第9話
「改めて、自己紹介しよっか。僕は柄長麦です。よろしくね」
「私は、大鷹です。よろしくお願いします」
「下の名前は?」
「柚葉です」
「柚葉ちゃんか。素敵な名前だね」
「……柄長さんも素敵な名前です」
こんな、いかにもな自己紹介、プライベートでは初めてしたかもしれない。少しくすぐったい。この前柄長さんがうちに来た時は、何か引っかかっていて、すっきりしなかったけど、今日このカフェに誘われて、待ち合わせ場所に行く間にその原因が分かった。
何年か前の散歩帰りに、体育座りした男の人を公園で見かけた事があった。スーツを着て、髪もセットしてあるのに、ただぼーっとして、心ここに在らず状態。その姿を少し遠くで見た時、私より年上だけど、子犬みたいでかわいいなと思ったのだ。その子犬みたいな人が、柄長さんだった。今日その公園を通った時に、ふと「子犬みたいな人」と「柄長さん」が同一人物なのではないかと思って、今までの会話を思い出して2人の共通点を探っていた。
柄長さんがニートになった時期と私が子犬みたいな人を見かけた時期が同じだったから、確信した。
なんだかこの人知っているな、という違和感を感じて引っかかっていたのだ。とてもすっきりした。変な違和感ではなくてよかった。
「ところで柚葉ちゃん。今、恋人はいるの?」
「いえ、いません。柄長さんは?」
「僕もいないんだ。もしよかったら、僕と付き合って欲しいな」
「はい、もちろんです」
「へっ?!?!?!」
柄長さんがお店にいる人全員の注目を浴びて、恥ずかしがっている。そして、めちゃくちゃ動揺している。
「僕でいいの?」
「柄長さんがいいです」
「なっ……なんだか、こんなにちゃんと返事されると……」
なんだかそわそわしながら、本当に?とか僕今仕事してないよ?とか色々言っていた。私は、とても冷静な風でいて、頭の中は真っ白である。
私でいいんですか?私のどこがいいんですか?もっと他にいい人がいるんじゃ?これもしかしてドッキリか。あーそうかドッキリだ。いつ、テッテレーって言うの。今きてよ。なんで来ないの。本当のやつなの?私なんかが幸せになっていいの?柄長さんに迷惑かけないかな。なんで私なんか。というか、柄長さん麦さんっていうのか。かわいい名前だな。やっぱり子犬っぽいね。なんか頭ぽんぽんしたくなる感じ。髪質柔らかそうだし。なんか、こっち見てきょとんとしてる。あーまた頭が混乱してる!?!?
「「なんか、ありがとうございます!?」」
なんかハモった。
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