第13話 Buoy with broken Wheat
7つの海を支配したかつての経験から、浮標の錨が切れることがないように細心の注意は払っているのだろうとこちらは考えていた。
錨と浮標が途切れてしまったら、それはただのゴミとして認知され名もなき漁師が、もしくは清掃業者が回収してその他のゴミと同様に焼却されてしまうからだ。
亜種白路のカナリヤには多胡開望とLeeそれからジェラルド麻野という3人の息子がいた。山蘇野智柚はLeeの息子であり、須野糸成は多胡開望の息子であったが、実際年齢はジェラルド麻野と同い年だった。多胡芳実はカナリヤの弟だったし、芳実の元妻である天村君子との間に生まれた暁子が多胡の妻となった。
天村君子の息子であるヨハネス・エリヤ=栗生はカナリヤからの系譜から考えてジェラルド麻野には頭が上がらなかった。天村君子が息子のためにジェラルド麻野に頭を下げ、多胡芳実を開して、多胡開望に口利きをしてもらわなければヨハネス・エリヤ=栗生はジェラルド麻野のおもちゃとしてしか存在を許されなかった。
天村君子の妹は黒沼衣子だが、亜種白路の世界では利用価値のある道具としてしかその血は認識されなかった。
だからヨハネス・エリヤ=栗生は百舌鳥柄の中でしか威張ることができなかった。百舌鳥柄の麻野広道などはお守り役として3000円の商品券を日当にもらい、行動を共にしていることが多かった。
百舌鳥柄の中でヨハネス・エリヤ=栗生は王子様のようだった。高砂香夜子ムラサメノエルも彼を崇拝した。
ジェラルド麻野はそんなヨハネス・エリヤ=栗生を笑い物にするのが好きだった。
まりややミア、黒沼樹野や黒沼京はそんなジェラルド麻野の愛人だったからヨハネス・エリヤ=栗生をいじめることが日々のストレス発散になっていた。
それぞれがジェラルド麻野の一番になりたかったからだし、実際、次代の浮標の錨としての最有力候補と目されていたのはジェラルド麻野だったからだ。
麻野道信もスカーレットもジェラルド麻野の品の悪さには唖然とすることが多かった。けれど自分達の目的のために品の悪さも役に立つと黙認していた。
9月3日、錨は浮標から簡単に切り離されてしまった。
スチュワートが仕掛けたのかセオが仕掛けたのか、亜種白路は調査に乗り出した。めぐみを囲い追い込んで、そう、さながら囲い込み漁のようにすればスチュワートやセオが慌てるだろうと目論んだのだ。
めぐみは最近帝都や基実ではなく、スチュワートやセオに助けを求めるようになった。しかし彼らの行動は一切見えない。だったらそのめぐみを追い込めばいい。
規模は拡大した。亜種白路のカナリヤやスカーレット、山蘇野智柚、須野糸成、藤村椿や玲まで乗り出しての徹底抗戦を仕掛けた。
狭い袋小路にめぐみを追い詰めて包囲していく。亜種白路はめぐのみを追い立てその思いは復讐にのみ囚われていた。
「日本の教育はなぜ復習に重きを置くのか知ってる?」
椿と玲は振り返ることができなかった。後頭部に鈍い冷たさを感じたからだ。
めぐみは振り返り椿と怜の目を交互に見た。その横を通り過ぎる時に彼女は静かに言った。
「ご苦労さん」
浮標は危険を知らせる役目もある。航路を示す役割もある。亜種白路はすでに浮標の錨は切られているその本当の意味をようやくこの時理解した。スチュワートが仕掛けたのだと。
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