第6話 異世界転生四回目──道具屋×チートスキルの場合1
それで? どうなったかって言うと、公爵転生の後も二回異世界の生活を失敗して早く死んでしまって、現世でも最後の二・三年を二回繰り返してました。
「チート能力があるのにちょっと簡単に死に過ぎじゃないですかね?」
いえ女神様、そうは仰いますが不可抗力だと思うのですよ、わたしは。
寝てる間に吸血ダニに刺されてアナフィラキシーショックで死んだとか、ちょっと歩けるようになったからって幼稚園入る前ぐらいの子供を魔物の出る森に薬草採取に行かせて魔物に齧られて死んだとか、防ぎようがないでしょ!
「イージーでなかったことは認めましょう。でもマストダイでもインフェルノでもルナティックでもインポッシブルでもなかったですよ?」
まだ転生初心者に、やり込んだ人でも苦労するようなレベルと比べないで!
せめてノーマルモードでお願いします……
「そうですね、ただわたしもどうなるのか予想がつかないので……結局適当に選ぶ訳ですが」
公爵家次男、農家の六男、猟師の長男とバリエーションは多いもんね……次こそはもうちょっと生き残りたい。
「では、お生きなさい。また現世に生くときお会いしましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして時は流れ、現在わたしは異世界で七歳、意識が覚醒してから五年以上経っている。既に最長記録だ。
今回は王都と地方を繋ぐ街道沿いにある町の道具屋の息子。親曰く「宿屋が二軒もあってひっきりなしに客が来るんだから栄えてる町」らしい。かなり地方寄りだけど、隣国へも続く街道沿いなので人の出入りが多く、親のお店は繁盛しているようだ。実際、客の出入りは多いし、冷やかしの客はおらず大抵は何かを買っていく。なので、お店は忙しく、子供でも使えるものは使いたいようで、わたしも店の手伝いをしている。
子供の割には働いてる方だと思うよ? 中身は大人だし。
そして、現在のスキルはこんな感じ。
【言語2】【インベントリ2】【毒耐性2】【並列思考1】【不浄耐性1】【アレルギー耐性1】【鑑定3】【採取1】【咬撃耐性1】【跳躍1】【算術1】
並列思考と不浄耐性とアレルギー耐性は二回目の転生で得たスキル、鑑定と採取と咬撃耐性が三回目の転生で得たスキル、跳躍と算術が今回得たスキルだ。
スキルは使っているとレベルが上がる方式らしく、言語はこっちの世界の言葉を長く使ったから上がったみたい。インベントリは物を出し入れしてたら上がるっぽくて、鑑定は道具屋だから物がいっぱいあったから片っ端から鑑定してたら上がってた。
インベントリに並列思考に鑑定って、この世界では珍しいスキルでチート能力っぽいのに、これで生き残れないってよっぽど運がないよね?
スキルがバレたことで命を狙われたのは最初だけで、あとの二回はスキル確認の儀式を受ける前に死んでるから……周りの人は誰もスキルがあることを知らなかったはずなんだよね。
そして今回、そもそも平民はスキル確認の儀式をなかなか受けないっぽいことが分かった。国によって違うかもしれないけどね。
「ジーニャ! 至急の配達だ! セルゲイの宿屋に薪二十束持って行ってくれ!!」
考え事をしていたら、父親からお使いの仕事を投げられてしまった。扉から朽葉色の癖毛に濃紺の目がこちらを覗いている。
父親の名前はジノヴィエフで、母親の名前はターニャ。両親から名前をとってわたしはジーニャになったみたい。可愛らしい名前で良いけど、女性名じゃないの? いや、良いけど。
そんなことより、仕事仕事。
台車に薪を積んで店の表に向かえば、一人の女性が立っていて、申し訳なさそうにわたしを見ていた。
「ジーニャちゃん、ごめんなさいね……あなたは小さいし、こんなに可愛いのに、荷物を引かせてしまって。重いでしょう? おばちゃんも腰が悪くなかったら自分で引いていくんだけどね」
