最終話

「実は女性に不満を持たれているのです。」


「不満ですか?」


「ええ。その···早いとか、ふにゃふにゃだとか···」


この男はバカじゃないだろうか。


こういった機会に望むものがそれですか。


ああ、そうですか。


「それをどうしろと?」


「あなたは髪の毛を錬成できるのですよね?そうであれば、すでにあるものを増強するくらい簡単でしょう?」


おバカ、ここに極まりといった感じでしょうか。


しかし、私はあなたのような男が嫌いなのですよ。


女性や上役に対する敬いがない人間は信用できませんから。


「では、あなたの要望を叶えましょうか。まずは私の目を見てください。」


ちょっとした錬成、とはいっても普通の錬金術士では手に負えない術式を発動する。


「!?」


「あなたに誰にでもできる錬成方法をお教えします。」


「··················。」


私の目を見て虚ろになった彼は黙って頷いた。


「毎日、濡れた麻布でアレを叩きなさい。そうすれば願いは叶います。至高の一物が欲しければ多少の努力が必要なのは明白。大丈夫ですよ。痛いのは最初のうちだけですから。慣れたら渾身の一撃を見舞うとさらに良いでしょう。」


その後、トムグリンのアレがどうなったかは定かではない。


ただ、彼の女遊びは噂されなくなり、真摯に職務に尽力するようになったそうだ。因みに生涯独身を貫ぬき、大公との関係はそのまま続いたそうな。




公領から王都へと戻る道すがら、トゥクトゥは学生時代に思いを馳せていた。


現国王とはもともと友人でも何でもなかった。


むしろ、彼は上級貴族家出身の取り巻きなどとつるんで下級貴族に絡み、イジメなど素行の悪さが目立っていたのである。


因みに、この頃の粗暴な性格は大公の虐待じみた指導が原因だと思われた。


幼少期に暴力を受けたことについては記憶に残っていないようだが、人格形成で悪い影響を与えたのではないかと思っている。演舞会での大公へのカカト落としは、潜在的な記憶が恨みとして行動に現れたのだろう。


田舎の男爵家出身だった私は、そういった波に飲み込まれないよう生活パターンをわざわざずらしていた。


しかし、学内の錬金科で有名になるにつれてちょっかいを出してくる輩が増えていったのである。


実は、私が特級錬金術士となったのは、遠隔による人体部位の錬成ができるからではなかった。


等価交換の法則は物質以外のものにも有効であるとの論文を発表し、その有効性を示した結果なのである。


では、物質以外のものというと何を指すのか。


それは大公やトムグリンにも使った精神作用に関する錬成である。


例えば、正義感や倫理観の低い者にそれを植え付けるには、それをどの程度強くしたいかで本人が持っている別の意識を対価として摩り替えればいい。


それは他人に対する悪意や優越感でもいいし、劣等感や嫉妬心でも問題なかった。


相反するものであろうが、あくまで錬金術の基本は等価交換である。


同じレベルのものどうしなら対価として有効ということだ。


しかしながら、精神の錬成というものは人体部位の錬成以上に禁忌タブーとされ、私が書いた論文や研究レポートは闇に葬られることとなった。


実際には門外不出として一部の者以外が閲覧できないよう保管されているのだが、残念ながら実践できるのは未だに私以外にはいない。


特級錬金術士の地位は口止めの対価であり、かつ錬金術士協会の重役たちの相談役としての立場を意味する。


要は精神錬成について口外せず、上級錬金術士たちの技術向上のために協力しろということであった。


それらに関しては特に問題はない。


特級錬金術士という立場でいることで、様々な研究設備や予算を使うことができるからである。


そんな私がなぜ宰相という立場になったかについては、学生時代のまだ未熟だったころの錬成の失敗に起因している。


錬金術士としての腕前に目をつけた今の国王陛下が、私を強引な方法で自らの派閥に入れようとしてきたのだ。


そこで精神の錬成を研究していた私は、彼にそれを施してしまった。


結果は失敗に終わり、いろいろと欠如した人格ができあがってしまったのである。


今の国王陛下の常軌を逸した言動や行動はそのせいだと思われた。


だからこそ彼の即位に助力し、また国政で混乱や無用な犠牲者が出ないように私が宰相となり実権を握ることにしたのである。


それが正しいことかと問われれば、はっきり言って肯定はできない。しかし、せめて多くの人々が不幸にならないように尽力したいと思っているのは正直な気持ちなのである。




「ハゲろ、蛮族テロども!そして醜い裸体を晒し、王国軍に下るといい!!すっぽんぽんポンッ!!!」


宰相は国に叛逆する蛮族テロどもを制圧するため、今日も無駄にレベルの高い錬金術を行使していた。


「髪はカツラに、衣服は古着にそれぞれ錬成して孤児院の運営資金のために役立てましょう。全裸でも逆らえる方は躊躇わずに一掃してください。それ以外の者は、面談の上で強制労働送りから一般労働者としての投与を検討といったところでしょうか。」


後に語り継がれるこの稀代の宰相は、特級錬金術士としての技量を惜しみなく使うことで在任中の争いやその犠牲者を最小限に抑え、王国史上で随一の平和を司る為政者と讃えられている。


いわく、奪毛だけで敵を屈服させて争いごとを無血で終わらせる辣腕ぶり、そして国の人々の安寧のために生涯尽力した聖人君子として。



ハゲ無双

~違う、ハゲが無双するんじゃない!ハゲで無双するんだ!!~





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編八話完結】ハゲ無双! ~違う、ハゲが無双するんじゃない!ハゲで無双するんだ!!~ 琥珀 大和 @kohaku-yamato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