第8話

 目が覚めて、ぼーっと天井を見て、起きようかなと思って時計を見ると、朝の10時だった。


 確か今日は何もない日。久しぶりの休日。何しようかな、なんて思いながら顔を洗っていたら、インターホンが鳴った。急いで顔を拭いて、はーいと玄関のドアを開けると、おはようと声をかけられた。


「あれっ、あ、おはようございます……。あの、なんでうち知ってるんでしょうか」


 昨日カフェでおしゃべりした彼がうちに来た。それは良いんだけど、家を教えていない。彼は、あっしまったという顔をして、ごめんと言った。


「言うのを忘れちゃってたな。実は、君とはご近所さんで何回かだけど挨拶したことあったから、家を知っていたんだよ。……驚かせちゃったかな」


「あ、そうだったんですか。気づきませんでした。なんか、ごめんなさい」


「謝らないで。公園で話した時、僕のこと知ってておしゃべりしてくれたのかと思ってたから、そっか、そうだよね」


 まったく知らなかった。公園で会ったのが初めてだと思っていた。


「それで、今日来たのは、これ渡そうと思って」


 そう言って紙袋を渡された。中には本がたくさん入っていて、ずっしりと重かった。


「あ、これ、昨日話していた本ですね」


「うん、僕の家にあったから良かったら読んでみて」


「ありがとうございます!あっ、あの、上がっていきますか?ちょうど誰もいないですし」


「それは嬉しいんだけど、ちょうどこれから用事があってね。上がらせてもらうのは今度にしようかな」


「そうでしたか」


 少し残念だなんて思っていたら、彼がスマホを出して、連絡先聞いてもいいかなと聞くので、急いで部屋に置いてあるスマホを取りに行き、彼と連絡先を交換した。少しびっくりしたのは、連絡先として教えてもらえたのがメールアドレスだったこと。何でメアドなんだろうと思っているうちに、じゃあ行くねと彼は行ってしまった。


 部屋に戻ろうとして、紙袋が目に入った。部屋に本たちを持っていき、本を一冊ずつ机の上に置いていった。紙袋を畳もうとしたら、メモ用紙が挟まっているのが見えた。メモ用紙は何回か畳まれていて、外側から数字のようなものが見えた。開くと、電話番号が書いてあった。


「徐々に連絡先明かすタイプなんかな……」


 ぽつりと言った言葉は、意外と響くものである。ベッドに座り、机に置いた本を眺めた。昨日、彼とカフェで話した時は、居心地がいい人だなと思ったが、今日は、意外と色々な顔をする人で、わかりやすくて、面白いなと思った。


 だけど、少し引っかかる。何がと言われると、少し困る。だって、言ってしまえばすべて引っかかる。出会い方って不思議だ。偶然だとか必然だとか、色々言う人がいるけれど、それらを作り出せることも忘れてはいけない。もちろん、違いなんて私にはわからないから、多少の違和感なのかもしれないし。


 ……もしかしたら、これが、私が避けてきたことの1つかもしれないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る