ゲーム世界に召喚された指示厨は、最強のアドバイザーだった。方向音痴な姫様の鉄道開発を手助けして伝説となる
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第一章 バーバリアンは、お姫様!?
第1話 幼女バーバリアンと、指示厨の隠者
「ナタリーナ、こっちを右だ。そっちに行くとまたダンジョンに入ってしまうぞ」
地図を見ながら、オレは前にいる少女、ナタリーナに声をかけた。
少女ナタリーナは、頭に鹿の頭をかたどったピンク色のフードを被っている。
「うーせーなぁ。キョウマは、周りの敵に注意してて」
フードの少女が、舌っ足らずな口調で反論した。大型のナタを振り回しながら、グルングルンと回る。【トルネードスピン】という、【ソルジャー】のスキルだ。
彼女は一〇代前半の幼女だが、ドワーフである。力は、人間の成人男性よりはるかに強い。ソルジャーのジョブで冒険者をしていた。とはいえ、その動きは歴戦のソルジャーというより暴れん坊なバーバリアンである。
ドワーフの肉体を持つといえど、ナタリーナはまだ未熟だ。
なので、オレがお供としてついてきている。
幼女ながら強さは本物で、大型のクマでさえ一撃で葬った。装備品のナタも、戦闘用の本格仕様である。ドロップアイテムを砕いて素材を引き出し、それらを合成して鍛え抜いたナタは、もはやすべてを破壊する鉄塊兵器といえた。それをほぼ片手でぶん回すナタリーナは、まさに怪物だ。ナタリーナが倒した敵が、アイテムを大量に落とす。
「ワンオペ、ゴー」
ナタリーナからワンオペと名付けられたお供の犬も、オレがペットビルドで得た召喚獣だ。戦闘はナタリーナ単騎で終わってしまうので、ほぼ荷物持ち担当だが。
オレとお供の犬は、魔物が落とした品々を回収していく。
敵が落としたのは、装備品ばかりである。
オレのジョブは【
「このアミュレットとアクセサリだけ、もらっておこう」
鑑定すると、アミュレットには火炎耐性がアップする効果があった。さっき拾ったブレスレットには、魔力量を上げる効果がある。
「こっちのブーツは……ダメだゴミだな。素早さが上がる効果があるが、今ナタリーナが装備しているやつのほうが強い。潰して素材だけいただくか。このアミュレットも解体行き、と」
装備品を吟味しながら、オレはひとりごつ。
このように装備品一つとっても、同じ品物でも付与されている効果は違ったりするのだ。
心なしか、ワンオペもウンザリしているようにみえた。
「ただでさえアイテムでいっぱいなんだ。一度街へ戻るぞ」
「うーせーなぁ。ブキミししょーに聞くからいいのだ」
ソルジャーのナタリーナが、懐から出した黒い金属板に目を通す。オレのいた世界でいう「スマホ」に似た金属製の板である。
オレはスマホに指を当てた。ナタリーナのチャンネルにコメントを流す。
ナタリーナは、スマホ型端末から実況をして、開拓中の廃村を宣伝しているのだ。
『荷物が多くなってきましたね。街に一旦、戻りましょう』
「わかったのだ。このまま冒険したいけど、ブキミししょー神が言うなら仕方ないな」
金属板をしまい、ナタリーナは街へと戻った。
やれやれ、神はすぐそばにいるんだけどな。
拠点としている街に帰ってきた。
廃村開拓中の間は、ここを軸に活動する。
街に入り、素材を……。
「待て待て、ナタリーナ。冒険者ギルドに報告だろ」
「うーせーな。今やるトコ」
もう、次の街の情報を集めようとしてやがった。一泊した後、すぐに向かうつもりだったな。
「先にギルド。その次に素材。宿はその後だ」
「全部やるとことだったの」
ホホをふくらませながら、ナタリーナが渋々ギルドに報告をする。モンスターの素材を渡して、報酬を受け取った。
【認識阻害のフード】のおかげで、ナタリーナはガチムチバーバリアンと認識されている。声も、オッサンに変わるらしい。「ネコ耳フードをきたプロレスラー風の男性」に見えるらしいが。応対した人からしたら、悪夢だろうな。
オレは精神耐性が高いハーミット職なので、認識阻害は効かないが。
「次は、鍛冶屋だな」
鍛冶屋で、ドワーフのオヤジにあいさつをする。
「よお、鹿の人。どれを解体するんだ?」
街の人は全員、ナタリーナを『鹿の人』と呼ぶ。
鹿の頭の剥製がついたフードを被っているためだ。街の人は鹿頭の巨漢を、ナタリーナだと認識している。
「装備品以外、全部だ」
アイテムを装備するものとしないもので分けて、不用品はリストに。
不用品をすべて潰して、アイテムの素材にする。
「強化するかい?」
「頼む。コイツは両手剣を。オレは、アクセサリを強化してくれ」
「おう」
ドワーフのオッサンが、アイテムを強化してくれた。
