第3話 異世界転生一回目──高位貴族×チートスキルの場合
なんだか腐女神様に他にも聞きたいことがあった気がするけど、聞けないまま追い出されたような……そんなことを思いながら、わたしは目を覚ました。
どうやら転生は成功してわたしの意思が覚醒したみたい。
ここはどんな場所なのだろうか? わたしはどんな状況なのだろうか?
目を開けば見知らぬ天井と思いきや大きな布だった。立って手を伸ばしても届かないような高さに張られた布が、カーテンのように左右と足元に垂れ下がっているベッド─いわゆる天蓋付きベッドのようだ。
これは貴族の予感!? しかもかなり爵位が高そう! チート転生が期待できるんじゃない?!
待て待てわたし、まだスキルを見ていないから、チート転生を期待しちゃいけないよ。スキル次第では追放系かもしれないし。
こういう時は基本のステータスオープン?
おっと、頭の中に情報が流れてくるタイプか。
ふむふむ、力とか体力とか比較対象がないからスルーして、お目当てのスキルは?
【インベントリ1】
ひゃっほ〜い!!! これは勝ち組決定じゃない?! 運搬チートでぼろ儲けでしょ? たとえ追放系でも、これは未来を約束されたようなもんだよね〜 いやぁ、良かった良かった。
40年生きて帰れば一旦やり直せるんだから、これは今から現実側でどうするかプランを考えてたら良いんじゃないかな?
ふふふふふふふ……
「坊っちゃま、お目覚めですか?」
カーテンの向こう側から声が掛けられた。お年を召した女性の声──恐らく乳母かな?
自分の手を見れば、かなり小さく丸々としてはいるけれど乳離れは済んでいそうな気がする。恐らく2歳ぐらいかな? だから声の主は初期教育係としての乳母だと推測するね。
返事をしようと声の方に寝返りを打つと、すぐにカーテンが開けられた。起きていることを気配で察したのだろう。
予想した通り、お年を召しているけど背筋の伸びた女性が覗いていた。くすんだ金髪に優しそうな琥珀色の目。だけど良い悪いをしっかり伝えてくれそうな厳しさも持った印象を感じた。厳しすぎるでもなく甘すぎるでもない、程よい知識を与えてくれそうで、この世を生きていく上で非常に助けになりそうだ。
「うー……ばー……?」
口を動かしてみたものの、上手く言葉にできない。
やはり成人男性と乳幼児では筋肉や脂肪が違いすぎるだろうからね、前世の感覚で動かそうにも上手く動かないんだろう。そもそも言語を知らんけど……
【言語1】
突然頭の中にフッとスキルが
女神様仕様たいへん助かります! いやー、こんな簡単にスキルも手に入っちゃうなら、いや参ったね、これは無双よゆーですわ。
「坊っちゃま! はいはい、そうですよ、あなたの乳母のマデリンですよ」
おお! 呼び掛けたら満面の笑みで自己紹介してくれた! わたしはまだ喋ってない系男子だったのかな?
だったら呼び掛けられたら嬉しくなっちゃうよね! 転生前に子供いなかったから知らんけど。
「ではお支度させて頂きますね」
ニッコニコでマデリンさんがわたしの着替えをしてくれる。
おしめを変えられるのは通算年齢的には恥ずかしいかと思ったけど、身体年齢が下がった影響かあまり気にならなかった。それかわたしのスルー
さて、覚醒はそんな感じで順調に進んだ。
食事をしたり、食事の後に両親や兄弟に会ったり。それで家族構成や家格が分かった。
なんとヴェリアス家という現公爵家当主の次男ですって!
益々勝ち確じゃない?
お父様お母様もいい人そうだし、お兄様はどう接していいのかドギマギしてたけど悪いヤツではなさそうだったし、これは幸せな家庭でぬくぬくと育てられそう。
ニヤニヤ笑いが止まりませんな、ははははは。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そのまま何事もなく生活して、言葉がまともに喋れるようになった頃、そのイベントがやって来ました。
そう、スキル鑑定の儀式!
転生では定番だよね。
ある一定の年齢になったら神殿とか教会とか王宮とかに連れてかれて、神様から授かったスキルや魔法やステータスを見るのって。
悪ければ追放されて、良ければもっと敬われるようになるやつ。
さてさて、どんな反応が貰えるのかな?
厳かな雰囲気の中、布が多用された重そうな衣装を着込んだおじいさんが、わたしの前に立って何事かをつぶやくと、近くに置かれた謎のプレートに文字が浮かび上がった。
わたしはすでに知っていたスキル【インベントリ1】が表示されている。ステータスは見えないっぽい。
そして会場をどよめきが包み込む! 公爵家は安泰だ、という声まで聞こえてくる。
自分の認識と相違なくて良かった〜 何このゴミカススキル、みたいな展開じゃなくて良かったよ。
この様子ならこの世界でまともに生きていけそうだ。
わたしはホッとして肩の力を抜いた。
流石に評価が下されてない状態で、完全に安心することは出来なかったから。
だから、この時気を抜いてしまった。
後ろで兄がどんは表情を浮かべているのか見落としてしまった。
いや、そもそも、見ていたとしても幼児のわたしに何かができたわけではないのだけれど……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
スキルが明るみに出たことで、スキルに関して幾らか確認が行われた。
インベントリといえば物を異空間に収納できて、収納したものをいつでもどこでも取り出せるようになるスキルというイメージだ。語源となる英単語の意味とはちょっと異なるので注意が必要だけど。
実際問題、どんな風に収納するのか? どんな物が収納できるのか? 生物は収納出来るのか? どれだけの量収納出来るのか? 時間経過はあるのか? 収納している間所持者に影響はあるのか? などなど気になることは沢山ある。
インベントリのスキルを持つ人は少ないため、貴族としては一番上の爵位を持つ両親や王族でもその詳しい情報はなく、彼らもかなり関心を持っているようだ。だから、様々な人の協力の元、様々なことを試すことになった。
余りに多くのことを試したので、全て語る気はないけど、想定より凄いものだったと思う。
近くにあったものから試すことになり、本、お茶、お菓子、食器、椅子、机、服、ロウソク、魔石灯から始まり、中庭に出て、草、土、水溜まり、虫、生木、焚き火、灰など入れたり、騎士宿舎に移動して、武器、防具、鉄インゴット、
見ていた人たちはみんな顎が外れそうなほど驚いていたし、ラノベや漫画に精通しているわたしでも驚くような性能だった。
間違いなくぶっ壊れ性能ですよ? 女神様?
(知りたかったら次会った時に答えますよ?)
返事があった!?
理由があるなら聞きたいです、よろしくお願いします。
次会う時というとこっちの世界で死んで、現世に転生し直すときかな? かなり先になりそうで覚えてられない気がする。忘れたら忘れたで良いか。
女神の反応に驚きつつも、両親もスキルを絶賛していて、未来は安泰そうだとわたしは確信したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
スキルが判明してから、教育係が別につくなどの多少変化があったものの、わたしが朝起きて朝食が終わるまでの世話は変わらずマデリンさんが続けていた。
その日もいつものようにマデリンさんに着替えさせてもらって朝食に向かった。
そしていつものように食事を終えると、マデリンさんがお茶を入れてくれた。
「今日は新しい茶葉が入ったのですよ! いち早く坊っちゃまに飲んで頂きたくて、料理長から先に頂いて来てしまいました」
いたずらの秘密を共有するように、マデリンさんは楽しそうに話してくれた。
そして、わたしはゆっくり味わって新しい紅茶を楽しんだ。
ここでわたしの記憶は途切れてしまった。
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