第11話 ラトとお話



「フィア、そろそろ……」


 フィアに抱きしめられたままで動けない状況が十分ほど経ち、ラトから言われた時間が迫ってきた。


「う~ん、まだもうちょっとこのままがいいです……」


 そう言いながらも、フィアはレイに抱き着いていた腕を解いた。

 そこでフィアの口調が元に戻っていることに気が付いたレイは口に出さず、静かに心の中で安堵した。

 そして、フィアはもう誰もいない廊下の方へレイの手を引いて大講堂に向かった。






「お、やっと来たか……」


 二人が大講堂の入り口の一つに着くと、その前にはラトが一人立って二人のことを待っていた。


「遅れてすいません」


「まだ時間はあるから問題ない」


「ふぅ~よかった」


 そこで、少し息の上がっていたレイとフィアは息をついたがラトの言葉でどっちにしろ急ぐことになった。


「あぁ、でもそろそろ始まるから急いだほうがいいぞ」


「わかりました!行きましょう、レイ様!」


 重たいドアを引いて入った大講堂の中は広く、二階席には貴族の子息たちの親が着飾った状態で座っているのが見えた。

 自分たちの席を探していると、前の方からノルが大きく手を振ってレイたちのことを呼んでいるのが見えたので二人は急いで席に座った。

 








「これにて、式を終了とします」


 学園長の軽い挨拶と、注意事項の説明だけで式は終わった。

 レイは先ほどまでの心労のためか、ほとんど寝ていてあまり覚えていなかったがフィアに起こされてやっと意識を取り戻した。


「……レイ様、レイ様ってば」


「……ああ、終わっちゃったの?」


「今日はもう終わりだそうですよ。一緒に帰りましょう?」


 周りを一見すると、まだいるのは会場の片付けをしている生徒と教師だけでそのほかにはレイとフィア、そしてラトだけだった。

 フィアの誘いにレイとしても一度ゆっくりとフィアと話したいと思っていたこともあり、それに乗って「わかった、一緒に帰ろうか?」と言いかけたところにフィアの後ろに立っていたラトがレイに声をかけた。


「と、その前にレイ。お前は私とちょっとお話だ」


 その言葉にレイはちょっと嫌な予感を走らせた。




 

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