第7話 約束しよ?



 フィアとの添い寝が始まってから、大体一週間が経った日の深夜、いつものようにフィアの部屋に行くと子供のような笑顔でフィアがレイのことを出迎えた。


「今日はどうしよっか?」


「……今日は」


 レイとしては、この一週間フィアに話している記憶はほぼなく一方的にフィアから話を聞いているだけだった。

 そして大体、フィアがもってきたアルバムを二人で眺めてから添い寝して終わってしまう。

 これをミアに相談してみたところ『レイ様が今すべきなのはフィアの心のケアです。アルバムを眺めることは慰めになっても、立ち上がらせることはできません』と言われてしまったため、今日はフィアの様子を見ながらレイの方から話をしてみることにした。

 

「う~ん。今日はこっちの……」


 そう言ってフィアがアルバムが保管されている棚に歩き始めたのを見て、レイはその手を握り、フィアを引き留めた。


「フィア!」


「どうしたの?」


「今日は、僕の話を聞いてくれないかな?」


 ミアから言われたことを思いだして、レイがフィアにそう言った。

 するとフィアはレイの言葉に答えるように、一瞬立ち止まってからすっと今座っているベッドの横に並ぶように座った。


「うん、いいよ」


「それで、何のお話しする?」


 レイは自分の方を少し見上げるフィアの目を見つめた。

 フィアの顔は一週間前と違って、隈もなく顔色も元に戻り水色のパステルカラーの髪がきれいに月明かりに照らされていた。


「体調はどう?」


「大丈夫だよ。最近はレイが一緒に寝てくれるからちゃんと寝れてるし」


以前のような精神の不安定さがフィアから無くなったのを感じ取ったレイは、直近で重要なことについて聞いてみることにした。


「フィア、学園はどうするの?」


 レイの言葉にフィアは少しうつむいたまま言葉を詰まらせ、静かな時間が二人の間に流れた。


「…………」


「……」

 

 レイは静かにフィアの言葉を待った。


「レイが、一緒にいてくれるなら……行きたいかな」


 貴族社会の中でお見合いを断った相手と一緒にいるのはあまり良いことではないが、ここで『一緒にいる』以外の答えはすなわちフィアがもう学園に行かないことと同義だった。


「……一緒にいるよ」


「ほんとに?」


「もちろん」


「……ありがとう」


 フィアは横にいるレイに抱き着いたが、レイはそれを抱きしめようとはせずに子供をあやすようにゆっくりと頭をなでた。


「…今日はもう寝よう?」


「わかったよ、フィア」


 そう言っていつものように、ベッドに横たわるとレイはすぐに眠りについた。

 

「約束も守ったし、これからは二人きりの時間を増やしていこうかしらね」


「ミアにも他の女にもあなたは絶対渡さない」


「ずっと、一緒だから」

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