お前らドラマのように良い話になると思うなよ?オレは甘過ぎない苦さもある。。

※タツ視点→三人称→雪虎(母)視点です。分かりづらくてすいません。また、NTRっぽいものだけ見たい方は三人称を飛ばして下さいませ。



 あのドラマに最高だった。誠一と娘の美桜、そこから始まる勘違いざまぁかの抱擁。

 大体新しい嫁にスポットが当たるが全く無視してスポンサーを紹介する。まさに古き良きドラマだ。

 とにかく一度見て欲しい。


 その直後に貞淑ぶっていた母ちゃんが若い男と黒い衣装(Cカップのパット付き)という殺し屋時代のエロ衣装(嘘だと思われるのでただのコスプレ)を着てチョメリンコ、そのタイミングで母ちゃんから逃げ回っていた親父が遭遇(笑)

 下世話な週刊誌か売れる訳だと思った。


 私の家は小さい時から世間的に大分崩壊していたので、親の不貞についてドラマのように悲しみに襲われる要素は正直無い。

 両親共に何か良い家の出で、母は元殺し屋、父は武術の大家やらで色々大変らしいが、2人共の強くないから多分嘘だ。それに私には多少面倒臭いお見合い話が出ていたが今となっては何も影響無い。


 両親には一応、育てて貰ったと思ってる、特に厨二病のかあちゃんには今まで良くしてもらったと思っている(ヒロに言われたからではない)。

 夫婦間では親父の浮気性でかあちゃんの嫉妬が爆発して、すぐ喧嘩になり最初はかあちゃんを止めていたが途中で面倒くさくなって2人共気絶させたりと滅茶苦茶だったが…まぁ人並みに両親には愛されていると思うから不満も無い。

 当時は喧嘩とか関わりたくないなぁと思って気絶させた後、揉め事や面倒臭い事があると止めるだけ止めてヒロ宅に逃げてたし。


 それに生活面、生活で苦労していたかと言われれば、今の旦那のヒロの家に入り浸っていた。

 ヒロの両親は私にルノエルノ株式会社から出ていた濃厚クリームバニラのように、こぼすとアリが大量に群がるぐらい甘過ぎて、発売中止になるぐらい私に甘かったから何も不満はない。


 今考えれば無言で家に入ってやりたい放題だったな。


 『お母さん!』って言いながら椅子に座ると、飯とデザートが出て、風呂が用意され、出ると新しい着替があり今日あった事話すと「頑張ったね」と気持ち良い返事、まるでロイヤルに相談しているような夢心地にな気分で帰って寝るだけ…


『お父さん!』と言うと新作のBBSゲームのソフト、当時はナイン・テイルズ・ロマネスク2を買ってきて一緒にプレイ、他にもゲーム好きな私に将棋やオセロ教えてくれたり、庭で組手の練習したらやり過ぎて、お父さんの骨が折れたり、頭から血を吹き出したりしていたが、いつも『良いぞォ、たっちゃん…良い…それで…良い…』と優しく変な顔で笑うだけ…


 ナイン・テイルズ・ロマネスク6のEXハードモードのラスボスが溜め技を溜めなしで乱発するぐらいやり過ぎだと思う。


 つまり…私は完全にお姫様だった。

 だから私はこの恩を胸に決めている事がある、私の家族含め、群れのリーダーはヒロの両親であると。


 つーか何で一緒に風呂入ったのに女って当時気付かないんだよ…ヒロ…

 

 つまり…この現場に対してドラマのように何か悲しいとか切ないとか、思う事など何もない。


 別に母ちゃんが良く分からん若造とチョメるのも文句は無い、私はもう結婚しているし、そもそも再婚すりゃ良いじゃん、メンドクセー奴は無しな!ぐらいの話はしていたし。


 そして経験値がしこたま貰えるモンスターぐらいの確率でしか会わない、母ちゃんから逃げ出した親父が変な老けたギャルとチョメろうがどうでも良い。


 だが私は最高のドラマを見た後…そしてドラマと違って完璧な被害者である!

