第8話 久しぶりの親友



「行ってきます」


「行ってまいります」


「行ってらっしゃいませ、レイ様」


 高等部の始業式の日の朝、レイとフィアは並んでスタット家の門を出て馬車に乗って学園に向かう。

 その道中フィアと二人、馬車に揺られていると腕を組んだままフィアがレイの方を見て話し始めた。


「私、レイ様と一緒のクラスがいいです」


「そうだね、僕もフィアと一緒だと嬉しいな」


 フィアは自分の部屋の中だけではレイに対して敬語ではなくなるが、学園や他のメイドがいるところでは敬語で話している。

 だからか、一週間以上敬語を外したままのフィアと話していたレイはそれに少し違和感を覚えた。


「体調も大丈夫そう?」


「はい、問題ありません」


 新しい高等部の学園の制服はフィアに本当によく似合っていて、他の貴族が見たらすぐに求婚をするくらいには綺麗だとレイは思った。

 そのまま、二人で会話を続けていると半時間もたたないうちに馬車は学園の近くに停車した。


「ありがとう」


 御者をしてくれた家の執事に軽く礼を言ってから、フィアの手を取り馬車を降りてクラス表の貼られた掲示板の前に行く。


「……見つかった?」


「まだです……」


 二人で見落としのないように探していると、周りには他の進学した生徒が多く集まってきていた。

 そして、やっと自分の名前を見つけたレイは一旦掲示板の前から離れて近くのベンチに座っていると門の方から誰かがレイの名前を呼んだ。


「レイ!」


「久しぶりだな。ノル」


 声をかけてきたのはレイの親友で、レイと同じ侯爵家の長男のノル・エストロアだった。


「って言ってもまだ一か月もたってないけどね」


「……ああ、そうだったな」


 レイはこの一か月、信じられないほどに濃い毎日の連続で久しぶりに会う親友と会うのがずっと久しぶりのように感じた。

 

「ノルはどのクラスだった?」


「僕はAだったよ!レイは?」


「また一緒か……」


「え、ほんとに!?」


 ノルがレイと出会ったのは中等部の初年度の時だったが、そこから三年ずっと一緒だったのに加えて今年もということに二人そろって驚いた。


「フィアちゃんは?」


「え~っと……あぁこっちに来たみたい」


 レイが掲示板のある方をちらっと見てみると、フィアが嬉しそうにこっちに走りに来ていた。


「レイ様!私もAクラスでした!!!」


 フィアの目にレイ以外は見えていないのか、ノルのことは気にもかけず嬉しそうにレイに抱き着く。


「そうなんだ…三人とも一緒なのは初めてだね」


 ノルがレイに話しかけると、そこで初めてフィアはやっとノルの方を向いて挨拶をした。

 そういえば……というくらいではあるが、レイと長い付き合いの二人が自分の前でちゃんと話すのはこれが初めてだった気がする。

 以前、ノルがレイの家に来た時にメイドのフィアとは会っていたがその時はレイの近くにずっと控えたまま会話に入ってくることはなかった。


「あ、ノル様。おはようございます」


「おはよう、フィアちゃん。家だけじゃなく、外でもレイにべたついてるんだね」


 いつものノルの優しい口調と丁寧な言葉遣いとは違ってわざと皮肉っぽく言ったことにレイは違和感を感じた。


「ん……?」


「はい!私とレイ様は仲良しなので!」


 そんなことは気にもせず、レイの腕に抱き着いたまま横目でノルを見たフィアは笑みを浮かべて同じように皮肉を返した。


「んん……?」


「ちっ……」


「ふふ……」


「もしかして、二人って仲悪い?」


「「うん(はい)」」


 レイが思っていた二人の関係は実際とは大きく異なっているようだった。







 


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