第4話 もう一人の専属メイド
「……起きてください。レイ様」
「……ぅん…フィア……?」
レイはいつものようにフィアが起こしに来てくれたのだと思って、目覚めて間もない目をこすって体を起こす。
だが、そこにいたのはフィアではなくレイのもう一人の専属メイドであるミアだった。
いつものミアもクールではあるが、今日のミアは疲れて気分が上がっていないような気がした。
「寝ぼけているのはわかりましたから、早く着替えてください。レイ様」
「え、あうん。わかったよ……ミア」
そう言って、ミアが部屋から出ていったのを見てレイはベッドの上に用意されていた衣服に着替え、朝食をとるために食堂へと向かった。
食堂にはもう、レイ以外はみなそろっていたので急ぐようににして例も席に座った。
「おはようございます。お父様、お母様」
「おはよう、レイ」
「おはよう」
挨拶が終わり、朝食を取り始めるとレイの母であるセラが昨日のことについてフィアの状況を簡単ではあるが教えてくれた。
「レイ、フィアのことなんだけどね……」
「……」
「あの子、ご飯は食べてるから体調は悪くないそうなんだけどね……その……」
セラは言いにくそうにしながら、次の言葉を紡いだ。
「部屋から出ずにずっとあなたと写ったアルバムを眺めてるらしいの……」
「え……」
レイから声が漏れる。
ずっと見続けるという行為がフィアのレイに対する気持ちの大きさを昨日以上に鮮明に伝えてきた。
そして、フィアのことがずっと気にかかっていたレイの体は考えるより先に動いた。
「すみません。僕、少しフィアのところに行ってきます……」
「「……」」
ライトもセラもその場にいた誰もレイのことは追わなかった。
フィアのいる部屋の前に立って、中に向かって呼びかけても何の返事も帰ってくることはない。
「フィア。僕の声は聞こえてる?」
「……」
「……僕は君のことが嫌いになってなんかない」
「ずっと一緒にいてくれて、僕のことを気にかけてくれたフィアを嫌いになるわけがないよ」
レイの言葉に反応するようにしてドアの方に中で動いているような物音がしている。
「フィア」
すると、ドアが開き中から昨日と同じ服を着たフィアが出てきた。
隈が深く、いつもの明るさのないフィアを見てレイは驚きの感情を表した。
「私に、会いに来てくれたの?」
「あ、ああ僕はフィアに会いに来た」
今まで見たことのないフィアの様子に一瞬、言葉に詰まる。
「なんで?」
「それは、フィアのことが心配だったから……」
レイは本当に心配でここまで来て、昨日のことについてフィアと話すことでまた、前までのように接してもらいたかった。
「なら、私と結婚してくれる?」
この質問でどうしたらそこに行きつくのかはわからないがフィアの精神状態が異常であるのは確かだった。
「……」
「……違うの……」
それだけで言うと、フィアはレイに背を向けて部屋の中に戻っていった。
その後、どうすることもできずフィアの部屋の前に立ち尽くすレイに後ろからその様子をこっそり見ていたミアが現れた。
「レイ様」
「……ミア」
「少し、お話しませんか?」
その言葉に言葉にできない強さを感じたレイは静かにフィアの横の部屋であるミアの部屋に入った。
「レイ様が僕の部屋に入るのは初めてですよね」
「…そうだね」
レイはまだフィアのことを思っているのかミアの発言には空返事でミアのことを見ていなかったが、ミアはメイド服を汚すことも気にせずに床に膝をつき頭を下げレイに一つの願いを言った。
「お願いします、レイ様」
「フィアを、僕の友人を助けてください」
「え、ちょ、ちょっと待ってよミア。そんなことしないで!」
いきなりのミアの行為に、はっとしたように焦りの声が漏れるレイは自分も膝をついてミアにそれをやめてもらおうとするが、その説得を無視してミアは言葉を紡ぐ。
「レイ様も思い悩んでいることは僕も知ってます。でもレイ様しかいないんです!」
「私の言葉は何も届かない。でもレイ様なら、あなたの言葉ならフィアは……」
「わかったから!お願いだから、顔を上げて!」
そこで、やっと顔を上げたミアの顔は目の周りが赤くはれていた。
そうして、時間をおいてミアもレイも気持ちを落ち着けてから話を始めるのだった。
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