 夢だ…夢にまで見たざまぁが、ここにある!


「世界の高級車、ツバメタクシーでもハイヤーサービスで使っている王冠マークの高級車のバンパーから失礼する…お前ら…肉吾郎でケリつけようや!」


「ツバメじゃなくてツバサな?それとウチの地元じゃ走ってねぇし、王冠のマークじゃねぇし、コレ叔父さんの凄い古いベンツだから違うよ」


 ヒロが何か言っているが…あぁ…楽しみだ、今の私にはドラマの誠一が乗り移っているような気がした。


 まずは初手だ。誠一は妻と娘を除く身内全員を味方につけた。

 多分…ロイヤルのアドバイスだ。ならば私もそれに従おう、つまり?


「あ、もしもし?お母さん?聞いてくれよ〜、ウチの母ちゃん、若い男と駐車場でチョメってんの…そう、照らされてんのに男の手が止まらないからアヘ顔隠すのに必死(笑)照らす?そうそう、この、淫売ババァ、恥晒せやってヒロがハイビームで照らしたのよ(笑)」

 

「待て、それ俺の母ちゃんだろ?俺の情報に悪意がある、言ってないし怒られるの俺だぞ?」


「ちがっ…違うの!輝夜(ヒロの母)さん聞いてっ!これは違うのっ!」


 男の手がまだ腰に回った状態、母ちゃんは馬鹿みたいな殺し屋ミニスカボンテージスーツで男の股間に手を、そして首に手を回しながら言った、違う…と。

 私はついつい笑みが溢れた(笑)


「違う…母ちゃん、出ましたね?違う(笑)何が違うんだろうなぁ?(笑)大体そう…ミスった女は…違う(笑)フハハッ!違う(笑)」


 親父は逃げようとしたから手刀で気絶させた。

 ギャルは「私はアフターしただけだから!」と言って逃げた。

 まぁどうでも良い…宴の開始だ(笑)



―――――――――――――――――――――――


 藤原ふじわら 雪虎せつこ 通称:闇蜘蛛の白虎


 彼女は過去、様々な異名の付く殺し屋だった。

 藤原家歴代の中でも殺しの才に特化したのは彼女だけ。特に同業の間で有名な言葉がある。


【狙わる時は脚高の蜘蛛 対峙すれば雪上の白虎】


 狙われれば超高速で影を移動する彼女には出会う事すら困難、もしもその姿を見たとしても吹雪く中で白虎と対峙するのと同じと言われる。


 ただ、ひたすらに裂き、刺し、締め、命を止める。感情を殺し、冷徹なまでに目的を達成する。

 

 生き残った者は言った、その姿は少年のような姿で、食事…ではなく歩くように、殺す。


『白虎に恐れや絶望は無い、飢えた獣と出会ったと思え』


 都市伝説とまで言われた伝説の殺し屋。

 その伝説は、ある時から殺しの舞台から消えた。


 一説によると藤原家が来栖川家に吸収される際に、自分が何かの傘下に入る…自由に暗殺を行う楽しみを奪われる事を拒んだとも言われるが…いや…現実は複雑怪奇だ。


 彼女の暗殺者を辞めるきっかけはお見合いだった。

 姿を見られた人間を片っ端から殺そうとするので藤原家も頭を悩ませていたが…

 見合いに来た阿修羅の家の傾奇者と言われる変人、阿修羅あじら龍倫たつのりに、試すかの如く暗殺技術や一撃必倒を繰り出すが、手首を掴まれながら抱き寄せられただけで堕ちた。


