第18話 授業見学 2
この学園の学食は部活棟の近くにあり、その上、時間的にはまだ昼食にはまだ早いことから学食にはほとんど人がいなかった。
なのでレイはノルとフィアに席を取ってもらってから、レイは自分の分と二人の分の軽い食事を買い、日陰の涼しい席でちょうどいい大きさのテーブルを囲みながら昼食を食べ始めた。
レイが買ったのは、フィア用に好物の卵サンド、ノルには中等部のころ、学食でずっと食べていたステーキランチ、そして自分にはフィアと同じ卵サンドを買ってきた。
「おいしいですね!レイ様」
「うん、中に入ってるチーズがすごくいいね」
中等部のころからたまに食べていたメニューだが、久しぶりに食べてみるとおいしさがより強く感じられるもので、レイはいつもよりも早いスピードで食べ進めていった。
レイがちらっとノルの方を見てみると、ノルもいつも浮かべているような笑顔で幸せそうにステーキを頬張っているのが見えたので、ほっと一息をつく。
以前、間違えてチキンカツをもっていったときには、一日不機嫌を引きずっていたからレイとしては内心ひやひやしていた。
一方でノルは大好物ではあるけども、長期休暇中も自分の屋敷で食べていたこともあり、レイたちの食べている卵サンドがいつもよりもおいしそうに見えたのか、ノルはノルでちらちらレイの食べる卵サンドを見つめていた。
「ノルはそれでよかったか?」
「あ、うん……。僕、これ結構好きだし…」
「レイ様、この卵サンドもおいしいですけど、ノル様のステーキもとてもおいしそうですし次はそっちを一緒に食べましょうね」
「そうだね、他にもメニューはいっぱいあったし色々試してみたいね」
レイは昼食を楽しんでいるうちに二人ともさっきのことはすっきりとできているのを感じることができて安心していた。
そしてフィアも昨日のことは割り切ってノルとも仲良くしてくれているのもその安心の一助となっていた。
実際には、ミアに言われたから仲良くしているように見せているだけで、別に本心では二人きりでご飯を食べたいと思っていたし、たとえ同性であったとしても自分やミア以外の誰かが居ほしく無かったけど……。
そしてその狙い通り、こういう演技に関しては鈍感なレイにはフィアの狙い通りに見えていた。
だがしかし、そこで完ぺきだったフィアの演技が揺らぐ一言をノルが発した。
「なら僕のやつ、一口食べてみない?」
そのいきなりのノルの発言に演技をしていたフィアの顔がすっと曇り、いつもの調子でノルと接するように戻っていたレイはその提案に乗る気満々と言った様子でノルの手元にあるステーキを見つめていた。
「いいのか?」
「うん、もちろん。あ、でもいつもみたいにレイのもちょっとちょーだい?」
「りょーかい、了解」
何気に長い付き合いの二人はこういうやり取りを仲良くなった時からずっとしていたため、いつもの調子でノルは自分の分のステーキを少し切り分けてレイに渡した。
そしてレイが食べかけだった自分のサンドイッチをノルの口元に持っていこうとしたその時、二人の間に手を置いたフィアが場に似合わない音量で口を開く。
「それは、ちょっと!!」
急に間に割り込まれたレイは、思わずサンドイッチを落としそうになったが間一髪のところでキャッチに成功した。
「危なかった……」
「急にどうしたの、フィアちゃん?ねえ?」
勢いだけで二人の行為を制止させたフィアはその後のことを何も考えていなかったのか、額にちらっと青筋をつけたノルの追及にフィアは冷や汗をかいた。
「そのえっと…ですね……ノル様、できれば私のものを食べていただけませんか?」
「実を言うと、量がちょっと多くて少し残してしまいそうだったのでもし食べていただけるならうれしいな~と……」
「そういうことなら、わかったけど……それだけであんなことはしないでよ……」
あと一歩のところでサンドイッチが自分の制服にべったりついてしまうところだったレイはあきれながらも優しくフィアにそう言った。
ノルと目を合わせようとしないフィアが言ったその理由に、ノルはあまり納得していなかったようだが、レイは気にしていない様子だったので残念そうにしながらも仕方なくフィアのサンドイッチを口に運んだ。
「……おいしいけど……」
「ステーキ、結構美味しいな……」
「確かにおいしいですね!」
この時、どこからか小さく鳴った『っち』という音は本人以外には聞こえていないようだった。
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