第17話 ミアという少女{授業見学 1´´(ラト視点)}
生徒たちを早めに教室から送り出し、私はあらかじめ待ち合わせ場所に指定していた教室に向けて歩いていく。
たまに手紙でやり取りしているからか、会うのも話すのも久々なのにも関わらず不思議と緊張感というか気を張っているような感覚もなく気楽な感覚だった。
「おお、早いな」
今いる校舎からその教室があるところを見てみるとそこの明かりはもうついていて、相手が先についているのがわかった。
もしこれが普段の平日であったなら少し急いでいくところだが幸いにも今日は一日暇な私は歩くスピードをそのままにゆっくりとその教室に向かった。
ガラガラ、と音を鳴らして引き戸を開けると中には見慣れた少女と見慣れない少女が変な距離感を保った状態で互いを視線で牽制しながら静かに私のことを待っていた。
「ラト先生!!」
そう言って、馴染みの少女は見慣れない少女から逃げるようにして私の方に向かってきて姿を隠すように後ろに隠れる。
「おう、久しぶりだな…」
「ラティ」
私が教室に入ったときにはちらっと視線を向けただけだったのに対し、私が呼んだ名前に見慣れない少女が体をこちらに振り向かせて大きく反応を示した。
にやりとしたその表情が私とラティの不安を煽った。
「へぇ、やっぱりあなたがラティちゃんだったんだね。なるほどなるほど」
「「……」」
「…ラティ、知り合いか?」
「違います…。さっき私がここに来た時にはもういて、「君がラティちゃんであってる?」っていきなり言われて……」
「なるほどな……」
目の前にいる笑顔の少女は一応この学園の制服を身にまとってはいるが、その少女の纏っている雰囲気はこの学園に在籍している学生たちとは違っていた。
この学園はこの国でここを含めて四か所しかない高等教育機関ということもあって在籍する生徒の多くは貴族であったり、比較的裕福な家庭の子供が多い。
そのため、以前には誘拐未遂や実際に誘拐される事件が起きたこともある。
だから私はその少女に対し、ある程度の警戒を行ったうえで後ろにいるラティを守るような形でその少女の前に立った。
「そんな身構えなくても大丈夫だって~。別に違法侵入したわけでもないしー」
私の言葉にその少女はあっけらかんとした様子で、心外だな、とでも言わんばかりに手を振って笑っていた。
事実、この学園に侵入するのがかなり困難なことを考えると、不法侵入していないというのはあながち嘘ではないのだろう。
それでも、この少女が誰なのかはっきりとしないうちはこの警戒が解けないのも教師として生徒を守らなければいけない者として仕方のないことだった。
「なら、お前は誰だ?」
「そうだなー……」
そう言って、少女は手を顎に添えてうんうんと唸った後、手をたたいて私たちに向かって口を開いた。
「ここに他の人が来るのはお二人にとっても都合が悪そうだし、言っちゃおっかな」
「僕の名前はミア。普段はしがない一メイドとして働いている普通の女の子だよ。
もしかしたら、ラティちゃんは名前くらいだったら聞いたことがあるかもね?」
目の前の少女、ミアはさっきまでのへらへらとした笑顔から一転、まじめな表情になって、しかしその軽い口調はそのままに私の後ろにいるラティに向かって問いかける。
その時、後ろのラティが私の服の一部分をつかんで引っ張ってきたので後ろを振り向くとラティは小声で私に話しかけてきた。
「……た、多分ですけど前にレイ君が言ってたレイ君の専属のメイドだと思います」
「レイの?」
「はい、本当ですよー。いやーラティちゃんはレイ様との時間を大事にしてるんだね。一回、二回話に出ただけの名前を覚えてるなんて」
「レイ様、こんなにいい子なら僕に紹介してくれたらいいのに―」
さっきまで机を2,3個挟んだ先のところにいたはずのミアはラティと話している数瞬の間に音もたてずに私のすぐそばまで近づいてきていた。
そのことに何とも言えない怖さを感じた私はミアを突き飛ばすようにして先ほどまでよりも長い距離を取ってから、警戒の段階をもう一段階引き上げる。
「…それで、レイの専属メイドのお前は一体ここに何しに来たんだ?」
「いや~そんな警戒しなくても大丈夫ですって。ただ僕はラティちゃんとちょっとしたお話をしに来ただけですから」
さっきまでのまじめな表情からまたへらへらとした表情に戻ったミアは、近くにあった椅子を一つ引いて座り、自分の前にあった机をどけてそこにもう二つ椅子を置く。
私としては、ミアがまだ誘拐犯やその類に属する者である可能性も否定しきれない、だがここで逃げては変に刺激するだけだと思ってラティに軽くアイコンタクトを送ってからミアの前に置かれた椅子に座った。
「さて、時間もあることだしゆっくり話していきましょうか」
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