 女としては免疫が全く無く、知識も全く無いチョロい女だった。


 そして相手が悪かった。龍倫は傾奇者とか自分で言っていたが要は遊び人である。

 実際、武術の家…といっても雪虎の一撃を避けられたのは偶然だった。


 彼、阿修羅龍倫は定満家の現当主、辰と同世代で、辰…の後輩の永井という化け物に完膚無きまでボコボコにされるまで女を泣かし続けていた。

 ボコボコにされた後、性根を叩き直すと辰の暴走族に無理矢理入れられ、女絡みで何かあるたびに特攻隊の副隊長として永井の下で色んな所に突っ込まされた。結果、多少大人しくはなったが…


『お見合い?よ〜し、辰もうるせぇし、いっちょ俺も真面目にやってやっかぁ』


 そんな事を言う奴がちゃんと出来た試しがないとは彼の為の言葉。

 そして出会った当初…雪虎は当初、暗殺以外何にも出来なかった。

 もちろん、感情も顔に出ない。


(コケシみてーな女だな、胸も無いし参ったな)


 外見は美しい少年のようだが、可愛げという点では価格○ムであれば★1つである。

 そして夜もマグロ、魚ではない人間のマグロ。

 

 しかし実際の所は、まさに堕ちたという言葉通り、まるで恋に恋する思春期の様にべた惚れの雪虎。

 彼女『ん♥』は実際は『イギュイギュイキュウウウウ♥♥♥のりしゃんシュキシュキイイイイ♥♥♥』という感じで、マグロではなく身体は力が入りすぎほぼ痙攣していて動けない有様。

 明るい所で見れば凄まじい我慢顔と汗と震えにビビっただろう。


 そして娘も生まれたがコレまたコケシに瓜二つ…


(マジか…何だこれ、2個並んだコケシか…コレはアレだな…辰に任せよう)


 後年、その娘の外見が中性的なイケメンの女殺しと言われた自分にそっくりになることを彼はその時まだ知らない。

 そして、子供が生まれてからも、感情が感じられなかったから調子に乗って女遊びをしていたら、どうやら嫉妬心がかなりあったらしい。

 女遊びがバレた時に千枚通しで殺そうとしてくるので、死んだら堪らんと龍倫は我慢していた。


 その後、燻ぶっていた名家同士の争いが佳境に入る。

 特に激戦であった来栖川家の誇る敬死天による定満家攻防戦と、来栖川党首自らによる西園寺家襲撃の同時展開を予告した時に阿修羅龍倫は閃いた。


(俺は死んだ事にしよう!我ながらナイスアイディーア♬)


 クズである。クズの彼は中立の立場を取っていた阿修羅が来栖川に吸収されかけたと聞き、阿修羅本家の実家に行き宣言した。


『俺の命で矛を収めるかどうか…試してみる(死んだ事にすれば女と県外で遊び放題…試してみる)』


 実家の人間には、龍倫の人間性を知っていたので『あぁそう』と流した。

 家が滅びる滅びないの話しをしている時に馬鹿の話は『何言ってんだコイツ』とスルーされた。

 そもそも雪虎は藤原の厄介者、龍倫は阿修羅の荷物…この2人の動きはどうでも良かった。

 いや、雪虎に関しては一応名の売れた殺し屋なので藤原家は来栖川についた為、呼び付けたかったが…


 そんな空気の中、龍倫は雪虎に言った。


『覇を唱える阿修羅、いや来栖川に乗り込んでくる…つまり…俺は定満に付く…辰とは親友だからな…もし帰って来なかったら…分かってるな…(地方のおぼこゲットやな)』


『待って…私も行く!私だって…』


『お前には…龍虎を守る使命がある!じゃあな!愛しているぞ!雪虎!龍虎!息災にな!(お前が来たらエロい事できないだろうが!たまにはタツにだけ、顔出すか)』


『龍倫ざぁん!いがないで!龍倫ざあんっ!』


 雪虎はメンヘラ化していた為、若干可哀想な感じだが…明らかに嘘と気付かない雪虎も悪いと思いながら…龍倫は失踪した。


 小学生なのにウンコを漏らして帰ってきた娘を見て思った…


(貴方…貴方の意志通り…私が立派に育てるわ)


