第5話 フィアを救うには……

 

 ミアの部屋の中で二人、テーブルをはさんで向き合った状態で重い空気の中話し合いを始める。


「レイ様、私の願いを本当に聞いてくださるのですか?」


「…うん、もちろん。フィアも僕の家族だから」


 レイは自分の本心をミアに語る。 

 すると、ミアは赤くはれた目のままレイのことをじっと見つめる。


「僕は、どうしたらいいの?」


 先ほどのフィアとのことからレイには自分に何ができるのか何もわからなくなっていた。

 だから、レイはミアに意見を求めた。


「今、レイ様ができる一番の行動はフィアの願いをすべて聞くことです」


「それは……」


「無理になさらなくても、かまいません」


 ミアはさっきの二人の会話をしっかりと聞いていたので、なんとなくの状況は理解していた。

 だからここでレイが自分の言うことを否定するのを予測したうえでミアは本来の願いを言った。


「なので、レイ様にはフィアとかかわる回数をできるだけ増やしていただきたいのです」


「具体的には、どれくらい? 」


「できれば、一日中と言いたいところですが学園のこともあるので毎夜にフィアと添い寝をしていただきたいです」


 ここでレイは、今の今まで忘れていた学園のことについて大切なことを思い出した。


「あ!フィア、学園はどうするの……?」


 今は高等学部に上がる前の春季休業中のため、問題ないがこの状況が長く続く場合はレイと一緒に学園に通っていたフィアは休学をしなければならないため、貴族社会において『価値』の下がる可能性があった。

 僕の言葉に、少し言いにくそうにしながらミアは言った。


「そのことですが……旦那様がフィアの実家のレイラート家と話し合った結果、私がフィアの変装をして学園に通うことになりました」


「……え?」


「それ、大丈夫なの?」


 学園に通うことは平民にとって学のある証明となり、幼いころから家庭教師によって教養を身に着けている貴族にとっては『出会い』の場となっている。

 そのためミアが他の貴族に見初められた場合、『レイラート家の令嬢に見合いを申し込んだら、それは偽物だった。あの家は学園を信用していない』という信頼という面で危険な状況になってしまう。


「……実を言うと、結構な賭けになります。もしこれがばれたときには学園からの信用が失われ、フィアの実家であるレイラート家と旦那様にも迷惑が掛かってしまいますから」


「だからこそ、できるだけ早くフィアを立ち直らせてあげなければならないのです」


「……」


「…わかった。僕もいろいろ頑張ってみるね」


 まずは、フィアの心を安定させること。

 それが今、自分がフィアにできる唯一のことだと悟ったレイはミアの部屋から出て自分の部屋でベッドに寝転がると、大きく息をついた。








 レイが、部屋から出ていってから他の使用人たちがいないことを確認してミアは隣のフィアの部屋に向かう。

 今は、使用人が食事をする時間だがもしもの時を考えミアは慎重に確認をする。


「……今は誰にも見られてないよ」


 すると、音を立てないようにフィアの部屋のドアが開いた。


「ありがと、ミア」


 部屋の中にいたフィアはさっきとは別人のように明るく、ミアからすると『演技しすぎでしょ……』といった感じでため息をこぼす。


「はぁ~……まあいいや。約束はぜ~ったい守ってもらうからね!」


「はいはい、わかったわよ」


 フィアは何回も聞いたその言葉を受け流すしてから紅茶を口に含む。


「どうせ聞いてたんでしょ?さっきの会話」


 ミアは元から知っていたようにそう言って、自分も目の前に置かれた紅茶に口をつけた。


「もちろん。添い寝はありがたくさせてもらうわ」


「それはいいけど……僕、フィアの真似とか絶対できないからちゃんとしてね?」


「まあ、そこはレイ様次第かしらね」


「うわ、性格悪」


 ミアがちらっと部屋の壁に掛けられた時計を見ると、そろそろ仕事の始まる時間になっていたので、ミアは崩していたメイド服を直してから立ち上がった。


「もう行くの?」


「うん、誰かさんのせいで仕事が増えちゃったからさ」


「……もう。学園にはちゃんと行くから……」


「それはよかった!じゃ、僕行くから!」


 そう言って、ミアは時間的に他の使用人たちがいることを考えて窓からミアの部屋に出ていった。


「……全く、性格が悪いのはどっちよ」


 その呟きは小さく部屋の中に響いた。

 

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