男は躊躇うことなく私の下肢を舐めた。血も、それ以外の汚れも。

 私は男の髪を掴んだまま、男の粘膜が私の粘膜を這いまわる感覚に耐えた。それは否定のしようもない、確かな快楽だった。

 血や汚れを舐めとり終わっても、男は舌を休めなかった。私の腰にはいつの間にか男の両腕が回されていた。やがて足腰が立たなくなった私はその腕に縋りつくようにして床に座り込み、男が舐めやすいように大きく両脚を広げた。それは私がはじめて感じた性的な絶頂だった。

 「切れてる。」

 男はちらりと視線を上げ、私を咎めるように膣内の浅い部分の裂傷にそっと指先を当てた。

 「舐めて治して。」

 私が言うと、男は素直に指を抜いてまた舌を挿入する。

 「ごめんね。」

 私が言うと、男は小さく頷いた。なにに謝っているのか自分でもよく分らなかった。 この男と関係を持つのは多分、援助交際よりもさらに悪いことだ。けれど、申し訳ないと思ったその気持ちは確かだった。この男に申し訳ないことをしてしまった、と。

 佐山に会ったことを男に話すべきなのではないかとも考えたが、すぐにそれは打ち消した。身体を売っていることを私に知られたら、この男は一人どこかで死ぬかもしれない。

 体力の限界が来るまで男の指と舌で絶頂を味わった後、私は交代して男のそれを舐めようとした。そうするのが礼儀というか、筋だという気がしたのだ。しかし男は頑なにそれを拒み、私を風呂場に追いやった。

 私が風呂から上がると男はアパートにはおらず、リビングの散らかったテーブルの上にメモが一枚置かれていた。スーパーのチラシの裏に小さな文字で書かれたそれは短くそっけない文面で、『なつみが迎えに来ます。しばらくなつみの家にいて下さい。』 とだけ書かれていた。

 しばらくって、いつまで?

 メモを握りつぶしてゴミ箱に放り込んだ私は、髪を乾かしてジーンズをはき直し、手早く教科書や衣類をまとめてスクールバッグに押し込んだ。

 なつみさんは私の支度が終わった直後に息を切らしてやって来て、玄関のドアを開けるなり両腕で私を抱きしめてくれた。

 「亮がバカでごめんね。どうしてあいつ、あんなふらふらしてんだろうね。」

 なつみさんがため息まじりに言うのを聞いて、私はあの男が今日私に起こったことをなにも彼女に伝えていないことを知った。だから私もなにも言わず、なつみさんの身体をぎゅっと抱きかえした。

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