第6話

 最初よりも最後が肝心、なんて言うけど、最初もわりと大事。最初がグダグダだと、なんか落ち着かない。付き合ってるらしい、みたいな感覚。自分のことなのに、自分がいないところで話が進んでいる。付き合い始めたらしい頃、毎日落ち着かなかった。


 付き合ったと言っても、デートはしたことがない。会社の時に顔を合わせても、同僚として挨拶するぐらい。


 彼は何を考えているのだろう。そんなことばかり考えていた。


 面倒なことが起きたのは、つい最近から。確か3ヶ月前。


 みんなが私たちの話をしなくなってからずいぶん経って、私自身もあの落ち着かなさを忘れていた時だった。昼休み、天気がいいからと、屋上でお昼を食べていたら、とある女性が話しかけてきた。


「ちょっといい?」


 なにやら機嫌が悪いらしく、眉間に皺を寄せて、私の返事を聞かずに隣に座ってきた。私の「どうしましたか?」というセリフに被せて、なんとも面倒な話をしてきた。


「彼と別れてくれませんか?あなたがずっと、別れるのを拒んでいるらしいじゃないですか。私の方が先に彼と仲良くなったのに、横取りした挙句、不仲になるなんて、ありえない!」


「はい?」


 ドラマの話なんだろうか。漫画なら頭の上に?が100個ぐらい浮かんでいる。


「何、関係ないみたいな顔で話聞いてんの?」


「身に覚えがないと言うか、えっと……」


 彼女は一瞬やってしまったという顔をして、走って階段の方に行ってしまった。なんだか周りがざわざわしていたので、私は屋上で食べるのをやめて、自分の机に戻った。


 ……という話がここ数日まで何個も続くのだ。でも毎回違う女性。私は彼との連絡手段がないので、会社で会った時にしか聞けない。ただ、面倒に巻き込まれたくない。いや、これ以上巻き込まれたくないから、たまたま会って話すことがあったら聞こうと思っていたのだが、ついに今日エレベーターで一緒になった。が、彼からも意味がわからない話をされた。


「あのさ、もう俺のことは諦めてくれないかな。きっとお互い傷つくだけだし」


「え?どういう……」


 最後まで言えなかったのは、彼が人差し指を立てて「しーっ」というポーズをしたのと、左手にボイスレコーダーを持っていたからだ。


「よし、もう大丈夫。巻き込んでごめんね。付き合ってくれてありがとう。もう別れて大丈夫だから」


 そう言った後、タイミングよくエレベーターが開き、彼が出て行こうとしたので、思わず腕を掴んだ。


「ん?」


 スマートな人みたいな顔に、少し呆れつつ、お腹から声を出して言った。きっと、今までで1番大きな声だった。


「大丈夫なわけあるかーーー!!!」

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