第2話 え?フィア?
「レイ、頑張るんだぞ」
「わかりました、お父様」
お見合いの日の当日、レイは客人用の部屋にて一人相手の到着を待っているとレイの父であるライトが部屋に入ってきて、緊張していてそうなレイのことを軽くほぐすと見合い相手のお方を呼びにさっさとどこかへ行ってしまった。
「多分、そろそろだよな……」
断る、ということが決まってはいるだけに緊張は少し溶けても心苦しい感じが残っていた。
すると、ドアからノックとともに誰かが入ってきたのを感じ座っていたソファーから立って挨拶をしようとするが振り返った瞬間、レイの動きが止まる。
「……え。フィア?」
「フィア・レイラートと申します。今日はよろしくお願いしますね、レイ様?」
笑顔でレイにそう答えるフィアはいつもの見慣れたメイド服ではなく、しっかりとしたつくりのドレスを着ていて長い間、時を同じくするレイですら思わず見とれてしまうほどだった。
水色の髪に合わせた、パステルカラーのでドレスがフィアの清楚さを引き立てていた。
「立ったままでは何ですし、座ってお話しませんか?」
「あ、ああ。そうですね」
呆然としていたレイにフィアはおしとやかに口に手を添えて笑ってレイに話しかけ、そしてお見合いが開始した。
「何から話しましょうか、レイ様?」
「あ、そう…ですねフィア、様」
気を抜いていると思わず、いつもの話し方が出そうになってしまうのでレイはそれを気にして、たどたどしく敬語に直す。
「ふふ、いつも通りで構いませんよレイ様」
そのレイの様子を見て、いつもとは違う新鮮な表情に嬉しそうにフィアは笑った。
「ごめん、ありがとう。それで本当にフィアが僕のお見合い相手なの?」
「はい。私から旦那様にこの見合いを申し込みました」
「そうなんだ……」
こうなってくると、『合わなかった』で断ることができなくなってしまったためにレイはこの後どうするかに内心焦りが早まっていた。
そのまま二人の間の中に沈黙の時間が流れる。
こういう時は男側から話しかけるのがマナーだが何を話したらいいのかわからずにレイは話しかけることができないでいると、フィアが突然口を開いた。
「レイ様とゆっくりお話するのも悪くはないですが……単刀直入に聞いてみましょうか」
「レイ様、私との婚約を承諾してはいただけませんか?」
「こう見えても、私も貴族の娘ですので血筋は問題ありません。それにレイ様のことはこの屋敷にいる誰よりも知っているという自負もあります」
「レイ様が慎重に相手をお決めになっていることは知っております。あなたの幸せを一番に願う者として、どうかわたしを伴侶に選んではいただけないでしょうか?」
初めて受ける求婚だけど、レイにはフィアの言葉が一言一句本心からの声だということがわかった。
「……」
「レイ様?」
「ごめん。その気持ちには答えられない」
レイは意を決したようにそう口を開いた。
フィアが心からレイを愛しているのと同じようにレイにも愛する人がいたのだった。
その言葉にさっきまでの余裕は消え、フィアの雰囲気が変わる。
「それは、…なぜでしょうか?私は長い間レイ様にお仕えしてきて、最近では私に対しても親しく接してくれていたのはわかっています。それにメイドの中でも特別、私のことを気にかけてくださいましたよね?」
レイからすればフィアを特別扱いしたことはないし、他のメイドにも同じように接していたがフィアはそう思わなかったようだ。
「それは、その……」
レイは言葉に詰まる。
今、彼女のことを言えばそれがお父様やお母様にも伝わってしまう。だがそのためだけに目の前の女の子にうそを吐くことはできなかった。
「……好きな人がいるんだ。だから、君とは結婚できない」
その言葉にフィアの目から光がなくなり、暗い瞳がレイのことをじっと見つめていた。さっきまでとは違う様子でフィアが笑った。
「……ふふ。その人は、誰ですか?」
「他のメイド?それとも、街の娘でしょうか?」
「それも、教えていただけませんか?」
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