第2話 転生のルールとハッピーエンドの定義


 そしてどのぐらい寝たのか分からないぐらい寝て、スッキリ目覚めても、周りは一切変わっていなかった。

 素直に受け入れたくない現実。


「ありがとうございます……はぁ……ありがとうございます……」


 わたしを拝み倒してくる腐女神。

 でも、思いっきり泣いてスッキリはしたので、極まったオタクの話も聞けそうな気がしてくる。

 それでわたしは何をしたらいいの?


「ん、んんっ! わたしはハッピーエンドが好物なのです」


 無理だった……話が進まない……

 あなたの好みはこれ以上聞いてもしょうがないです……


「重要なことなのですよ? 今回の転生と密接な関係にあります。なぜなら、わたしが好みで転生者を選定して、好みで転生の方法や期間を決めるからです」


 職権濫用じゃない?


「全て自分の裁量に任されてますので」


 誰だ、こいつを転生の女神に選んだの!


「神と呼ばれる存在ですね。因みにあの方もBLを嗜んでらっしゃいます」


 ダメだこの世界……終わったー……お疲れ様ー


「神の望む世界は多様性が認められた世界なのですよ。色んな嗜好を持った方々が転生を司ってますから大丈夫ですよ」


 こんなのしか居ないのかと思って絶望しちゃったじゃん!

 色んな趣味の人がそれぞれ選んだら、平均化されるってことかな……で、少なくともわたしはBL好きに受ける感じだと?


「先に進んでも?」


 あんたが言ったんだろ! スルーするなよ!


「とにかくですね。わたしはハッピーエンドのBLが好きな光の女神なのです」


 光の女神ね。闇とか黄昏に好かれなかっただけ良かったと思おう。


「はい、なので、あなたには彼と幸せになってもらいます」


 そこは決められちゃうんだ……他の人と幸せになるのはダメなんだね。


「あなたが彼を好きになってしまった時に、わたしはあなたに目をつけてしまったのです。あなたが始めてしまった物語なんだから、ちゃんと彼とハッピーエンドにならないとダメでしょ?」


 世の中には初恋が叶う人の方が少ないって聞きますよ?


「叶った方が幸せでしょ?」


 え……あ……はい……それは、まあ、そうですね。

 ほかの幸せもあるとは思うけど。多様性はどこ行った?


「それはもうすでに体験したでしょ? あなたの死を持って最近終わった物語として。なので、彼とハッピーエンドになる過去と未来も多様性ですよ。少なくとも、あなたの死でひとつの物語が終わってしまうより、多様な世界が広がるでしょ?」


 なんか言いくるめられてるような気がしなくもないけど、42歳で死んで終わりよりは多様性があって、わたしには確かにありがたい話か。

 それにハッピーエンドになることを望んで無いわけでもないことを、寝る前に自覚したわけだし。ラッキーだと思って受け入れようかな。

 それで? 子供の時に戻ってやり直せるとか、そういう感じ?


「そういう感じなのは間違いないですが、ちょっとルールが複雑です。覚えなくても勝手に実行されるから気にしなくても良いですよ」


 いや、不安の残る言葉でしょそれ。

 転生のルールとはなんぞ?

 チートスキルがもらえるけどこの世の悪を倒せみたいなそういう系かな?


「いえ、悪を倒すような決められたことはありません。転生のルールは、まず、この後あなたは記憶を持ったまま異世界に転生してもらいます」


 えっ!? 彼との幸せがどうとか言ってたのに、異世界なの?!


「まあまあ、最後まで聞いて下さい。異世界に転生してあなたが意識を持ってから過ごした年数分、こちらの世界の時間が巻き戻ると思ってください。厳密に言うと、別時間軸の並行宇宙になるだけなので、あなたが生きた歴史が無くなるわけじゃないです。あなたがこの世界に戻った時点で、あなたの歩んだ歴史の時間軸と新しく歩む時間軸に分かれると思って下さい」


 わたしが過去に戻ったからって今の嫁さんが消える訳では無いということだね。

 それで、そのシステムだと、子供の頃に戻ろうと思うと30年は異世界で生きないといけないということだね?


「そうです、理解が早くて助かります。そして、異世界で死んだら、こちらの世界の巻き戻った時間のあなたに転生し直します。異世界で覚えたスキルや魔法などを持って」


 スキルや魔法!? 異世界転生の定番だけど、それを現実世界に持って帰っちゃって良いの??


「スキルや魔法と言いましたが、あなたの生きていた時間の五千年ぐらい未来では科学で実現されて、みんながその恩恵を受けてますので、少し先に使えるようになるというだけです、問題ないです」


 五千年が、少し先……時間感覚が……億単位で生きてるなら仕方ないか……


「わたしはあなたと彼とのハッピーエンドが見たいんです! そのためならスキルや魔法が多少あっても良いんですよ。ハッピーエンドが見られるまで何度もやってもらいますからね!」


 キャラクター愛し過ぎた厄介ファンみたいなこと言ってるよ……オリジナルに自分の望む展開を求めるの? 自分の妄想じゃ満足出来ないの? 同人誌じゃダメなの?


「わたしがそんなことしたら、あなたや彼や関わる人の意思に関係なく強制的にそうなっちゃうじゃないですか? あなたの言うところの女神なのですから、人の運命をちょちょいと操っちゃえますからね。それだとわたしは感動できないんですよ。わたしは、本人たちが自主的に困難を乗り越えてたどり着いたハッピーエンドに感動を覚えますのでねー」


 自主的の意味がわたしとは違うような気がするね。これ以上言っても仕方が無いのでこの話は受け入れるけど。

 ところで、ハッピーエンドが見られるまで何度もって、どういう事?


「言葉の通りですよ。ハッピーじゃない二人の終わりだった場合、あなたはまた異世界に転生して時間を遡ってやり直すってことです」


 ここが無間地獄だったか……


「苦痛だけではないので無間ではなく無限の方が近いですよ? 更に言えば、明確にハッピーになるまでとエンドが決まってるので有限です」


 地獄は否定しないんだ……

 いやでも、スキルや魔法で無双出来れば悪役令嬢でもハッピーエンドになれるのでは?


「ええ、そうですそうです。俺TUEEEEして頂ければ道理NLが引っ込んで、無理BLが通ります。わたしも楽しめるというものです」


 今、不穏な読み方されたような……?


「気のせいです」


 彼以外だとBLでもハッピーエンドではないって仰いましたよね?


「それはそれで、これはこれなのです。寄り道は人生を豊かにしてくれるのですよ」


 もしかして地獄ってそれ……? わたし死ぬ前は嫁さんがいたぐらいなので、基本的にストレートですよ? 彼だけはなんかよく分からないけど好きなだけで……


「キャー! ノロケだわ〜!」


 いや、全然ちゃうし! 他の人とのBLは一切望んでないってこと言いたいだけだし!


「これからあなたには様々な出会いと別れがあるでしょう」


 スルーしていきなり真面目モードになるやん?


「話したいこと話しましたのでそろそろ送り出そうかと」


 自由やねー……


「自由の女神ですね」


 自由女神ね。


「では、そろそろ次の生へお生きなさい。あなたとあなたを巡る方々がハッピーエンドに至れることを祈っております」


 あ……はい……行ってきますね……


 そしてわたしは次のことを考える暇もなく、光に包まれて意識が遠のいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る