第5話
1年前、彼氏ができた。数年ぶりの恋人である。今も続いている。でも、続いているだけ、のような気がする。
彼は会社の同僚で、研修の時に仲良くなった。背が高くて、ノリが良くて、誰からも好かれていた。でも、目立つばかりではなくて、落ち着いた雰囲気もあった。今思えば、初めて会った時には気づいていたのかもしれない。この人は少し危険な気がするって。
社会人3年目。仕事に慣れて、環境に慣れる3年目。周りよりも環境に慣れるのが遅いから、最近になってようやく自分の居場所を会社の中に見つけた気がする。
居場所は、残業する人だけが残る夜のオフィス。少し暗くて、でも集中できて、頭が働く。「ごめん、これ今日中にお願いできる?」という言葉が嬉しい。……ハイになっていたわけではない。単に仕事が遅いのかもしれない。残業といっても2、3時間で終わるので、その時間を楽しみながら働いている。
とある残業デーの日。彼も残業で残っていたらしく、帰りにばったり会った。挨拶することは多くても、お互い忙しくて話せていなかった。その日はなんとなく、彼と飲みに行くことになった。
お酒が弱い私は、少しだけ飲んで、あとは食べた。彼は何杯もお酒をおかわりしていた。あんなに飲んだのに、私の方が飲んだと思われるぐらい、彼は酔わなかった。その日は、そのお店でバイバイして、家に帰った。
翌日、自分の席に座って、朝の会議の準備をしていたら、隣の席の先輩に、意味がわからないことを聞かれた。
「ねぇ、あの営業部の子と付き合ってるんだってね」
「はい?」
先輩曰く、今日の朝早くに、彼がみんなに、私と付き合っていると言いまわっていたらしい。そんな事実あっただろうか。彼とは昨日飲んだだけで、良い感じにもならなかった。むしろ、仕事の話しかしていない。意味がわからない。ああ、もしかしたら、彼の冗談なのかもしれない。きっとそうだ。そうに違いない。あの日は、ずっとそんなことを考えていた。
でも、私は折れるのが早かった。周りの人は、信じてしまったので、彼と私が付き合っていることになった。休憩中に色々な知らない人に、付き合ってるんでしょ?と聞かれるので、だんだん面倒になって、適当に返していた。はあ、そうだ。あれがいけなかった。適当にしなければな、今こんなに面倒なことになっていない。
彼との付き合ってる話が始まって1ヶ月後。たまたま一緒になったエレベーターで、彼が私に「そういうことだから」と言った時、「いまさらかい」と返事してしまったのも、きっと良くなかった。
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