 ちなみにその争い…定満襲撃の際、異能集団に独りで切り込み数で言えば一番沈黙させたのは雪虎である。

 黒いミニスカボンテージスーツの女が目をギラつかせ、不殺の命令を守り麻酔針で一部隊を全滅させた。

 

 余談ではあるが後に誰に聞いても『龍倫?そんな奴いなかったよ?』という言葉を、雪虎は信じる事が出来なかった。



 とにかくその後、紆余曲折あったが…暗殺者を辞め、旦那に逃げられ、シングルマザーになり、近所のコールセンターで頑張っていた。

 しかし殺し以外の事をしてこなかった彼女は人の何倍も苦労し、何をやるにも何倍も時間を使った。


『もっと柔らかい態度で!もっと口角を上げて!』


『はいっ!お電話ありがとうございます!ご注文は健康食品、馬のポコチンコですね!?』


『ウマナミポコテロンって何度言ったら分かるの!?』


『はいぃっ!スイマセン!スイマセン!ウマナミのポコティンポロンですね?』


 娘を食べさせる為、何年もかけて人らしい部分を作り上げた雪虎、今の雪虎を見れば、龍倫も考えを改めるかも知れないが、もうに遅い。

 それでも仕事や家の事は出来ず、娘は馬鹿…いや、私の育て方が悪いのかと悩み続ける雪虎…とにかくそんな時に、近所のママ友達は手を差し伸べてくれた。

 その中でも特に良くしてくれたのが根多家だった。


『うーん、雪虎さん…なんか致命的にバランスが悪いのよね。例えばお金が無いと言うけど結構稼いでるでしょ?いちいち最新の家電とか買わなくて良くない?』


 仕事に注力し、努力を買われ偉くなったが…やれスラッグだ、やれ回線がどうしたと、回線どころか彼女の頭がパンクしていた。

 ベンチマークを測ろうとしたら測るソフトを入れたらそれだけで壊れる機械、藤原雪虎である。


 買い物も下手、なぜ仕事帰りにセレブが行くスーパーに行くのか、そして腐らす。意味の無い誰も使えないルンバ…そして元旦那の為に建てた道場の月謝は1人二百円。

 家は暗殺者時代の貯金で買った。それ以外の貯金は龍倫が使った…酒に。

 そして金も時間も無くなって、勝手に一人で詰んだ。


 娘の小学校時代はそれこそ根多家の娘なんじゃないかぐらい入り浸っていた。

 その都度、雪虎は土下座し謝罪、根多母に『頭を上げて下さい』と困らせた。

 その姿を根多家の一人息子、博之は見ていた。

 博之は、敗北と絶望を求む父と無限に挑戦し続ける母との本気の殺し合いの後にするマジ喧嘩セ◯クスで生まれた、狂人の申し子だ。


 雪虎の今の境遇とそれに挑み続ける姿に心が掴まれていた。

 彼もまた、高校で幼馴染達とのNTR地獄に入る前、実は小学生の時に同級生の母親に惚れるという暴挙を行う。

 それを好意と本人は分かっておらず、本気で殺す気で組手してほしいと頼み込み断られていた。

 そしてそれを見ていた雪虎の娘、龍虎は…博之のその姿に惚れていた。


 結果的に龍虎は全てに勝利?し、子供を産み正妻の座を確保するのだが、そもそも博之自身が、ハーレム化を望んでいない。

 それでも後年…鷹の様な目で同居している母親を見ながら言う。

「母ちゃんはNTRの尖兵だった、油断は出来ないな」


 ちなみに『鷹の様な目』と言う表現を、本人含め龍虎にする人は多いが、幼馴染のアイカ曰く

『本当に鷹の様な目をしてるだけ、何も考えていない馬鹿の目、キッてしてるだけで頭が1ミリも働いてない、画像検索で出てくる鷹と同じ目をしてるだけの馬鹿』と言われ龍虎はキッと鷹の目の様で睨んだ。

