第7話

「裕福な方たちって、おデブさんが多いじゃないですか。」


「裕福というと、貴族や商人のことか?」


いきなり話が飛んだように思うが···


「おデブさんの存在そのものが悪だとは思いません。ふくよかな丸みが優しいイメージを醸し出すこともあるので、その人の人間性を良い風に形成するものでもあります。ああ、逆も然りですが。」


コイツ、遠回しにデブをディスってやがる。


ハゲの次はデブをターゲットにするというのか···


「しかし、やはり体につきすぎたお肉というのは健康を害し、異臭を放つことも稀に観測されております。ということは、スリムになりたいという方々も多いのですよ。」


「何が言いた···まさか!?」


「ええ、そのまさかです。痩せたいと希望された方々から、標準的なボディサイズに留める形でお肉···まあ、脂肪ですが、拝借させていただきました。」


「それを···エルフの胸に移植したというのか!?」


「髪なら移植という言葉でも間違いはないと思いますが、正確には錬成したということです。そのままの脂肪では形が崩れたり触り心地に難がありますから。」


「デブを集めてエルフの里に出向いて、そんな大掛かりな錬成を行ったと?」


「いえいえ。おデブさんたちには普段通りの生活をしてもらい、遠隔で脂肪を吸引させていただいたのですよ。中には急に痩せてズボンがずり落ちた方もいらっしゃったようですが、そこまでは責任持てません。」


ハッハッハと笑うコイツを見て、胸を鷲掴みにされたような苦しさを感じた。


錬金術とはそんなことまでできるというのか!?


人としての所業を超えて、空間や次元にまで干渉しているのではないか?


「それは···錬金術というよりも、空間や次元を操るようなものではないか···貴殿は一体···」


「あれ、ご存知なかったですか?特級錬金術士ってそういったものですよ。」


「あ、ああ。そうだったな···史上初の特級錬金術士となったのが貴殿だとは聞いていたが、まさかそんなことまでできるとは···」


この男は絶対に敵に回してはいけない奴だ。


私は凄まじいまでの悪寒を感じたのだった。




「宰相閣下、お待ちください。」


大公の屋敷を出ようとすると、家令に代わって見送りを申し出たトムグリンという側近が私を足止めしてきました。


「何か?」


「実は、折り入ってお話がございます。」


この男は確かどこぞの伯爵家出身でしたね。


派閥の関係から大公の側近にまで何とかくい込んだちょっとした切れ者だと聞いています。


「簡単に済む話でしょうか?」


大公の側近でありながら、上を通り越して話をするのは感心しません。


それに、あの演舞会の事件も、この男が大公の傍を離れたからややこしいことになったはずです。しかも席を外した理由が女性絡みとか。


「少しだけお時間をいただければ···大したお手間は取らせません。」


「ふむ、十分程度ならかまいません。」


「ありがとうございます。ではこちらへ。」


この男も自分が中心に世界が回っていると考えるクソボンボンだと暗部から報告は受けていました。


よい機会です。


この方にも意識改善 ・・・・してもらいましょう。


玄関近くの応接室に案内されてソファに腰をおろすと、お茶も入れずに彼は対面に座って話を始めました。


「実は宰相閣下にお願いがございます。」


「何でしょうか?」


身を取立てろだとか、実家をよろしくなんていう懇願はいつもことです。この男も同じでしょうか。


「あなたが稀代の錬金術士であることは存じています。そして、先ほど大公閣下の髪を発毛されたことも。」


「盗み聞きですか?感心しませんね。」


「あなたは大公閣下を味方につけるために自作自演をされた。」


「自作自演?」


「ええ、大公閣下の髪を奪ったのはあなただ。」


その話は既に終わっていると思うのですが、もしかすると何か確証でもあるのでしょうか。


「証拠は?」


「あなたが今の立場になられたときから大公閣下は髪が抜け出しました。そして、同時に体毛が濃くなっていった。錬金術では等価交換として対価が必要ですよね?」


「ほう、髪の毛と体毛を交換させたと?」


何のことはない。


状況証拠からの発言にすぎないようです。


「それだけであなたの不信感は広まりませんか?」


浅はかな考えです。


何より、上役たる大公を貶めることになる。さらに、彼が大公の体毛が濃くなったのを確認できる立場にいると明言しているようなものだ。


そう、大公は近年に至ってから男色へと転向したのである。トムグリンは身を売って今の立場を手に入れたとも報告されている。


「あなたの望むものは何でしょうか?」


そう聞くと、彼は勝手に勘違いしたのかニヤリと笑いました。




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