第6話
「ず、ずいぶんとチリ毛だな···」
そこまでは知らんがな。
髪を錬成したときのケトル大公の第一声である。
「今の髪の長さですと、極東の任侠道で流行りのパンチパーマというやつですね。貫禄があって素晴らしいと思います。また下の毛が生えてきたら等価交換で伸ばしましょう。そうすればラテン系民族のジゴロがよくするソバージュ、さらにチリチリを強烈にしたボンバヘッドと呼ばれるアフロにすることも可能です。」
そう、髪の毛を錬成するための対価は体毛である。その中でも、ある程度の長さを確保できるものはやはりチリチリ度合いが大きいのだ。
「それはカッコイイのか?」
「いずれもワイルド&タフなイメージで、同性異性問わずにモテます。」
「ふむ、それは楽しみだ。」
大公は髪の毛が増えたことに興奮しており、それまでの警戒心など失念してしまったかのようだ。
まあ、それがこちらの狙いであったため、上手くいったといえよう。
大公はこちらの味方にしておいて損のない人物だった。
因みに、先ほどまで「自分をハゲさせたのはおまえか!」と疑われていたが、実は犯人は私である。味方に引き入れるために弱みを掴むとすると、髪の毛というのは想像以上に強烈な人質となるのだ。
「せっかくの機会だからもうひとつ聞いておきたい。君は戦時中にエルフやドワーフなどの亜人と交渉して停戦協定を結びつけた。あれは、もしかして錬金術を駆使したのではないのかね?」
「ああ、さすがは大公閣下ですね。バレましたか。」
「やはりか。だがそうは言うが、彼らはプライドが高い。それに我々ヒューマンと違ってハゲている者などいないと思うが···。」
「逆ですよ。」
「逆?」
「彼らにはハゲてもらいました。いや~、獣人族などは体表で露出している部分の毛を根こそぎなくしましたから、随分と様相が変わってしまいましたがね。」
悪魔かコイツ···
やはり私をハゲさせたのはコイツではなかろうか。
「しかし、エルフやドワーフなどはその程度では応じなかったのではないか?むしろ反感を強めたのではないかと思うが···」
「エルフとドワーフは対抗意識が強く、それぞれに身体的特徴を誇りにしていますよね?」
「う、うむ。」
彼らにとって、例えばエルフの長耳やドワーフの髭などはアイデンティティそのものといえるものである。
「あれを等価交換しちゃいました。」
ハハハと笑う宰相だが、私には意味が理解できなかった。
「ドワーフを長耳にして、エルフに髭をたくわえさせて体格も交換。あと、酒に強い体質も入れ替えたのですよ。」
想像したらとんでもない事である。
すでに何族かわからない。
プライドの高い両種族にとって、それは自らの血統を否定されるようなものではないのだろうか?
いや、本当に悪魔かコイツは···
「それをネタに脅迫して停戦協定に無理やりサインさせたということか。それは相当な恨みを買っているのではないか?」
今後、彼らがタイミングを見て我が国を狙ってくるのは必然だろう。プライドの高さはそれだけの軋轢を生むということがわからんというのか。
「ああ、そこはご心配なく。ちゃんとケアは完了しています。」
「ケア?」
「彼らにも口には出さないものの、潜在的な葛藤や要望はあるのですよ。」
「どういうことだ?」
「例えば、ドワーフは鍛治に関して並々ならぬ技量を持っていますよね。」
「うむ。」
「しかし、身の丈が小さいことで難しい作業や造作というものは当然あるのです。」
「···貴殿、何をした?」
嫌な予感がひしひしとする。
「ドワーフの平均身長を35センチメートルほど引き上げました。」
「な···」
ドワーフの平均身長は140センチメートルくらいだったか···こやつはなんということを···
「因みに、エルフは抜群の美貌を持つことで有名です。」
「そ、そうだな···」
こいつ···まさかエルフの身体までいじったのか?
「しかし、悲しいかな胸がツルペタなのが種族の特徴として悲観にくれる女性も多かった。」
「そ、それで?」
「もちろん希望者にだけですが、バストサイズを15センチメートルほど引き上げました。カップは平均Cで。」
魔改造じゃねぇか!?
大丈夫か?
神をも冒涜する所業に感じるが···
「人体の錬成は禁忌ではないのか?」
「それもご心配なく。ドワーフやエルフに錬金術は使えません。当然のごとく、彼らが信仰する神にも人体の錬成などという概念はないため、禁忌どころか倫理的にも大丈夫です。」
「そ、そういうものか。しかし、エルフはスレンダーなのに胸だけとか、バランスが悪くはないのか?」
「その辺りは抜かりありません。ヒップラインもしっかりとフォローしてあります。」
「錬金術は等価交換だといっていたが、その対価はどうしたのだ?」
まさかこやつ、人体に錬成を施すために多くの人間の命を弄んだのでは!?
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