おばちゃんと自分で言ってるけど、二十歳半ばに見える朝焼け色の髪に鳶色の瞳の美しいお姉さんだ。通算年齢で六十歳になるわたしから見ると充分若い女性だね。彼女は宿屋の女将のヤナさん、つまりセルゲイさんの奥さんということ。これでも一児のお母さんだ。
「仕事なんで気にしないでください」
薪一束約十キログラム。二十束なのでだいたい二百キログラム。総木製の台車で運んでいるとはいえ子供には重いよね。【身体強化】とか手に入らないかな……
とはいえ、よくやってる事だから慣れたものだ。今は秋だからマシだけど、冬ならもっと大量の薪の注文を受けることもある。
「ジーニャちゃんはホントに良く出来た子よね。それに比べてうちのバカ息子はどこに行ってんだか」
ヤナさんは普段は丁寧な喋り方なのに、息子の話になると口が悪くなるのが特徴だ。優しげな顔が鬼の顔になるのも特徴……これは本人には言えないな。
そしてそのバカ息子とはセミョンという名前でわたしと同い歳。悪さをしてる程ではないけど、この世界では家の手伝いをしないから悪ガキ扱いだ……現世のように子供みんなが遊んでられるのは豊かな国の証拠なんだろうね。
ちなみにセミョン君は「オレはスゴい冒険者になるんだ!」と豪語してるので、今は村の近くの森で木剣でも振ってる頃だろう。今の年齢でホーンラビット程度の魔物は倒せるようになってるらしいので、素質はあるんだと思う。
取り留めのない世間話という名のセミョン君の悪口を聞きながら、宿屋の勝手口に到着。
「ジーニャか、すまんな。半分はキッチン横に半分は倉庫だ。倉庫の分運んでくれるか?」
勝手口から煉瓦色の髪とターコイズブルーの目をのぞかせたセルゲイさんが、心苦しそうに聞いてきた。セミョン君とわたしは小さい時から一緒に遊んでる仲だし、自分の息子は今も遊んでいるのに、という思いがあるんだろうね。
「はい、お渡しするまでが仕事ですから」
貿易用語的にはわたしの担当分は倉庫渡しってやつだね。セルゲイさんが運んぶ分は船上渡しかな? 定義はなんでも良いんだけどね。昭和の酒屋さんもお酒を家まで運び込むのが仕事だったし、こういう世界では良くあることだと思う。
ということで、さっさと運び込んで報告に戻ったら、焼き菓子を頂いてしまった。お駄賃というやつだね。名前は知らないけど小麦粉とシナモンと蜂蜜とリンゴで作られた甘みのあるお菓子だ。ここでは砂糖をあまり見かけないので、甘みのあるお菓子は素直に嬉しい。
どうやら緊急納品となったのはキッチンで使う薪だったみたいで、すぐに薪を持ってきたお陰で火を切らさずに済んだ、ってセルゲイさんが言ってた。
ほんとはこの仕事は、セミョン君が森にいる木こりさんの所から買ってくる予定だったんだけど、たぶんお使いも忘れてそのまま森で遊んでるんだろうってことらしい。
帰ってきたらこっ酷く怒られることだろう……一緒に遊んで怒られたことがあるから、この二人が怒ると怖いことをわたしも知っている。触らぬ神に祟りなしだよ。
「ついでに伝言……というか客から聞いた噂をジノヴィに教えておいてくれ」
ジノヴィとはうちの父親のあだ名、親しい人たちからはこう呼ばれてる。ジノヴィエフって長いもんね。
「どうやら、最近隣国と戦争が起きそうな噂があるとか、そんな話をしてたって……信じていいか分からんのだけどな。物が入り用になるかもしれんから道具屋としては準備も必要だろう」
え……そうなの?
国境すぐ近くではないとはいえ、国が戦争を始めて影響がないわけがないよね。徴兵とか物資の供出とか。影響は道具屋に限った話じゃないよ。これは大事な情報だね。
「わかった! ありがとう、伝えておくね」
戦争ってまた死ぬフラグじゃ? と思い至って、わたしは自分の運の悪さを感じながら、お礼を行って宿屋を後にした。
余談だけど、セミョン君は夜に薪も持たずに帰ってきて、予定通りこっ酷く怒られたらしい。
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