第14話 獣人の駅長
「ワワ、ワタシですか?」
指をさされ、ペペルが困惑する。
「ムリムリムリですよ! スラム出身のワタシが、駅長なんて!」
ペペルが、手をすごい勢いでブンブンと振った。
「大出世じゃないか」
このエリアを一番整地していた彼女なら、もっともここを熟知していると思う。
「みんなも、ペペルが適任だと思わないか? この村のリーダーとかは、別で決めてくれればいい。とはいえ駅長なら、ペペルを置いて他にない」
村人たちに意見を募り、結局ペペルが駅長にふさわしいとなった。
「細かい手続きとかは後日行うとして、新駅長はペペルということで。ではナタ……鹿の人、どうぞ」
オレが先導して、ナタリーナがペペルの前に立つ。
「ペペル殿、よろしく」
ナタリーナが、ペペルを駅長として指名した。
「鹿の人に言われたら、仕方ないですね。で、では。ワタシがここの駅長のペペルです。よろしく」
運転手に、ペペルが自己紹介をする。
「ところで、この駅ってなんて名前なんでしょう?」
「名前ねえ? たしかナマゾ地区の……名前なんてあったっけ? もうだいぶ昔に、破棄された場所だからね。ボクが小さい頃だから、うーん」
五〇代の運転手でも、わからないらしい。
「そうそう『ナマゾ地区沿線 薬草の村』だったような。でもみんな、暫定的に行っていただけだよ。元々無人駅だったからね」
薬草取りに用事がない冒険者は、誰も降りなかったという。さらにいうと、モンスター退治をしながら歩くほうが、効率がよかったとか。
「そうですか。特に決まっていないと」
というわけで、新しい名前を募集することにした。
オレとナタリーナは名付けに参加せず、一緒に駅に置く看板を作る。名付け作業は、住む人間で行う方がいい。オレたちが出しゃばることもなかろう。
「決まりました【鹿の駅】です」
【鹿の人】ががんばって作った駅だから、この名前になった。
オレと同じ考えだったとは。
やはり、ペペルを駅員にしてよかった。
「では【鹿の駅】の駅長さん、ハンメルの商業ギルドと役所まで、案内しましょう」
運転手が、列車のドアをパンパンと手で叩く。
「乗せてってくれるんですか?」
「おうよ。駅長さんが列車に乗っていないなんて、カッコつかないでしょうよ。お乗りなさい」
「でもお金が」
「出世払いで結構。では出発しますぞ!」
列車がプオーっと、汽笛を鳴らす。
「すごい。列車なんて、初めて乗りました」
「いい経験だよな」
オレも、異世界の列車は初めてだ。今までトロッコだけだったもんな。
「ナタリーナ、快適だな」
「うん! うん!」
我らが鹿の人は、シートに膝を乗せて窓の外を眺めている。世間ではたしなめられるレベルの、お行儀の悪いスタイル。しかし、今はいい。
手続きは滞りなく終了し、ペペルは新駅長として、『鹿の駅のペペル』と名乗ることになった。
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で、冒頭に戻る。
「おぶあ! 寝ちまった!」
今までの経緯を回想していたら、あやうく風呂の中で眠りそうになった。
「それにしても、明日でいよいよ新天地か」
北ナマゾ地区に通じるトンネルも開通している。早かったな。もっと、時間がかかると思っていた。
これから、ナタリーナとオレの第一歩が始まる。
……と思っていた。
しかし、思わぬ珍客が現れる。
それは、バカでかいSLと共にやってきた。
「ごきげんよう。わたくしはこのエリアを指揮する、モヒート・レッドアイ」
「へーいっ! ミーはジャスティス・クレイモア! 北ナマゾ地区をパトロールしていまーす! ここから先は、我々の許可が必要でーす!」
わかりやすい縦ロール悪役令嬢と、アメリカンな銃持ち【ルーンナイト】が、鹿の村に降り立つ。白いテンガロンハットを被って、やたらテンションが高い。
「あいつ、厄介だぞ」
「チョココロネみたいな髪のお嬢様が?」
「違う。あの帽子のやつだ」
あいつ、オレと同じ【プレイヤー】だ。
(第二章 完)
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