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どこからどういうルートを通ってここまで戻ってきたのか分からない男の亡骸は、私の到着から数分遅れて火葬場に届けられたときには、もう白木の棺桶に納められてきっちり蓋が閉じられていた。
「開けて。」
私が言うと、棺桶を運んできた喪服姿の男は身を強張らせて首を振った。
「なんでよ。」
火葬場の白く広いホールには、私一人と喪服姿の男が二人しかいなかった。この火葬場の職員ではないのであろう、いやに頑丈そうな身体をした二人の男は、私の問いには答えなかった。
「開けてよ!!」
その悲鳴は勝手に口から迸っていた。男の亡骸が蓋を開けられる状況ではないことくらい、はじめから理解していたはずなのに。
喪服姿の男の片方が、ぎこちない仕草で私の肩に黒いコートをかけた。引きずるくらいに大きなコート。その男は私とそう年頃は変わらないようだった。
「こんな仕事やめないと、あんたも死んじゃうよ。」
コートの襟をかき合わせて座り込みながら、私はそう呻いた。負け惜しみだった。男が死んだのは仕事のせいばかりではないと知っていた。
喪服の男は小さく頷き、棺桶の乗ったストレッチャーを押してホールの奥に向かうと、白い壁に並んで空いた無機質な銀色の穴の中に棺桶を下した。そこでこれから男の身体が焼かれるのだとは、到底信じられなかった。
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