第3話 ゲーム実況にコメントをしていたら、ゲーム世界に転移してしまった

 ここは、どこだ? オレはナタリーナっていう配信者のゲーム実況に指示コメントを発信していたところだったんだぞ? 急に床が光って、オレは光の輪の中へと落ちてしまった。


 この場所は明らかに、家ではない。どこかの王城のようだが。作り込み度合いもドット絵をそのままリアルにした感じで、八〇年代のチープさが伺えた。令和と昭和が融合したような、新しいが馴染みやすい作風だ。


 ナタリーナが遊んでいたゲーム『ディアボリック・ブルー』の世界と、そっくりではないか。


 なんなんだよ? 高価なPCを買ったばかりだってのに。


 周りには、ヨロイを着た兵隊がいた。だが、オレにヤリを突きつけてくる感じでもない。あかいカーペットの先には、小さい玉座が。


「よくぞ参られた。伝説の【隠者ハーミット】、キョウマよ」


 玉座には、女性のドワーフが座っていた。背丈は小さく、ドレスのスカートもやや短めだ。それでいて、大人の上品さもある。


 目の前にいる女性は、ナタリーナによく似ていた。まさかとは思うが。


「わたしはこのメンディーニ王国の王妃、ロッサーナ・メンディーニである」


「やっぱりそうか。ここは、『ディアボリック・ブルー』の世界だな?」


 王妃は、さっきオレを隠者と言った。


 オレは自分の服装を見てみる。たしかにオレがこのゲームで使用していたキャラに告示していた。装備品以外は、オレが着ていたスウェットだが。


「ゲーム? いや。お主がアドバイスをしていたのは、本物のナタリーナであるぞ」


「ちょっとまってくれ。どういうことだ?」


 たしかに、この世界はドワーフが住んでいる。王妃の名前も、ロッサーナだ。


「お主には、我が娘ナタリーナへのアドバイスを直接頼みたい」


 ナタリーナが、王妃の娘だって?


「お聞きしたいんだが、ナタリーナはドワーフのソルジャーだったが? しかも、使用キャラはオッサンだった」


 ヒゲ面マッチョの男性キャラを、プレイヤーのナタリーナは使用していた。


 ナタリーナは顔出し配信をしていて、舌っ足らずなアニメ声と小さい顔を持つ。


 その容姿がすばらしく、オレは三次元ながら一発でファンになった。


「あれは、【認識阻害のフード】を装備した彼女の擬態した姿だよ。素顔は、あの美少女なのだ。実際は、本人が直接戦っている」


 マジか。


「娘はソルジャーとしての技量は優れている。だがいかんせんその力に溺れていてな。未だにこの城周辺をウロウロしている段階だ。もうレベルだって一〇に達しておるのに」


「初期の頃は酷かったよな。せっかく拾ったアイテムを、路上に捨てまくっていた」


「だろ? お主が『解体できますよ』とアドバイスしてくれなければ、城の前にゴミ山ができていた」


 オレのアドバイスがあったおかげで、素材がムダにならずにすんだ。

 その腕を買われて、オレが呼び出されたらしい。


「他にもコメントしていた奴らがいただろ? 彼らも呼べば」


「お主のいた世界でナタリーナの活躍を見ていたのは、お主だけだ」


「そうなのか?」


 たしかに、ナタリーナは『ディアボリック・ブルー』の攻略配信しかアップしていなかった。


 どうりで、あの動画の感想をダチに聞いても、「見てない」って反応ばっかだったわけだ。ホントに見られていなかったんだな。


「あの攻略映像を見れている。それだけで、お主は有資格者なのだよ」


「では、オレ以外のコメントは、誰が打っていたんだ?」


「あれは、精霊たちだぞ」


 精霊たちの霊力が集まって、ゲームを介して動画配信サイトにまで魔力が及んだ。その結果、オレの元まで配信が見えたらしい。


 オレが見ていたのは、精霊たちの目線で見たナタリーナの活躍だったのだ。


「だったら、その精霊たちに頼んだらいいんじゃね?」


「彼らは野次を飛ばすだけで、道案内なども役に立たない」


 いたずら好きな精霊たちでは、ウソのナビゲートをしてしまって、攻略が滞るという。的確な指示を出せる人間が、求められた。


「どうして、姫様が直接戦っているんだ?」


「早い話、ナタリーナは脱走してしまったのだ」


「姫とケンカでもしたのか?」


「しょっちゅうさ。『お姫様らしくしろ』と言ったら、うるせえって出ていった」


 おてんば娘の世話を、オレに頼んでいるわけか。


 旅に出ることを承諾する代わりに、監視用の使い魔をよこしたのである。アドバイス付きで。


「お主は、わたしの使い魔に引き寄せられたようだな」


「なるほどねえ」


「あの娘は注意力が散漫で、攻略済みのダンジョンにまた入ってしまったり、素材の見落としがあったりする。そこで、ベテランのプレイヤーに来てもらって、アドバイスを頼みたいのだ」


「オレみたいな人間の意見なんて、聞くのか?」


 この世界のドワーフは、誇り高い種族という設定だ。排他的とまでは言わないが、自分の考えが常に正しいと考える部分がある。


「そのためのお主だ。お主というか、お主が擬態しているガイドに頼みたい」


「ああ、【ブキミ】ししょーかい?」


 オレのハンドルネームか。


「お主のようなナビゲートが欲しい。というか、次の街に行ってもらいたい」


「いいのか? 一国の姫が脱走したんだろ?」


 連れ戻すのが、筋だと思うが。


「人から注意を受けて、あれが聞くように見えるか?」


 たしかに。引き止めたって、また脱走するだろう。


「気が済むまで旅をさせようと、わたしは考えている。キョウマ・ミブよ。ナタリーナに同行してくれたら、十分な報酬を約束しよう。なんなら、娘自体をやる。というか、ナタリーナをもらってくれないか?」

 

 すげえ条件だな。

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