第4話 スマホゲット

 姫を無事に目的達成まで守りきれば、姫様を報酬とすると、王妃は約束してくれた。


「立派なレディにして嫁に出す予定だったのだが、本人があんな性格でな。『自分より弱いやつはいらん』といい続けていたら、誰ももらってくれなくなった」


 うーん。ありがたいが、人質交換みたいでイヤだな。


「オレもこのゲームは大好きだ。この世界に来られただけでもうれしいんだよ。姫様をもらうって案は、本人の承諾つきで頼む」


 相手の気持を尊重しないのは、ちょっと。


「そう言ってくれると助かる。だが、前金はちゃんと払わせてもらう。金、アイテム、なんでも用意しよう。いわゆる、チートスキルとやらも」


「チートは、いいかな? オレのジョブ自体が、チートクラスだし」


 オレのジョブ【隠者ハーミット】は、【三次職】という部類に当たる。

 隠者は、素手格闘家の【モンク】、探索の専門家【レンジャー】、精霊を召喚する【シャーマン】の、三種類を経由すると転職できる。その代わり、レベルも三等分になる。


 このゲームの上限は、一次職だけ持つと一五〇だ。二次職になると、2つの職業を経由するので上限は一〇〇に下がる。


 オレはもう、レベル五〇に達してしまっていた。三次職の上限である。ある程度のステータスボーナスはつくが、もう成長できない。


「レベルが低いオレが相手だと、いうことを効かないんじゃね?」


「心配は無用だ。これを差し上げよう」 


 小さい鉄の板をオレによこした。形からして、スマホじゃねえか。

 携帯を触るように、オレは指で鉄板をタッチする。


「お主に、【パラゴン】要素を解禁してやる」


「いいの? マジかよ!」


 クリア後の、エンドコンテンツじゃねえか! 


 パラゴンとは、「模範」という意味だ。

 早い話が正規レベルとは別の、パラゴン要素という経験値とレベルが得られる。

 さらなるステータスボーナスやスキルの恩恵が、手に入るのだ。「レアアイテム回収率アップ」など、アイテムでしか得られない効果もゲットできる。


 やったぜ。これでオレも、成長できる! レベルアップにはめっちゃ時間かかるけど!


「ブキミししょーは、ナタリーナの模範だからな。ぜひとも、模範となるレベルになってもらいたい。でなければ、娘も納得せんだろう」


「パラゴン要素は、クリアしないと手に入らないのに」


「よい。クリアできるのに、していないではないか」


「姫と一緒にクリアしたくてなあ」


 お楽しみは後で取っておこうと思ったのだ。


「もしものために、【ブキミ】としてアドバイスできるように手配してある。お主のいた世界の通信機を参考にさせてもらった。仕組み自体はわからぬが、言葉が伝わればよいのだろう?」


「まあな」


 これでオレが拒絶されても、アドバイザーのブキミとして活動できる。


「では、よろしく頼むぞ」


 いやあ、これはチートもチートだぜ。オレ的には最強になれるよりは、遊びの幅が広がる方がうれしい。


「ちょっとまってくれ。最後の質問だ。全部終わったら、オレは元の世界に帰らないといけないか?」


 このゲームには、明確な終わりはない。


 全世界に線路を引くことが、クリア条件である。クリアの後は、領土を拡張するだけ。


 魔王など、倒すべき標的などもいない。


「姫が全世界に線路を引いたら、オレはお役御免で、元の世界に送還されるとか?」


「帰すだなんて、そんなことはしない。あっちに未練がない人間を、選んでいるからな」


「そいつはありがたい」


 ゲーム世界に住むことは、ゲーマーにとって夢のような話だ。


「ありがとう。じゃあ行ってくる」

 


 

 出発の前に、旅の準備に取り掛かる。まずは、冒険者ギルドへ。


「いらっしゃいませ」


 エルフ族の受付嬢に、あいさつをした。


 冒険者の登録が完了できているか、確認を。


「えー。【隠者ハーミット】の、キョウマさまですね」


 隠者と聞いて、ギルド内が、ザワつく。周囲を見ていると、他の冒険者はオレと目を合わせようとしない。声すらかけられないか。数名に、おちょくられるかと思ったんだけどな。


「大変、素晴らしい功績をお持ちです。また、ギルドご利用のほど、よろしく」


「ああもちろんだ。まずは、地図を」


 ギルドから、地図を支給してもらった。プレイヤーアイテムとして所有はしているのだが、本当にちゃんとしているか比較したい。


「うん。本当に異世界だ。よし」


 続いて装備品の更新を、と。


「【ナーガ魔術師の杖】と、召喚用の【角笛】。服は、【魔獣のレザーアーマー】か。なにより、素手の攻撃力と魔力がアップする手甲【魔王の手】が強い。他には魔力増強の指輪と、首にかけた属性攻撃耐性の護符だ。プレイ時と同じ、ほぼ最終装備だな。


「おお、いらっしゃい」


 これまで拾ってきた装備を、鍛冶屋で潰して素材にする。


「強化するか?」


 ドワーフの鍛冶屋が、オレに聞いてきた。


「いやいい」


 オレは、装備の更新まで考えなくていい。姫用に、素材はとっておく。

 


 さて、さっそくエンカウントするか。

 オレの予想では、おそらくナタリーナ姫は。


「うらああああ」


 まだ、スタート地点付近でグルグルと回っていた。


「やはりな」

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