第4話
前までは、今好きな人は、今までで1番好きな人だと思っていた。今も少しそうかも。ドキドキして、嫉妬して、意地悪して、でもたまに素直になる。そういうのが素敵な恋だと思っていたんだ。
でも、最近になって、それがすべてではないって感じる。なんでかな。きっと、あの人に会ったから。
家ばかりの毎日に飽きてきて、散歩に出た日。あの日は、ちょうどいい風が吹いていて、暖かくて。近所の大きな公園まで歩いた。意外と疲れなかった。運動は全然しなかったし、途中で息切れするかなって思ってたけど。
公園に到着して、ベンチを見つけて座った。このまま目を閉じたら、寝てしまいそうな、本当に気持ちがいい日だった。
「隣、座ってもいいかな」
1人の男の人が一声かけてきた。私よりも2回りぐらい上に見える。
「あっ、どうぞ」
そう言って、少し端の方にずれた。
ベンチはここだけじゃなくて、すぐ隣にもあった。まあ、このベンチがお気に入りなのかもしれないけど。なんて考えていたら、ふふっと笑われてしまった。この人は私の心を読んだのか、なんて考えて、赤面した。
初めて会った人だし、いつもだったら少し気まずくて、すぐここから離れようなんて考えるけど、あの日は違った。なぜか、居心地が良かった。年上の人の穏やかで、落ち着いている感じが、懐かしさを感じさせて。
私が本を持っていたからか、その人は、本の内容を聞いたり、どんなジャンルが好きなのか聞いたりしてきて、最初は答えを返すぐらいだったんだ。だんだん楽しくなってきて、気づいたら肩を並べて、2人で一冊の本を読んでいた。漢字が苦手な私に、これはこういう意味だよ、こう読むんだよって教えてくれた。私は、恥ずかしがりながら、小さい声で小説を読んでいった。
名前も知らない、あの人は、名前を知ってる誰よりも懐かしいような気がした。
1つの短編を読み終えたところで、じゃあそろそろ、と立ち上がった。帰り際に、あの人は振り返って、またね、でもなく、さよならでもなく、ただ私を見つめて、少し微笑んで行ってしまった。それがあの人との初めまして。
2回目は、そう遠くないうちにやってくる。
でも、あの日のことが忘れられない。別にドキドキしなかった。恥ずかしくて顔を真っ赤にはしたけど。穏やかで、落ち着いていて、あの日にぴったりな感情。自分が1番大人に見えた思い出。きっとあの人が連れて行ってくれた。
過去に本当の恋はないって思ってる。私の「恋」の認識が、友達とか周りの人が言っている、それ、と違う気がするから。たまに、ドキドキしたら恋と勘違いする、吊り橋効果みたいなこともあるし、多分過去の恋は全部そんな感じ。何かと恋を勘違いしている。
でもね。多分、この記憶だけは他と違う。感情の色が違う。きっとね、そうだといいな、なんて思うから、そういうことにしておくんだ。
きっと、次、3回目。
すぐ会える気がする。またふらっと、ゆらゆらしているときに。
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