連鎖幽霊

ボウガ

第1話

ある賑やかな都市部に、ある都市伝説があった。

(古くからこの地では、死を呼ぶ幽霊が、最も怖がりな人間にとりつき、その魂を奪う、魂を奪われた人間は同種の幽霊となり、この街から怖がりな人間を徐々に消していく、初めにある村のとても昔に心優しい少女が、その犠牲になった)


都市伝説マニアの男Rは、その伝説について深く調べつくした。そして奇妙な点に気づいて、自分である仮説をたて、実行した。


そしてその末に、その“幽霊”を召喚することに成功した。結果として、男と幽霊の奇妙な問答が始まる。

「インタビューを雑誌に掲載してもいいですか?」

「かまわないわ、あなた、どうせ売れないライターなんでしょう、それにこんな与太話、聞く人はそうそういないわよ」

「私の予想によるとあなたは“この話の最大の被害者”でしょう、どうして、そのことを多くの人に知らせないのですか?」

「気付いたのよ、私、怖がらせる側にまわれば、大事なものをとられないって、それに、あなたが話のトリックに気づいたなら、すでにわかっているはずよ」

 Rはわかっていた。実は、あの噂に尾ひれをつけたのは、都市伝説で語り継がれる少女自身であったこと、だからこそ“召喚”に成功したのだ。

 幽霊は話す。

「いまは都市伝説の形になり、話の内容もずいぶんかわってしまったが、都市伝説のもとの伝承はちがっていた、もとはこうだったのだ“怖れを知らぬものに怖れを与える幽霊がおり、それと引き換えにしてそのものの最も大事なものを手にする願いをかなえる” あなたは、この契約が幽霊によって与えられるものではないと知っている」


 Rはその自覚があった。そうだ、これはまるで悪魔契約のような形で幽霊を呼び出すものだった。そして、R自身の大事なものとは“死んだ恋人を人々が忘れないこと”

願いは実行されたが、Rは、怖れを植え付けられた。

 彼の元に、死んだ恋人がよみがえったのだ。恐ろしい悪霊として。やがて彼がその都市伝説の記事を雑誌にのせて、しばらくすると息を引き取った、悪霊に殺されるといって錯乱した彼は自殺をしたのだ。彼の最後の原稿は“恋人を呪う幽霊”という新しい都市伝説の記事だった。その伝説は、瞬く間に全国に広がり、またひとつの怪談となり、人々は彼の望んだ通り、彼の恋人の存在を半永久的に覚える事となった。


そして、件の都市伝説の女は微笑む。

“私は件の都市伝説の最初の契約者、私のもっとも大事なものとは“怖れ”それ自体、なぜなら私は、はじめから、幽霊のような見た目で差別され、怖れられていた村八分の子供だったから、私に同情するものもいたが、私は十分だった、なぜなら“怖れ”は人から何かを奪い、人から何かを奪われることを避けるのに十分な武器だったから、私が怖れの次に大事だったのは家族だ、けれどそれは、いずれ跡形もなく消えるとしっていた、だから“怖れ”そのものを愛した私は幽霊と契約し、怖れを植え付けられた、“人々が怖れを忘れる恐れ”を、私と契約した幽霊は、契約の数十年後には、この世への執着を忘れ跡形もなく消え去ったが、私は永遠に彼女との契約を実行し続ける、怖れより人間のほうが愛おしくなるまで”


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連鎖幽霊 ボウガ @yumieimaru

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