第10話 父子鷹

最新鋭の機械を使わなければ最小限のリスクで抵抗することができる。技術革新を逆手に取ったやり方は亜種白路らしい判断だ。

スマートフォンではなく、フィチャーフォンを、メールではなく電話を、インターネットを介するように見せかけてカフェの隣どうしで。

抵抗をすること、最後まで諦めないこと。


8月最後の今日は街中には多くの街宣車が走っている。

「今日めぐは外に行くべきじゃない」

どうも三閉免疫家業の人々は過保護だ。血も涙もないとか暴力的だとか危険因子だと言われている理由は誰よりも愛情深く彼女を守るからだろう。


これを戦争と呼ぶ人がいる。これを気持ちの行き違いだと言う人がいる。


外国人投資家も、外国の政治家も、外国人のアーティストもこの島には何かがいることを伝承として伝え聞いていた。たとえば怪物のように、たとえば核兵器のように、たとえば神話のように。


彼女が正当な後継者として帝都を介して公にされたのが2019年。

「めぐみを跡目に」

それは彼女の祖父である朱雀雪芸の遺言でもあった。雪芸とスカーニーは折り合いが良かったとは言えない。どちらかといえば文人であった雪芸はスカーニーのような軍人然りのやり方を正しいやり方であると認めなかったのである。

「俺は軍に論理を持って接した。でも息子はただ軍に憧れを持っているようにしか見えない」

スカーニーに子どもができた時、雪芸は大変喜んだ。しかし相手がまだ未成年であったこと、雇用元が亜種白路であったことから一応反対の姿勢を取らざるを得なかった。

亜種白路は幾度も世界に混乱を招いた主犯格だ。指示役であり、計画の立案者である。とは言うものの、それらは雪芸の祖父が与えてしまった国内でのみ利用可能な爵位であったから責任の取り方を雪芸は父の代から共に悩んではいた。

言葉の浅はかさが巨大な衝突を生み出してしまう。文人の立場を崩さないように気をつけていた自分の息子が軍人として振る舞っていること、そしてその息子が愛した女性が亜種白路が雇用する奴隷であったこと。立場を優先するにしても雪芸は父親という立場もあるし、Mjustice-Law家の当主という立場もある。


スカーニーと雪芸の親子の誤解を仲介すると申し出たのが亜種白路だった。望みをつないだがそれが良くなかった。雪芸は終生そのことを悔やんでいた。


スカーニーが再婚する時も雪芸は祝儀ひとつ渡してやることができなかった。孫の顔を見るために亜露村で暮らし始めようとしたらスカーニーが烈火の如く怒り殺されかけた。2008年のことだった。


内在する情熱に親子のDNAを感じた雪芸とスカーニーはその年に和解した。

これは亜種白路にとっては大問題だった。

親子の仲がこじれていたほうが好都合だったからだ。


雪芸は時空旅人となって9月に再度、鉄原野に降り立つことを計画している。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る