第一部 追い打ちと家出

 はっ?! いかん。俺様とした事が少し呆然としてしまった。装備の効果は予想外だったが、まさか断って来るとはな。こうなったら、姫を落として、装備を手に入れるか。


 「しかし姫! 元々優れている俺ならば、きっと。その装備の効果でも、必ず。あなたをお守りする事が出来ます!」


 姫に駆け寄り、少し憂いを帯びた表情で手をとる俺様。 完璧だな!


 「無礼者!」

その瞬間! 王の間に響き渡る、怒声。

「貴様! 転移者で礼儀をわきまえていると思い。話を聞いてやったが、つまらん話しに留まらず、我が娘の手を取るなど言語道断!」


 ッチ。王いや、ジジイがうるさいな? 今はテメェに構うよりも、姫を落とすことが先決だ。

「姫! どうかこの俺に装備をを授けて下さい!」

より熱を込めて、姫を見上げる俺様。

「・・・あなたは、」


 「貴様! この儂を無視するだと?! もう良い。衛兵! この者をつまみ出せ!」


 突如、俺様を姫から突き放し、王の間からつまみ出そうとする衛兵共。

クソ! こんな雑魚にも職業のバフがあるのか?! 元の世界なら、全員ボコボコにしてやるのに!

「待ってくれ! 王よ! 無礼は謝罪する。どうか一度、俺に装備を授けてくれ!」


 「くどいぞ貴様! 貴様に装備をくれてやった所でたかがしれている! 転移者であり、娘の優しさで城から追放されぬ事を感謝するのだな?」

「申し訳ございません。その装備も他の転移者に、お渡しする予定なのです。城での生活は保証致しますので、今の処は、お引取り下さい」

あっけなく、王の間から追放される俺。


 ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!

怒りを抑えきれず、風を切って歩き出す俺。


 あのクソどもが! 俺様の力を確かめもせず断るなど、馬鹿じゃないのか?! 一方的に断ったジジイもだが、あの女も俺様の魅力になびかないとは?! この国の程度が知れるな!


 クソ! まだイライラするな! バカ女(第一話のセフレ)と一発して落ち着くか。アイツの部屋はあっちだったか?


 セフレの部屋の前に来て、そのまま入ろうとした俺様だが、中から話し声と衣擦れの音が聞こえた。


 「ほっ、本当に良いんですか? 君はミッチー君と付き合っているんでしょ?」


 この声は? クラスのオタク共の一人か? 確か【賢者】だか何かの職業だったな?


 「良いのヨ。別に。アイツと付き合ってたわけじゃないし。元の世界だと金もあったし、隣りにいたらチヤホヤされたけど、今のアイツはねぇ?」

「た、確かに今のミッチー君は前とは違うけど。で、でも何で僕なんかに?」

「あら? 可笑しいかしら? アタシ強い男に惹かれるの? ネェ、賢者様♡」


 クソが!


 「おい!」

部屋に怒鳴り込む俺様! 案の定、部屋の中はベッドの上でもつれ合っている二人がいた。


 「うわ! ミッチー君!」

「何よ?もう、」


 【賢者】野郎は俺を見てビビってやがるが、セフレの、ふてぶてしい態度が気に入らない。更にイラつく俺様!

「テメェ! 俺の女に手を出して、ただですむと思ってんのか?」

「ご、ごめんなさい。でも彼女から誘ってきたんだ! 僕断れなくって」

「言い訳してんじゃねぇ! テメェもだ! この尻軽女が!」


 叫びながら、【賢者】野郎とセフレに殴り掛かる俺様! だが、その瞬間ありえない事が起こった!


・・・


 「や、やめてよね? 職業の無いミッチー君が、僕に敵うわけ無いだろう?」

一瞬のうちに、俺様が逆に【賢者】野郎に取り押さえられていた! 


 「クソ。ふざけんな! この、オタク野郎! さっさと離しやがれ!」

「アハハハ! とんだ負け犬ね! 元の世界の頃の見る影もないわ!」

「ごめん。でも、大人しくしていなよ?

僕達が世界を救っておくからさ?」


 あっさりと、部屋から追い出された俺様。部屋にまた入ろうとするも、魔法か何かで扉は開かず、中の音も聞こえない。


 【聖剣】野郎や、クラスの面倒を見てやった奴ら。王や姫に留まらず、あんなオタク野郎まで、俺様を見下すだと! ふざけるなよ!


 「もういい! こんな国。こっちから願い下げだ! せいぜい俺様を見下した事を後悔するが良い!」


 自室に戻り荷物をまとめた俺様は、城から出て行った。

転移者や城の戦闘職共には、通じなかったが、ただの一般市民共になら、この世界でも、元々優秀な俺様の能力なら、通用するだろう。


 「商人でも冒険者でも俺様なら、すぐにのし上がれる筈だ! 革命でも起こして、俺様がこの国を牛耳ってやる!」

城から出て、街の情報を手に入れるべく、酒場へ向かう俺様。(酒場は、定番だろ?)


・・・


 「良いのですか? お父様。あの者を城から出して?」

「ふん! 知ったことか! あんな無礼者。見ろ! 他の転移者達も何も言って来ぬわ!」

「ですが心配です。職業もなく、スキルも心許ないあの者が、生きていけるとは思えません」

「娘よ。そなたは、本当に優しいのう。あんな者、何処ぞで野垂れ死ぬのが、お似合いじゃわ」


 まだ、俺様は落ちる。落ちる。

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