、いつまでも漫才が続くパターンだな。


「あの、オレは……」


「ごあいさつは、結構」


 オレの自己紹介を手で制して、「電車の中でお話しましょう」と、モヒートは他の人たちを下がらせた。


 SLにあこがれていたのか、ナタリーナはやたらとソワソワしていた。


「どうした? SLに興味津々か?」

「うん。ずっと乗りたかった」


 コイツは、このままにしておこう。


「お初にお目にかかりますわ。隠者ハーミットのキョウマさまと、戦士ソルジャーの【鹿の人】こと、ナタリーナ・メンディーニ王女殿下でしょう?」


 座っていたナタリーナが、モヒートに視線を向けた。


「どうしてオレたちを知っている?」


「知らなければ、わざわざ列車を使って会いに来ませんわ」


 たしかにな。SLを使ってきたくらいだ。相当な用事があるに違いない。


「といっても、今日は顔見せ程度の用事しかありませんの。北ナマゾにいらしたら、遊びに来てくださいな」


「北ナマゾは、モンスターが大量にいる。なのに、危険をおかしてまで来てくれた。ようこそ」


 さっきまで黙っていたナタリーナが、【認識阻害のフード】を外す。バレている以上必要ない以上に、彼女なりの礼儀なのだろう。


「わたしが鉄道をつなげようとしたのも、北ナマゾの援護のため」


「それは、ありがたいですわ」


「でも、わたしたちは領域を侵犯するところだった。無許可で鉄道をつなげようと」


「まったく問題はありませんわ。領主として、許可はいたします。というより、わたくしたち北ナマゾ管理者に断りを入れず、どうぞ開発を続けてくださいまし」


 やけに、北ナマゾは協力的だ。


「いいの?」


「我々は、モンスターさえぶっ飛ばせれば、それでいいのです。プレイヤー冥利に尽きるというものですわ」


「……ぷれいやー?」


「あなたは知らなくても、構いませんことよ。わたくしたちは、こちらの方に用がありましたの」

 

 オレに、用事だって?


「申し訳ありませんが、殿下。キョウマさまとお話をさせてくださいませ。どうぞ、我が国が誇るSLをご堪能ください。どこを触っても構いませんことよ。ドワーフに扱われても、我がSLは頑丈ですから」


 モヒートからそう告げられて、ナタリーナがオレの方を見た。好奇心と不安が入り混じっている。


「オレのことは気にするな」


 おそらく彼らは、敵ではない。


「これは予想だが、この二人はお前さんにSLを触ってほしくて、ここに来た。だよな?」


 オレが尋ねると、二人は「遠慮なさらず」と告げた。


「ありがと」


 席を飛び出して、ナタリーナはさっそく運転席に向かう。


「驚いたよ。オレ以外にも転移者がいるなんて」


「わたくしも驚きでしたわ。ケンヤ以外の転移者と会えまして」


「あんたがケンヤ氏を呼んだ、ってわけじゃなさそうだな」


「いいえ。彼は、わたくしの夫ですわ」


「NPCが、ゲームのプレイヤーと結婚したのか?」


「というか、わたくしもプレイヤーですの」


「だよな。あんたらは、『ロールプレイ』をしているもんな」


 この夫婦の行為は、いわゆる「なりきりプレイ」だ。

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