当時のナタリーナはアイテム整理の仕方を知らず、荷物が増える度に路上へ捨てていたっけ。今考えると、すごい成長だ。
宿屋で、一休みする。
「おとな、二部屋。開いてるか?」
ナタリーナが、宿屋の店主に声をかけた。
「は、はい。少々お待ちを」
明らかに、店主はビビっているではないか。
「それと、ごは……食事だ」
「かしこまりましたっ」
あたふたしながら、宿屋の店主が応対した。
「いま一瞬、素に戻りかけたよな?」
「うーせーのだ。黙ってろ」
言葉自体はキツイが、ナタリーナの態度に拒否感はない。
ナタリーナは、「ハンバーグセット」の文字を見てよだれを垂らす。
だが、頼んだのは骨付き肉である。
この世界では、「ハンバーグなんて、乙女の食い物」と言われていた。
女性冒険者は、デザートのプリン目当てで好んで食べる。ナタリーナも、プリンが目当てだろう。
「ハンバーグセットだ」
宿屋の店主に、オレはハンバーグを頼む。
他の冒険者から笑われるが、気にしない。
ナタリーナがギロリと睨むと、他の冒険者共は退散していく。
「キョウマは、そんなにプリンが食べたかったのかー。しかたないなー」
「食いたいのは、お前だろうが。あとで皿を交換してやっから」
「……うむ。よしなに」
こういうやりとりは、一日二日ではない。
オーダーした品を、オレとナタリーナ入れ替える。
「今日の湧き潰し具合は、順調だよな?」
オレはナタリーナと向かい合って、骨付き肉をかじった。
「うーん。難しいのだ。もうちょっとモンスターを蹴散らしておかないと、作業員が安心できないのだ」
添え付けのビーフシチューを食べながら、ナタリーナは思案している。
ナタリーナが魔物退治をする理由は、二つあった。
一つは、ハクスラをすることである。商人の娘として、家業を継ぐだけの生活は耐えられないそうだ。
もう一つは、この世界を線路で統一すること。ドワーフは事業拡大として、鉄道建造に性を出していた。しかし、モンスターとの戦いで鉄道技術は廃れてしまっている。
ナタリーナは単身、この世界に線路を蘇らせるつもりなのだ。そのために、魔物が湧くダンジョンを潰して回っている。
鉄道を広げつつ、ダンジョンで金を稼ぐのだ。
「装備品を売って、お金を貯めている。けど、世界じゅうを鉄道でつなげる旅は、まだ終わりそうにない」
ナタリーナがハンバーグを切らずにフォークで突き刺し、豪快にかじる。これが、ソルジャーの食い方だといわんばかりに。
「だな。お供するぜ」
「お供もなにも、お前のボディーガードがわたしの仕事」
名目上、全世界放浪がオレの目的となっている。
ナタリーナはあくまで、オレの護衛なのだ。ホントは立場が逆なのだが。
部屋に戻って、ナタリーナは風呂に向かった。
「アレから、一ヶ月か」
あいつと旅をして、もうそれくらいになる。
「でもなあ、あいつが信頼しているのは、相変わらず【ブキミ】ししょーの方なんだよな」
ナタリーナが師と仰ぐ【ブキミ】とは、転移前のオレのハンドルネームである。オレは実況プレイだと思いこんで、彼女のチャンネルにアドバイスをしていた。いわゆる『指示厨』だ。その腕を買われて、オレは転移させられたのである。
風呂から上がったナタリーナが、寝転がって鉄板を立ち上げた。
「寝ろよ。明日は速いぞ」
「ブキミししょーと文通してから寝る。おっさんは早く風呂に入りなさい。くせえ」
「ああ、おやすみさん」
脱衣所で、オレはスマホ型鉄板を開く。
『きょうは、ハンバーグと骨付き肉のソテーを、お皿を交換してもらった。なのに、仏頂面で返しちゃった』
オレがナタリーナを邪険にせず、ちゃんとお供しているのは、彼女が真面目な性格だと知っているからだ。
『わたしは、めんどくさいおんな』
ため息をつきつつ、オレは返信の文字を叩く。
『そんなことは、ありません。きっとパートナーだって、あなたのことを大切に思っていますよ』
当たり障りのない言葉を、ナタリーナに返す。
『ありがとししょー。おやすみなさい』
『はい。楽しい話をありがとうございます』
オレは、鉄板を閉じた。
脱衣所から、ナタリーナの様子をうかがう。
「んふふ」
鉄板を抱きしめながら、ナタリーナは眠りにつく。
ひとまず、うまくいったかな。
そう願いつつ、オレも床についた。
今度は、オレが風呂をもらう。
「ぐおお。生き返るな」
桶の風呂に身体を沈めながら、オレはためいきをつく。
「まさかゲームで遊んでいたら、いきなりお姫様の護衛だなんてよ」
ナタリーナは、ドワーフの王国メンディーニの、第一王女なのだ。
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