第2話 迷子のバーバリアン

 一ヶ月前のことだ。オレはゲーム実況を見ていた。


 カップラーメンを食い、ハイボールをあおりながらゲーム実況を見る。これがオレの楽しみなのである。


 最近も、気になるチャンネルを見つけた。『ディアボリック・ブルー』という謎のゲームだ。


 自国最高技術である「鉄道」を世界中に広めるため、邪魔な魔物たちを討伐して回る、ファンタジーアクションRPGである。


 なにが謎かと言うと、ゲームサイトにも店にもゲームが置いていないコトだった。攻略サイトどころか、紹介の広告・バナーもないのである。知り合いにゲームについて話しても、誰も見たことがないという。


 だが、そのプレイヤーはたしかにいた。ナタリーナという少女配信者である。


「わーい。こんばんはー。ナタリーナ・メンディーニです。今日もこの地を開拓していくぞー」


 少女の顔が表示され、舌っ足らずな声でこちらにあいさつをしてきた。ナタリーナという実況主は画面の右下に映っている。少女は、淡いピンク色のフードを被ってきた。


 が、実際に魔物と戦っているのはおっさんだ。クオータービューの見下ろし型画面で、両手持ちのナタを振り回す。おっさんは、ドワーフという力持ちの種族だ。


「おーりゃあー」


 スキル【トルネードスピン】で、ソルジャーがくるくるとコマのように回る。

 人間竜巻に巻き込まれ、モンスターが粉々になっていった。

 その様は、ソルジャーというよりバーバリアンに近い。


「あいたっ」


 遠くから矢を撃たれ、ナタリーナの肩に突き刺さる。


「ふんっ」


 ナタリーナは肩に力を入れただけで、矢を抜く。さすがドワーフだな。

 前方には、スケルトンの弓兵が。


「お返し。【ソードフォース】」


 敵から離れた位置から、ナタリーナが剣を振り回す。

 剣からオーラでできた衝撃波が、放出された。

 衝撃波を受けたスケルトンが、砕ける。


「オレがマルチプレイできたら、加勢してやれるのにな」

 ナタリーナの動画チャンネルに貼ってあったリンクから、オレはゲームをプレイできた。無料で、課金要素もない。だが、いくらやってもナタリーナと同時接続はできなかった。シングルオンリーのゲームらしい。


「それにしても、道に迷ってしまったー」


 ナタリーナは方向音痴のようで、同じ場所をグルグル回っていた。出発地点である城の前にある小さな山を、陸上のトラックのように周回を続けている。


 敵が、アイテムをドロップした。たいていはお金やポーションだが、今回ドロップしたのは装備品である。


「いいアイテムなんだけど、アイテムの枠が一杯になっちゃってた」


 このゲームは、アイテム枠に上限がある。ちょくちょく街に帰って、整理する必要があった。

 しかし、ナタリーナはその事実を知らない。


「また捨てるかー」


 ナタリーナが、道端にアイテムを捨て始めた。もうこんなことがずっと続いている。おかげで始まりの街には、取りこぼした大量のアイテムが。

 マルチプレイできたら、全部拾ってやるのに。なんならオレが、荷物番になってやってもいい。


『アイテムは街で売るか、砕いて素材にできますよ』


 オレはキーボードを叩き、アドバイスを送る。いつか気づくだろうと静観していたが、誰もアドバイスを飛ばさない。これはオレが教えることに。あまり、プレイスタイルにごちゃごちゃいいたくはないが、ナタリーナのプレイは非効率過ぎる。


「おお、【ブキミ】ししょーじゃないか。貴重な情報をありがとー」


 ブキミとは、オレのハンドルネームだ。本名の壬生ミブ 京馬キョウマをもじっただけだが。ちなみに、自分でプレイするときは「キョウマ」で遊んでいる。


 ナタリーナは、オレをししょーと呼んでくれる。


『マーカー代わりにアイテムを捨ててるのに、消えちゃうよ』


 しかし、別のコメントに邪魔された。


「うーん。それは悩ましい」


 余計なことを。ナタリーナが長考してしまったじゃないか。


『一番いらないアイテムだけを残して、後は拾いましょう』


「よっしゃあ。拾って街に戻るぞ」


 捨てたアイテムを拾って、ナタリーナは街まで戻る。

 魔物の素材を、ナタリーナは冒険者ギルドで売った。


「いらっしゃい、鹿の人」


 鍛冶屋が、ナタリーナの呼びかけに応じる。

 ちなみに鹿の人とは、鹿の頭型フードを被っているナタリーナの通り名だ。


「不用品を解体して」


「OKだ」


 しかしナタリーナは、どれが不要なのか、わかっていない。


『自分で使わないものなら、装備品は潰して大丈夫です』


「おー、やってみる」


 レア以外の装備を、ナタリーナは全部鍛冶屋で砕いてもらった。


「うおお。装備をパワーアップできる」


 装備アイテムは、素材を足して強化できる。


『もっと強い武器が出てからでよくね?』


 オレ以外から、コメントが飛ぶ。

 コメントの意見は、もっともだ。


『これくらいの素材や装備は、すぐに強いものが出てきてしまう』


 キリがないので、手慣れた装備はさっさと強化したほうがいい。強化に慣れるためにも。


『ナタがお気に入りなんですよね? それだけでも強化してみては』


「でも、強い武器がまた出てくるんでしょ?」


 ナタリーナが反論してきた。


『お気に入りの武器があるなら、強い装備が出ても潰して能力だけ吸い出すことができますよ』


 これが、このゲームの重要なポイントだ。お気に入りの武器・防具を、ずっとつけていられる。たとえ強い装備が出ても、お気に入りに能力を上乗せできるのだ。そのため、ずっと同じビジュアルで冒険も可能である。


 ようやく、ナタリーナは強化を始めた。


 冷めたカップ麺をすすりながら、オレはナタリーナのプレイングを眺める。


 よかったよかった。指示厨と思われても構わない。装備を更新して、またアイテムを拾う。このゲームは、その繰り返しだからな。


「防具を更新して、武器は強化してみた」


 ナタリーナが、楽しげにクルクル回った。


 楽しそうで、なによりである。


「ただ、直接アドバイスに行きたいな」


 コメントで助言しても、他のヤツに邪魔をされたら意味がない。


「ん? おおお!?」


 オレの身体が、青い光に包まれた。


 なにが起きた、ってんだよ?


 気がつくと、オレは王城のような場所にいた。

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