第15話 授業見学 1



 まず三人が初めに向かったのは、他の生徒たちの多くが最初に行く『訓練場』ではなく『部活棟』に来ていた。

 『訓練場』はその名の通り、貴族社会において重要とされる剣術の訓練や魔法の訓練が行われる場所のことで、高等部ではこの剣術や魔法の授業で優秀な成績を残せば騎士になる際に有利を得ることができる。

 一方で『部活棟』は生徒たちがそれぞれの趣味を通じて交流を深めることが主な目的とされているため、部活での成績が自分の将来に直接的な影響を与えることはほぼなくそもそもとして部活に所属している人は少ない。

 実際、レイやノルも中等部では部活には入っていなかった。

 このような背景があり、多くの生徒は『部活棟』は最後の後回しにされることがほとんどだ。


「部活棟って、意外と広いんですね」


「あれ、フィアって中等部の時に部活入ってなかった?」


「入っていましたが……お屋敷のお仕事をミアと分担するようになってからなので他の皆さんよりも短い期間しかしてないのであまり詳しくはないですね」


「そうだったっけ?……」




 そうして部活棟の中を昔の話をしながら歩いているとすぐに説明会の会場の広めの空き部屋に着いた。


「ここですね」


 フィアがドアを開け、そのあとに続いてレイとノルも中に入る。

 

「意外と大きいね」


「そうだな。でもやっぱりあんまり人はいないな」


「それはそうですよ。皆、『訓練場』の方に行ってるでしょうし」


 三人が固まって椅子に座ると、前に立っていた司会と思われる上級生の一人が拡声の魔道具を持って話し始めた。


「今日は来てくれてありがとう。部活に入ろうとする人は少ないけど、ぜひ興味のあるところを見つけたら入ってほしい」


「今から複数の部が順番に紹介をしていくが、もし気になるところがあればここから出てそちらに行ってくれて構わないからぜひ楽しんで聞いて言ってくれ」


 部屋の中にいる全員を見渡すようにして、司会の上級生がそう言うと周りにいたほかの生徒や上級生から拍手が起こる。

 そして拍手が終わると司会の生徒は軽く礼をしてからレイたちが座っているほうを見つめてまた話し始めた。


「あと、私からは一つだけ」


「部内において貴族の権威を振りかざすことは原則禁止だ。もし君たちがそれに該当する行為が行われたときには私や先生方が必ず君たちを守って見せる」


「そして、以前そのようなことをした生徒は」



「気を付けるように」


 

「「……」」


「ッ!!」


 その一言を発した司会の生徒はじっとレイのことを見つめる、正確に言うとにらみながら教卓の前から降り、他の生徒たちと何かを話していた。

 それを見たノルは露骨に不機嫌そうになり、一方でレイは一つ大きなため息を吐いた。

 フィアは以前あった出来事について概要しか知らなかったがそのレイに向けられた悪意が的外れであることを知っているため、それに対して嫌悪感を示していた。






 その説明会が始まってから、二つの部活の説明が終わって何人かの生徒が出たタイミングで当人であるはずのレイが隣の二人を気にして周りの人に紛れるようにして外に出た。


「久しぶりに会ったな、ああいうの」


「…レイは気にしてないの?」


「まあ、別に悪いことしたわけでもないからな」


「なら、僕も気にしないでおくね」


「ああ、そうしてくれると助かる」


「……」


 フィアはレイが本当に気にしていない、そして気にしてほくないことを示したのを聞いてノルと同じように何も言わないことにした。

 

「というか、もうお昼時だしご飯でも食べに行くか」


「そうだね」


「はい!私もなんだかお腹空いてきちゃいました」


 そういうわけで三人は一旦学食に向かい、昼食をとることにした。









===========================

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る