第12話 ダンジョンボス撃退、トンネル開通
超特急で、開拓地に帰還する。ナタリーナが大量の魔力をトロッコに注ぎ込み、ホントに超加速で帰ってきた。
「よかった、市民は無事だな」
薬草畑にも、被害は及んでいない。
「キョウマさん、鹿の人、こっちです!」
ペペルに案内されて、トロッコに乗り込んだ。
ダンジョンが、トロッコの通り道を塞いでいる。こんなところに、トンネルなんてあったのか。
「線路沿いにトンネルがあって、そこを探索しようとしたら、オーガが出てきました」
二足歩行のマッチョなイノシシが、市民を追いかけ回していた。バカでかい剣を振り回して、周辺の岩山を砕く。足が遅いからいいものの、あんな武器で攻撃されたら、人間なんて粉々になってしまう。
「ペペルは、みんなを安全なところへ! ここはわたしと、キョウマで食い止める!」
「はい。お気をつけて!」
市民を、ペペルが誘導した。
「寝ていたところを悪いが、そこは人間の通路だ。どいてくれ」
言っても、話を聞いてくれるわけがない。魔物はこちらに剣を振り回す。
「魔煌剣の力を試す!」
ナタリーナが黒い大剣を抜き、カウンターで打ち上げた。
ゴツゴツした岩のような剣が、豆腐のようにスパッと切れちまう。それこそニュルッと。
自分がいつ死んだのか、わからなかったのだろう。最後まで驚きの表情で、オーガは息絶える。
「ふう」
「まだ安心するのは、早そうだ」
三体、四体と、オーガがダンジョンから続々と湧いてきた。狭い入り口を、巨大を揺らしながら崩す。落石が肩に当たっても、ビクともしなかった。
「どうする? 最悪このダンジョンは破棄するか?」
モンスターといえど、ここを縄張りにしているなら強制退去ってわけにはいかない。それでは、侵略者になっちまう。
「人間が自分から立ち退いてから湧き出たなら、見逃す。でもコイツらは、人間を追い出して棲み着いた魔物。不法占拠者には、鉄槌を下す!」
だったら、遠慮は不要か。
「たしかに、他にもたくさんダンジョンがあるからな。そっちで湧いてもらおう」
モンスターは、生態系が消滅するわけじゃない。倒しても、数日経てば別のダンジョンで湧き出す。
「フレンド申請したから、お前の敵にもオレのダメージが通るんだよな?」
「うむ」
一度収めた剣を、ナタリーナは再び構えた。腰を落として、意識を集中させている。
「【鹿の人】ナタリーナ、推して参る!」
鞘から抜くと同時に、ナタリーナは魔煌剣から衝撃波を出す。
二体同時に、オーガは真っ二つになった。すげえ威力だ。
「恨むなよ。違法滞在は、よそでやってくれよな!」
オレは一体だけ色の違うオーガに接敵した。おそらくコイツが、オーガ発生の原因だろう。
オーガが、オレを敵対者と認識した。コイツはオレとナタリーナ、どっちが強いか知っている。
さっきのオーガよりひときわ大きな剣を、オーガは振り下ろした。
「甘いな。【ジャストガード】!」
インパクトのタイミングに合わせて、オレは【霊木の杖】で受け流す。
「ひゅう。うまくいったぜ」
成功していなかったら、大ダメージを負っていたところだ。
オーガは巨体とは思えぬスピードで、今度は突撃してくる。
オレは【ロッククラッシュ】を唱えた。地面に岩を数個突き出し、つまづかせる作戦だ。
突き出た岩すら蹴り飛ばして、オーガはオレに迫ってくる。
丸太よりデカい腕に、オレは捕まってしまった。
「熱烈なハグはありがたいが、そういう趣味はないんでね!」
オーガが締め上げているのは、オレの分身である。オレは、幻影の背後にいた。
「【ミラージュボム】!」
魔法を唱え、分身を爆発させる。
土煙の向こうに、影が見えた。
「うわあ、ですよねー」
オーガには、傷ひとつついていない。
「だが、終わったぜ」
それ以上、オーガは動かなくなる。ヤツの指には、オレが仕込んだトゲが。
一撃目で、オレはオーガの指に毒を仕込んだのだ。心臓に達して、オーガは絶命した。ミラージュボムは、トゲの加速装置だ。
「初手で剣を受け流された時点で、気づくべきだったな」
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