第7話 異世界転生四回目──道具屋×チートスキルの場合2

 道具屋の息子としてわたしは九歳になりました。最長生存記録更新だね。

 スキルも幾つかレベルアップして、交渉術が追加された。真面目に仕事手伝ってるんでね。今のスキルはこんな感じ。


【言語3】UP 【インベントリ3】UP 【毒耐性2】 【並列思考1】 【不浄耐性1】 【アレルギー耐性1】 【鑑定4】UP 【採取2】UP 【咬撃耐性1】 【跳躍2】UP 【算術1】 【交渉術1】NEW


 跳躍スキルのレベルが上がってるのは、たまにセミョン君に付き合って森で修行の手伝いをしているからだ。そして、その帰りについでに薬草とか蜜を取って帰るので採取スキルも上がったみたい。

 数値で成長を感じられるのはモチベーションの維持に繋がっていいよね。レベル上げ楽しいです。年単位で掛かるから地道ではあるけどね。


 死亡フラグとか思ったけど、戦争の噂は噂でまだ何事も起きていないみたい。でも、徐々に噂を聞く回数が増えてきていて、いつ始まってもおかしくない雰囲気になっている。実際、増税はされたらしく、噂と相まって、ここ二年は町の人達がどんどんピリピリしてきて余裕がなくなってきている。

 国境沿いの辺境伯領にはどんどん戦力が集まっていってるという話で、確かに最近は冒険者達の流れも辺境伯領の方向へ向かう人が多い。その影響か、うちの道具屋に立ち寄った冒険者も薬草や清潔な布など怪我すること前提の物を買って行くことが増えた。

 それもあって、わたしは薬草採取に森に入ることが許されているんだ。採取スキルもあるし鑑定も使えるから、他の人が行くよりいっぱい取ってこれるからね。スキル持ちだと噂されてるみたいだけど、わたしは何も語らずスルーしている。

 セミョン君は護衛という名目でいつもついてきてくれている。ただ単に森に入りたいだけとかセルゲイさんに言われてるけど、わたしが採取してる間、ホントに魔物から守ってもらってるから、ちゃんと護衛してくれてるんだけどね。因みにセミョン君は、燃えるような赤髪にセルゲイさん譲りのターコイズブルーの瞳。それだけで強そうだよね。

 前の転生の時にわたしは幼い時に森に入って森狼フォレストウルフに食い殺された記憶があるから、一人で森に行くのは不安だったりもするんだよね。だから正直わたしとしては、セミョン君が一緒に来てくれるのは安心できるしとても助かってる。一人で行ってたらまた死んでたかもしれないし……

 だから、証拠の意味も込めて角兎ホーンラビットの肉とか手土産に持って帰ってるんだけど……それでもセルゲイさんとヤナさんからは信用がないみたい。どうせごっこ遊びだって言われて、わたしに迷惑をかけないようにと毎回注意されてる。確かに、薬草採取は半日で終わるところセミョン君に連れられて一日仕事になってしまってるのは、わたしの邪魔してると言われても仕方ないかもだけど。

 わたしもセミョン君に流されてる訳じゃなくて、ちゃんと良いことにはお礼を言ったり、悪いことには怒ったりしてる。だから、セミョン君との関係は悪くないと思ってる。

 この前森に入った時には「オレを分かってくれるのはお前だけだよ」なんて言ってたし、信頼は得られているんだと思う。ところで「お前の顔ってキレイだよな……そのキレイな顔に傷一つ付けずに連れ帰ってやるからな」ってのは「しっかり守ってやる」って意味だよね?


 そんな感じで、戦争の不穏な空気を感じながらも、わたしは今世を順調に成長しながら平和に生きていた。このまま平和に続けばいいなと思いながら。

 でも、わたしの思いに反して、戦争は起こってしまった。

 起こるまでならまだ平和でいられたかもしれない。

 国境で行われた戦争は、どちらも敵の裏をかく作戦を展開して、戦線は国境だけで留まらず、お互い敵の領地に兵力や密偵を送り込んで戦線を拡大させていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 十歳になった頃にそれは起きてしまった。


 戦争が始まってからも、道具屋は最前線に向かう人と逃げてくる人どちらもが訪れて繁盛していた。

 場所が良かったんだと思う。

 戦線に近過ぎず、どちらに向かうにしても中継点として補給して行きたくなる位置だったんだろう。

 だからこそ、戦争を感じながらも戦いからは遠いところという認識で、町のみんなもピリピリしつつもそこまで危険視はしていなかった。


 その日もわたしはセミョン君と一緒に薬草を取りに行っていた。

 今日はいつもと森の様子が違って魔物がピリピリしていた。(セミョン君がそう言ってた)

 だから、いつもは弱い魔物しかいない森の浅い場所で、オオカミに遭遇してしまった。

 セミョン君の指示でわたしは跳躍スキルで木に飛び乗って、彼が森狼を倒してくれるのを待った。森狼にトラウマがあるから、わたしはセミョン君を心配しながらも恐怖に震えているだけで何も出来なかった。

 森狼は二匹、連携してセミョン君の隙や死角をついて攻撃してくるものの、セミョン君は上手くかわして、逆に飛び掛りで無防備になった森狼を何度も木剣で打擲ちょうちゃくしていた。九歳にしては圧倒的に強いと思う……ちょっと感動してしまった。上から見る赤髪が頼もしかったよ。

 魔物は総じて体力が高く打たれ強い。それでも、長い間戦い続けてセミョン君は森狼を撃退してくれた。純粋に凄いしお陰で助かった。


「セミョンはめちゃくちゃ強いよね! いつも付いてきてくれてありがとう! 今回は来てくれてなかったらホントに死んでたと思う」


 これ以外にも褒めちぎってお礼を言ったら、セミョン君は顔を自分の髪色ぐらい赤くして震えていた。わたしからはいつもお礼言ってるけど、大人からは悪ガキ扱いだから褒められ慣れてないもんね。こんな反応になるのも仕方がない。


「いや、お前に怪我がないなら良いんだ」


 なんて紳士なこと言ってる九歳男子が可愛らしい。こんな姿を見たら町の女の子がほっとかないぞ? これだけ頑張ってるセミョン君はモテモテになって報われて欲しいと思うよ。

 からかうのは可哀想なので、大人なわたしはもちろん余計なことは言っていない。今は純粋に自分の強さを誇って欲しいと思う。

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