第16話 授業見学 1’(フィア視点)
最近、レイ様の様子が以前と比べて変わってきた。
以前はずっと何かを朝の馬車の中でも気を休めてくれるようになり、友人であるノル様よりも私のことを気にかけてくれるようになった。
今日の授業見学も二人きりで一緒にゆっくり回るつもりで馬車の中で話していたが教室から出ていこうとするタイミングでノル様が声をかけてきた。
「レイ、ちょっと待って!!」
「……おはようございます、ノル様」
ノル様は別に悪い人ではないが、私はあの人のことがあまり好きではなかった。
昨日の私とレイ様の様子を見てノル様は私たちの関係性が今までの、ただのメイドと主という関係から変化したことに気が付いているだろう。
そして今日、それを知ったうえで話しかけてきたことからして何か思うところがあったのか、何にしろ私にとっては不利益なことであるのには間違いない気がする。
「レイ、今日の見学なんだけどさ僕も一緒についていってもいいかな?」
「……」
どうして、私といるのにレイ様だけにしか聞いてないかについてはひとまず置いておいて今はこの対処をどうするかを考える。
あのお見合いの日から少しずつ私のことを意識するように仕向けて来た甲斐もあってレイ様は私を第一に考えてくれているのが昨日、ラト先生やノル先生と関わってみてそれがはっきりとした。
レイ様がノル様への返答を私にゆだねてくれているのはそれらが積み重なった結果だろう。
ここで『二人で行きたい』というのは簡単だけど、これ以上レイ様に心労をかけた場合、レイ様自身のお体に障ってしまうかもしれない。
そしてそうなれば、レイ様を大切になされている旦那さまや奥様は私をレイ様のそばから遠ざけるだろうし、その結果私の最終的な目的でもある『結婚』が遠のく事態にもなりかねない。
だから私は、いつも視界にも入っていない選択肢を取った。
「もちろんです!一緒に行きましょう」
そう言って、私はノル様の同行を内心渋々、一見快く許可することにした。
教室の外に出て、まず初めに向かったのは『部活棟』だった。
部活棟までの道すがら、レイ様と中等部での部活についての会話をしながら周りを見てみると多分だけど貴族じゃない人が結構いるのがわかった。
中等部の部活は参加している人のほとんどが貴族だったから、建前も含めて礼儀作法を仕込まれていたし、そのおかげで個人同士の関係が目に見えてぎくしゃくすることはなかった。
だけど、そうでない人、つまりは平民の人たちは長年培ったその『作法』を知らない人がどうなるかは容易に想像ができる。
「ここですね」
そんなことを考えながら歩いていくと、部活紹介の行われる大き目の空き教室に着いた。
他の教室に比べて少し大きめの扉を開け、中に入ると多くはないけれど私たちと同じ年の生徒が椅子に座り開始されるのをじっと待っていた。
それを見た私たちはドアの近くのあいている席に座り、同じように始まるのを待っていると他にもう数人が入ってきたタイミングで前にいた上級生の一人が壇上に立って話し始めた。
「今日は来てくれてありがとう。部活に入ろうとする人は少ないけど、ぜひ興味のあるところを見つけたら入ってほしい」
その上級生の挨拶は面白くもない普通な挨拶で、言葉遣いも別に丁寧ではなく変に距離が近いような感覚がしてそれだけで少し部活に入ろうという気が減った。
「あと、私からは一つだけ」
壇上の上級生がそう言ったとき、その人はこの和やかな場にふさわしくない冷えた視線をこちらに向けた。
は?
別にあの生徒と話したことも見たこともないはずなのに、初対面でこのような悪意にさらされている理由はない。
その上、私たちではなくレイ様に対してその悪意を向けているというのが私の中の思いを膨れさせる。
できれば今すぐにでもレイ様にここから離れてもらいたいけど、その視線に気づいてるはずのレイ様は動くことはなかったので私が何かを言うことはなかった。
「部内において貴族の権威を振りかざすことは原則禁止だ。もし君たちがそれに該当する行為が行われたときには私や先生方が必ず君たちを守って見せる」
「そして、以前そのようなことをした生徒は」
「気を付けるように」
「「……」」
「ッ!!」
人は怒りが限界に達すると、逆に冷静になるというが今の私はまさしくそれだった。
その上級生の言っていることにうっすらと心当たりはあったが、それが的外れと知っているだけにあの上級生のことを私は敵意をもって見つめた。
あの後、レイ様に連れられすぐにあの会場から出ていった私たちは部活棟の外のベンチに座り、大きな息をついて心を落ち着かせる時間に入った。
多分、血が出んばかりに手を強く握りしめていた私のことを気にかけてしてくれたことだとは思うけど、ノル様にも同じように声をかけていたのは少し気に食わなかった。
そこで少し座っていたら心の中も落ち着き、力もさっきまでと比べて抜けてきた。
もし、次に事を起こしてきたときのための準備とああいう人間が他にどれだけいるかを後でミアに調べてもらおうかとも思ったが、ミアには別のことを調べてもらっていたのを思い出した。
だから、このことは後で私だけで調べることになるから爪の甘い対策しかできないだろうけども『次はない』と心に誓った。
「ィア……フィア?」
レイ様に声をかけてもらっていたの気づかないことなんて今までなかったのに、私は反応に遅れてしまった。
「あ、はい!」
「ご飯行こう」
「わかりました!」
レイ様のやさしさはいつでもどこでも私の心にしみるのだった。
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