第一部 イライラと希望

 「ぐあぁ! 痛えな!」

「嘘だろ? ミッチーに俺が勝った?」

「オイ!」

「あぁワリぃ」

転移から数日、俺様達は城で、いずれ戦う為の訓練や模擬戦をする日々だ。


 正直ずっとイライラが、収まらない。

今まで何事もトップだった俺様が、【剣聖】だかなんだか知らないが、こんな奴に負けるだと? 城のジジイ共に話を聞くところによると、俺様の元々の力が下がったりしているわけではないらしい。


 そう、職業とスキルだ。

最悪、スキルなんて何でも良いらしい。

問題は、職業だ。この世界では職業によってバフがつく。たとえ【パン屋】や【木こり】でもだ。

しかもバフは足し算ではなく掛け算。

つまり元々の能力に対して、2倍、3倍と

能力値が跳ね上がる。

以前の世界でパーフェクトな能力を持って

いた俺様でも、バフがない状態では、こんな雑魚にも遅れを取ってしまう。

しかも俺様達クラスは勇者召喚により、全員が戦闘職だ。当然バフの数値が高いのも腹立たしい!


 「ホント、すまん。まさか軽く剣を合わせただけで吹き飛ぶなんて思わなくてよ」

【剣聖】野郎が謝りながら、手を伸ばして

くるが、薄っすらと笑っていやがる。

俺様に勝てたのが、嬉しいらしい。

非常に腹立たしいが、今後のためだ。

冷静になり、俺様はいつも通り笑顔を浮かべ手を取り立ち上がった。

「あぁ、すまない。俺も驚いてね! 凄いじゃないか、流石我が校の野球部エースだ!」

「まぁな」

すぐに悪びれもせずに、笑顔になる【剣聖】


 イラ、イラ、イラ、イラ、イラ

少し釘を指しておくか、


 「野球でも体育でも、元の世界だと俺に勝てなかったのに・・・本当に凄いよ」

「確かにな、俺もミッチーに勝てる日が来るなんて思ってなかったぜ! 今なら野球でも勝てそうだ。【剣聖】様々だな!」

「そう、だな。だが仮に俺に職業があれば、俺が勝ってたと思うぞ?」

「そうだよな〜 なんてったって俺らの学校始まって以来の天才だもんな」


 バカなりに少しはわきまえているらしい。

少し怒りが収まった俺様は、自室に戻ることにした。

「少し部屋で休ませてもらうよ、今後のため色々調べておきたいし、スキルも練習したいからね」

クラスのバカどもに伝えて、演習場から立ち去る俺様だが、小声で話す声が聞こえる。


 「職業があれば勝てるかもって、今はやっぱり雑魚じゃねぇか」

「言い過ぎだよ〜、友達なんでしょ?」

「友達? ハッ あいつの周りにいれば色々と得だったからな。金はあるし、女のおこぼれにもありつけた。お前こそテスト前に勉強見てもらってただろ?」

「ミッチーは、学年どころか全国上位の成績だからね、でもさ・・・」

「あぁ、あいつはそう思われないようにしてたみたいだけど、腹立つんだよな。俺らを見下している感じがしてよ」

「だよね~ 先生からも信頼されてたし、頼りにはなるから便利なんだけどね」

「確かに! 便利だったよな!」


 聞こえてんだよ、馬鹿どもが!

またイラつくがまぁいい。

俺様は自室に戻らずに、そのまま王の間に向かった。


 王の間に向かいながら、考えを巡らせる。

職業なし。スキルも今の所使い所が思い浮かばなかった俺様は、軍師のポジションとしてこの頭脳を使おうと思っていた。

だが、この国は、戦争ではなく個々に冒険者グループに分けて、領地を取り戻していく方針のようで、いくら俺様が天才でも、正直軍師の有用性に欠ける。

そんなときだ、ある噂を聞いた。

なんでも王家には代々伝わる装備があり、その装備には職業と同じくバフが掛かる効果があるらしい。


 それだ!


 あいつらバカ共と同じバフが掛かれば、職業がない俺様でも、あいつら

いや、あいつら以上に強くなるはずだ!

元々のスペックが違うからな。


 少しでも俺様の能力を見れば、王共も喜んで装備を寄こすだろう。

これで、【剣聖】や俺様の事を見下しやがったクラスの連中も、また俺様にかしずくはずだ!

ついでに、姫も頂いておくか。


 おっと! いつの間にか王の間まで、来たようだ。さて、いつもの笑顔で・・・


 「勇者召喚。素晴らしい者達が召喚出来たようだな」

「はい。お父様 【剣聖】を始め【賢者】【聖騎士】【枢機卿】それに戦いには消極的ですが、最強クラスの【勇者】 その他の面々も素晴らしい能力を持っています」

「うむ。これで我々人類の平和は、約束されたようなものだ。 だが1人おかしな奴がいたな?」

「ミッチーと呼ばれていた者ですね。 確かに職業もなく、前例のないスキル。しかし、頭は切れる様ですし、彼らの世界では中心人物だったようです。もしかしたらなにか有用性があるかもしれません。」

「娘よ、【聖女】の職業を持つそなたが、誰に対しても優しいのは知っておる。だがな・・・」


 姫はどうやら俺様に有用性を感じているようだ。(俺様に惚れたか?)

問題は王だが、まぁ良い上手く丸め込めるだろう。


 「失礼いたします!」

「ん? おぉ、そなたは確か」

「貴方様は・・・」


 王座の前で、膝を付き頭を垂れる俺様

(偉い連中は、こういうのに弱いからな)

「突然謁見に訪れ、誠に申し訳ございません。」


 「貴様! 無礼であるぞ!」

っチ 衛兵か、面倒だな。

「良い。下がれ。 丁度この者の、話をしておったところだ」

「どうされたのですか?」

しめた!

「ありがとうございます。実は、王に1つ頼みが御座いまして参上致しました。」


 以下略(1時間に及ぶ自分の自慢話と、王家の装備を寄越せという主人公)


 ・・・

「以上の事で、是非私に装備を授けて頂きたいのです。」

どうだ! この俺様の心揺さぶる説得は? これで全て俺様のものだ!


 「それはできぬな」

なに?!

「一体なぜ? 私に装備を授けてさえ下されば、他の者達よりも強く! そして王の力になれるはずです!」

「無理なのですよ。確かに王家に伝わる装備はあります。しかし能力の上がる仕組みは、職業と同じではなく、元々の能力に数値が足されるしくみなのです」


 は?!

「つまり。そなたが装備したところで、多少能力は上がるが、職業のバフには遠く及ばんと言う事だ」

・・・何・・・だと?


 また、俺様は落ちる。落ちる。

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