第二部 シロとクロと兎

 王都から、近くの街へ向かうための街道

沿いの森、そこに白い髪の少年と漆黒の髪の少女がいた。


 「あ! コッチに気づいたよ! シロ」

「あぁ。任せとけ!」

二人に気づいた魔物が、こちらに向かって、飛び掛かって来る。


 「ロックシールド! アンロック!」

シロの叫びで現れた壁は、魔物の突進を防ぎすぐさま、小規模な爆発が起きて消える。


 【固定ノ壁ロックシールド】

自分が視認している空間を、固定するスキル

僕にしか見えない壁が展開され、その空間のあらゆる事象を固定している為、何も干渉

できない盾となる。


 【固定解除アンロック】

固定したものを、解除するスキル。

あらゆる事象を固定しているため、解除すると、固定していた時間に応じて、世界の

修正力がかかり、固定した空間に膨大な力が流れて、副作用で爆発が起きる。


 吹き飛ばされた魔物は、そのまま二人が

仕掛けた罠に掛かって、ロープでグルグル巻になった。


 ハイタッチする、二人。

「やったね! シロ!」

「うん。今日の晩御飯ゲットだな」


 ナイフを取り出して、魔物に近づくシロ。


 「ごめんな。一は全。全は一なんだ」

「なんの話?」

「いや。こっちの話だよ」

「シロの前の世界? また教えてね。それよりもさシロ」

「ん?」


 おもむろに魔物を抱き抱えるクロ。

「この子カワイイ! 私のペットにする。

良いでしょ? クロ」


 またか…


 「ダメです!」

「い〜や~だ~! シロのイジワル! この子は飼うの。 ほら? 見て、こんなに可愛い」

抱き抱えている、ロープでグルグル巻にされたウサギ? らしき魔物を、僕に見せてくるクロ。


 うん。確かに見た目はウサギだが、耳が体と同じぐらい大きく、その赤い目を光らせ、牙を出して威嚇している。

「駄目だ! どう見ても魔物じゃないか?

そいつは今日の晩ご飯だ! それに、昨日も一昨日も同じ事を言っていたが、結局一番食べてたのは、クロじゃないか?」


 クロに、負けじと叫ぶ僕。

「美味しいって、罪なのです...(ジュルリ)」

クロの殺気(食欲)に反応して、より威嚇するウサギ

「シャー!!!」

「あぁ、もう! より暴れてるじゃないか?!」


 森の中で、響く僕とクロと一匹の声。

どうしてこうなった?


 ・・・


 娼館と兵士から無事に? 逃げた僕達は、

クロの言う、帰らなきゃいけない場所を

目指す事にした。


 王都で色々と準備をしたかったが、二人共目立つ外見のうえ、王からの暗殺命令。

あまり長く王都に滞在出来ない僕達は、

ボロボロのまま、爆発の混乱に乗じて、王都を脱出。クロの「なんとなく、あっち!」と言う方向へ、旅をしていた。


 最初は、クロの「なんとなく」に不安を

感じてはいたが、魔物を倒して、その素材で旅の行商人と、靴やナイフ。鞄などを交換し意外と順調に進んでいる。


 そう。"魔物を倒して"だ! 


 クロは、勘が鋭いらしく、魔物の気配を

探れるらしい。それに他の生き物のスキルを見る? 事が出来る。


 多少使えるようになった、僕のスキル

【固定ロック】 このスキルを、クロの情報をもとに、魔物に対しても何とかやれている。


 クロの第六感と、相変わらず使いづらいが僕のスキルで、力が弱い僕達でも何とか旅を続けられているのだ。


 ・・・


 「「いただきま~す!」」

焚き火を囲んで、ウサギ肉? を食べる僕達

どうやら、食欲が勝ったみたいだな。


 「モムモム。ありがとう。シロ」

「ん?」

「私一人だと、こんな風に旅も出来なかったから。本当に良かったの? 私に付いてきてくれて?」


 急にしおらしくなるクロ。 焚き火に当たって、キラキラ光る漆黒の目と相まって、一つの絵みたいだ。なおさら顔の火傷が痛々しい。


 「良いんだよ。誰かの為に、生きるって決めたし。それに気づかせてくれたのは、クロだからさ」

「シロ…」

「それにクロに見てもらわなかったら、僕のスキルも、分からない事だらけだったしね」


 【固定ロック】と、そこから派生したスキルたち。正直僕一人だったら、未だに使えていたかもわからない、スキル。


 「それにさ! 一人より二人で旅した方が楽しいだろ?」

「うん。でも、本当だったら異世界人のシロに色々と、この世界について教えて上げたいのに、私。記憶が」


 そう。クロには過去の記憶がない。

娼館で受けた傷が原因か? はたまたそれ

以外かは分からないが、何も思い出せないそうだ。記憶の影響で職業とスキルも不明のままだ。だからこそ、「なんとなく」でも帰らなきゃ行けない場所に行きたいのだろう。


 「気にしないでよ。それに僕だって追われている身だし、力も弱い。帰らなきゃ行け

ない場所に辿り着けたら、記憶も戻るかも

しれないしさ」

「ありがとう。シロは凄いね! 確かに職業は無いけど、スキルも凄いし、焚き火や罠も作れるし」

「そこは、まぁ、ボーイスカウト様々だな」

「ボーイスカウト?」

「僕の世界での、野外活動を練習する活動の事だよ」

「へぇ〜」


 元の世界で自分の才能に、酔いしれていた僕は、本当に色々な物に手を出していたが、まさか役に立つ日が来るとはな。


 「クロだって、魔物を察知したり出来るだろう? クロがいなきゃ落ち着いて罠や、

キャンプも出来なかったし、本当に助かっているよ」

「エヘヘ。ありがとうシロ。私も凄いのです!」


 うん。落ち込んでいたみたいだけど、少しは元気になったようだ。


 「クロは、凄いよ!」

「そう! 私は凄いのです! だからその肉も渡すのです!」

ん?急に目つきが変わり、今にも飛び掛かりそうなクロ。


 「な! 急にしおらしくなったのは、僕の肉が目的か?」

「シロに感謝しているのは、本当なの。でも肉は別なの! さぁ私に感謝しているなら

渡すのです!」

「ふざけるな! これは僕の肉だ!」


 「キャー!」

「「!?」」


 ギャーギャーと騒いでいた僕達だが、突然近くで女性の悲鳴が聞こえた。


 「シロ!」

「あぁ。テンプレだな」

「テンプレ? そんな事よりどうする?」

「僕達じゃ何も出来ないかもだけど、様子だけでも見に行ってみるか? クロ場所わかりそう?」

「うん。なんとなく、あっち!」


 街道の方向を指差すクロ。

「よし! 案内よろしくね。クロ」

「任せて! 私も凄いのです」


 クロの案内で、悲鳴の場所に向かうシロ。

僕の人生は、まだ平行。





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