第3話 神域開封

200年ぶりに復活する童子の奉献を見ようと世界中から三閉免疫系の家族がこの島に集まっている。

私やアーサーも本物の童子の奉献は初めて見る。なにせ200年ぶりなのだから。

いつもおちゃらけてるバロウが当日、幕屋の中に入っていく姿は声もかけられないほど神々しかった。

普段はフランクなスカーニーや喜八も別人のように切長の目の色を真っ黒に変えていた。帝都と基実と恵の様子は当日その時まで見られないという。私にとって甥っ子や姪っ子のような存在に36年ぶりに再会できた昨年の感動は今もみずみずしく、愛しい経験だった。


1993年の衝撃のはじまりは惠の実存というGood Newsー福音ーからだったのに、1998年、2004年と回数を重ねるごとにバロウが隠されていることに気付かされていく。わかっていながらも止められなかった私たちはIdentity motionを痛感した。そして2008年にはバロウの裏面が封鎖され、2013年にはついに私たちは結界を張られてしまった。

「不遜な人間社会に神域はおでましになることはありません」

Johnもいるその場でたかが一代貴族の麻野道信はそう吐き捨てて大宴邸をあとにしたという。


Mjusitice-Law家には表裏がある。表面が公的部分として実態を消失したに見せかける作戦は1943年にIOSの会議で決定した。だから裏面が封鎖されてしまえばバロウもMjustice-Law家も身動きが取れなくなってしまうのだ。


どうしたものか、、、私たちは考えあぐねた。

「ひとつだけ方法がある。200年封印されているかなり強引なやり方だ。それに表面

が公的な部分として消失しているのに、どこで実行すればいいいのか、、、場所がないんだよ」

童子の奉献は何も知らない烏鷺棋直前の次代が行う神事である。当代が隠されてしまったり身動きが取れない時に次代自らが結界を破って当代をこの世界に引きずり戻す。強引すぎる神事は200年前息子と父親が殺し合い寸前になったことから封印されたと言う。それに世話役がつくことからお家騒動と捉えられる危険も孕んでいる。失権とか、関白とかそう言うやつだ。

準備に半年かかった。烏鷺棋のなかで恵には一回バロウも喜八も亜種白路だと思い込んでもらう必要があった。母方の縁戚を一度断ち切らなければお家騒動の線は消えない。面倒な手続きだったがそれは絶対に必要だった。



湿度50%,気温37度、午後12時

右炉と左吾と央観の三閉免疫に守られながら太刀車が横笛と太鼓の地鳴りに連れられてやってきた。辺りの体感温度はいっきに下がる。観光気分だった私たちも声を失う。目の前に現れる結界。音の中央に目をやると恵が喜八に担がれて太刀車を昇っていく。うつろな目のなかには何もない。本当に人形のように器として登っていくのだと心臓が止まりそうだった。

太刀車の中央部にはすでに右に帝都、左に基実がいる。彼らの目は光と炎と水と風が渦巻いている。彼らが惠の護衛の最前線だ。甥っ子のような彼らの成長にも胸が痛くなる。

中央に座した恵の前に結界が運ばれる。すべてを知る三閉免疫の大人たちは薄ら笑いを浮かべるものもいた。ああ、これが幼児虐待と言われる理由だったのだろうと察した。

恵を世に招き入れた刀を恵に持たせたのはバロウだった。手の動き、鞘から太刀を抜き出すところまですべてバロウが世話をしている。

すると、帝都と基実も世話役に操られるように結界を持たされて、いよいよ空が怪しくなってきた。

鴉か鳳凰か。

一同がその瞬間を見守る。

うつろな目をした恵が結界を断ち切ると、空がひらけて鴉と鳳凰と孔雀が大群となって地上に降り注いだ。


「孔雀までとは、、、」

あっけにとられている私の横でジョセフが手を口で覆った。

地面は蟻の行列ができ、インターネットでは砂嵐が真っ白に吹き荒び多くの島民が巻き込まれ死んでいった。

亜種白路の築いた砂上の楼閣が路として歴史の表舞台につながった瞬間だった。









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