第11話 魔煌剣《マコウケン》

「今行く! みんなも休憩してて。キョウマ、ついてきて」


 作業の手を止めて、ナタリーナはトロッコに乗り込んだ。さっそく、試運転と行こう。


「作業を再開するときは、ここにいるペペルの指示を聞くんだ。よろしく頼む。あ、そうだ! 魔物が出たら報告してくれ! 襲うようなやつだったら、ぶちのめす!」


「おお、行ってきな! 鹿の人を頼むぞ!」



 二人乗りのトロッコに乗って、ジャコモの工房へ急ぐ。後ろのトロッコに連結した荷台には、薬草の束と大量の果実を積んでおいた。こちらは、薬局で売る分である。


 馬車でも半日かかる道のりが、数時間で済んだ。一時間もかかっていないのでは? トロッコだとナメていたが、こんなに速いとは。


 線路の強度も、ちょうどいい。



「魔力計を、速度に設定した。パワーを上げると、その分重いものを詰める。鈍足になるけど」


 すごいな。段々とインフラが整っていく。


 しばらくは、荷物運搬に使うつもりらしい。


「この一連の作業を、ナタリーナは一人でこなしたのか。とんでもねえな」


「ひとりじゃない。一杯仲間がいたから、できた。キョウマも、手伝ってくれた」


「オレは、なにもしてねえよ」


「でも、わたしひとりだったら、あの娘とも、ペペルとも話せなかった」


 見た目とは裏腹に、ナタリーナはコミュ障だからな。


「そうか。ありがとうな」




 ハンメルの街に戻ってきた。薬局やギルドで用事を済ませてから、さっそくジャコモの工房へ。


「ああ、オレ様は天才だ! 芸術品ができあがってしまった! 神が宿るってのは、こういうことを言うのだろう! 自画自賛! 鹿の人に渡さずに、飾っておこうかな」


 なんだか危ない感じに、ジャコモが仕上がっていた。こんなキャラだったっけか?


「それは、困る」


「おお、鹿の人。待っていたぜ。コイツだ。オレともども、待ちわびていたぜ」


 ナタリーナから声をかけられて、ジャコモが鞘を渡してきた。鞘に収まっている段階で、この武器が尋常じゃないのがわかる。


「抜いてみてくれ」


「うむ」


 ジャコモに催促されて、ナタリーナが鞘から剣を引き抜く。

 刀身が真っ黒い剣が、顔を出した。見た目は漆黒のサバイバルナイフだが、大きさはナタリーナくらいだ。常に剣の周りで、黒い炎がプロミネンスが沸き立っている。


「見てくれ。魔煌剣マコウケンだ」


 無骨な剣の名は、魔煌剣というらしい。


「常に炎を帯びていて、攻撃時に追加ダメージが入る。この炎の煌めき! 黒いのに、輝いている! これこそ、魔煌剣の由来だ!」


 ジャコモの圧が強い。


「すごい。レジェンダリじゃねえか」


 レジェンダリとは、レアより等級が上の高品質アイテムだ。これ目当てで、仲間同士で奪い合うほどである。


「そうなんだよ、【枝の人】! オレが今作れる最高の逸品だ。【黒い牙】の他に、あんたがくれたレア素材を惜しげもなく使わせてもらった。しかもまだ完成品ではないと来た!」


 やたら、ジャコモのテンションが高い。よほど、この武器のでき栄えが気に入っているのだろう。


「あとひとくちが足りない! そこで、鹿の人のナタを素材に分解させてほしい。いいかね?」


「構わない」


 ナタリーナが、ジャコモに武器を差し出す。


「ありがたい! これで魔煌剣は、最強となるだろう! これを錬金釜へ」


 錬金釜の中身が、ブクブクと泡立っている。液体の毒々しい色からして、得体が知れない。


 ジャコモが、ナタを魔煌剣と一緒に錬金釜へ沈めた。


「これで完全にできあがった。あんたのスキルなどを、この宝玉に詰めてみてくれ」


 武器にスキルをセットできるのか。それは、知らなかった。すげえなレジェンダリって。

 鍛冶屋っていえば、分解して素材をセットするだけだと思っていた。こんな便利システムが、あったなんて。攻略サイトもなにもなかったからな、このゲームは。


「スキルセットって、難しそう」


「わかった。オレがやってみよう」


 今持っている【霊樹の杖】に、モンクのスキルである【分身の術】をセットした。


「試運転してみよう。そら!」


 杖をかざしただけで、オーラでできたオレの分身が姿を表す。


「悩まなくていいぜ。分解したらスキルは外れるから、また武器を作り直せばいい」


 ジャコモに説明されても、まだナタリーナは渋っている。


「でも分解したら、また何週間も拘束してしまう」


「オレさまに気を遣っているのか。作り方は覚えたから、あとは錬金釜で一瞬さ。素材さえあればな」


「じゃあ、やってみる」


 ナタリーナは、魔煌剣に【ディフレクト】をセットした。味方に振ってきた攻撃をカバーしてくれる、防御スキルだ。任意で動くのだが、武器にセットするとオートで作動するようになる。


「キョウマは弱いから、守ってあげないと」


「そういえば、お前はオレのボディガードだったな」


 ジャコモに礼を言って、鍛冶屋を出たときだった。ハンメルの冒険者ギルドから受付嬢が飛び出してくる。


「大変です。あなたの開拓地にいた冒険者からの連絡で、開拓地付近の洞窟からオーガが出たそうです。現在、市民が避難中です!」


「すぐに向かう!」


「お願いします」


 オレたちは、さっそくトロッコに乗り込んだ。


「わたしたちの開拓地を襲うなんて、いい度胸をしている」


 ナタリーナは怒っていた。


「その剣のサビにしてやろうぜ、ナタリーナ」

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