第16話 ロールプレイ夫婦は、効率厨

 ロールプレイと言えば、ファンタジー」という誤解が多い。

 本来ロールプレイとは、「役割になりきる」ことである。テーブルトークのような卓上ゲームで、自分が物語世界の住人を演じること。これが、ロールプレイの語源だ。


「お前らの口調って、アレだろ?【柏木メタル】と、【ずんだマン】だろ?」


「よく知っていますネー? さすがミスター・キョウマ。転移者デース!」



「ダテに二〇年以上、指示厨してねえからな」


 柏木メタルとずんだマンとは、どちらも文章読み上げソフトの名称だ。

 ずんだマンは、ずんだを食って変身するヒーローである。

 一方柏木メタルは、ヘビメタ好きなお嬢様という設定だ。


「せっかく異世界に呼び出されたんですもの。楽しまなくては」


「そうデース!」


 この夫婦は、異世界を満喫しているようだ。


「どうして、複数の人間を異世界に召喚したんだろうな?」


「『ディアボリック・ブルー』が、領地開拓ゲーだからでしょう」


 自分たちの領土を広げていくこのゲームは、とかく一つの地域に入り浸りやすい。自陣だけですることが山積みだからだ。遠くへ冒険になんて、行っていられない。


「ビコーズ、複数の人間を召喚して、それぞれの地域を守らせているのでショーな」


 なるほどねえ。


「ともあれ、あのゲームを遊んでいたのは、オレだけじゃなかったんだな」


「そうなりマース。我々も驚いているのデース。わけもわからない世界で、お互いガンバリまショーぞ」


 ジャスティス・クレイモアから握手を求められたので、オレも応じる。


 この二人も、周りの友人まではゲームの存在も知らなかったらしい。人を呼んでプレイしようとしたら、アクセスができなかったという。


「ふたりとも、プレイヤーだなんて」


 やはりこのゲームは、召喚される者として選ばれたものにしか遊べないようだ。


「わたくしたち夫婦は、実生活でも夫婦なのです。彼の本名はジャック・グレイ。プレイヤー名も同じなので、ジャックでいいですわ。わたくしは日本人で、妃美香ヒミカ・グレイといいますが、覚えなくて結構。従来どおり、モヒートとお呼びくださいな」


壬生ミブ 京馬キョウマだ」と、オレは名乗った。


「夫婦で召喚されるとか」


 ジャックのしゃべり方が変なのは、ガチの外国人だからだそうで。


「伯爵家の令嬢として、呼ばれたのはわたくしだけだったのです」


 だがモヒートは、『夫と一緒でなければ召喚に応じないし、何もしない』と、条件をつけた。


「愛しているんだな?」


「息が合っているからですわ。どちらかが攻撃に周り、もう片方が採掘や採取に回るのですわ」


 ふむ。二人はいわゆる「効率厨」か。


「あなたのおウワサはかねがね。三次職【隠者ハーミット】まで上り詰めた、伝説の指示厨だとか」


 ナマゾ全域にまで、オレの名が行き届いていたとは。


「オレが【ブキミ】ししょーと知ってて、あんたらはナタリーナを好きにさせたのか?」


「そうデース。あなたの的確なアドバーイスによって、プリンセス・ナタリーナはめまぐるしい活躍を見せていマース。不可能だと思われた南ナマゾが、このとおり人が住める土地になっていマース」


 ナタリーナは車掌に質問しまくっている。こちらの会話は、まるで聞いていないようだ。


「あなたはいろんなゲームで、多くの配信者に指示を送っていましたわね?」


「九割方、煙たがられていたけどな」


「それは見ている側ですわ。配信者を自由に遊ばせたい勢からすれば、指示厨など鼻持ちならない存在でしょうね。けれど、ありがたがっている者がいた。それが、ナタリーナ様ですわ」


 役に立っているなら、指示厨冥利につきるけどな。 


「ぜひとも、そんな伝説の指示厨に頼みたいことがありマース」


「なんだ?」


「プリンセスと共に、北ナマゾも領地開拓をお願いしたいのデース」


 なんと、自分たちの領地を明け渡すという。

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