 睨むだけで何もしなかった。つまり図星である。


 そして雪虎からすればそのアイカ…根多家の隣に住む葛家にも多大な世話をかけていた。

 アイカは愛嬌があり生活力もある、そしてクラスでは人気者で家事全般が出来、無論成績も良くピアノでは何かの賞を取った。

 タツの部屋にあるのは小学校の卒業証書だけなのに…


 そして博之と愛華…2人はいつか付き合い結婚するだろう…なのに娘は博之を狙っているのである…何て馬鹿な事を…雪虎の目にはそう見えた…。

 そしてもう一人、頭が良く出来る幼馴染の音取君がいるが、クソ娘は気に入らないらしい。

 しかし分からんでも無い…藤原や阿修羅は激情的な性格の家だ…娘はこと、恋愛に関しては死んでも妥協しないだろう…とにかく全てが上手く行かない。



 そして雪虎はいつも、常日頃娘の奇行に胃を痛めていた。


『あの子は…また、やった…あぁどうすれば…』


 何て酷い…と心で繰返す…暗殺者だったお前が言うなと思われるかも知れない…が、確かに余りにも酷いのだ。

 何が酷いのかと言うと、その元・暗殺者の娘・龍虎のポンコツっぷりがだ。


 その後も生活力の無さ、考えの無さ、勇気の無さ

 しかしとにかく身体が頑丈…後、反復練習のみが得意。応用力ゼロであった。


 元暗殺者、藤原雪虎はその後も日々、しつこいぐらいに苦悩している。

 殺し以外が余りにも出来ない自分、育て方を間違えた娘。

 だが、親しい人は誰も彼女を責めなかった。


『いや、タッちゃんは無理じゃないかな〜…雪虎さんも無理しないでね』


 そんな言葉もまた痛い…


 根多さんの夫婦の事は…実は雪虎は知っていた。

 暗殺者時代に聞いた噂…名家・定満家の裏の顔である定満会直径、昔ながらの命知らずの暴力団・根多組…その組長の弟で、兄の組長ですら手に負えない、東北から来た狂った男。

 そしてその狂った男を暴力と胆力だけで納めた女…暗殺のリストには入らないが、関わるなら最大級の警戒をすべき人物だった。


 実際は博之君のお父さんはタツを連れてキャンプやバーベキューに行き人並みの思い出を…お母さんは雪虎の良き友として、龍虎には第二の母のように優しく接した。


 そんなある日、子供達も高校生になり、久しぶりに飲もうと言われご近所さんが集まる会合…特に根多家にはとてもお世話になっているので、何か返さねばと思っていた。


 しかし当日、その大恩のある2人の息子、博之が土下座した…これはいけないと思う雪虎。

 しかも土下座の理由が雪虎の娘・龍虎にあるからだ。

 娘が妊娠しているらしい、そして知っていた…博之がその時の彼女、アイカ一筋だという事を。

 (妊娠したという…寝盗るとか騒いでいたか…まさか精子だけとは…わ、私は精子を返せば良いのか…頭が狂う…)

 私が博之君に身体で返すしか…無いのか?などとのたまう雪虎もまた、思考がバーストしていた。


 必死に博之を庇う雪虎…今、彼を助けなければ積み上げてきたものを失う…いや、今こそ恩を返す時なのだ…と。仇で返す様な人間にはなりたくないと強く思った雪虎は必死に博之を庇い、娘の愚行を謝罪し続けた。

 ご近所さん達は皆、良い人達だった。理解してくれた。いや、分かっていたのだ…大事な事を。

 皆、良い大人。妊娠検査薬が陰性や陽性でばら撒かれているのは何か意味があるのだと思った。

 皆が皆、責任があるのだと…


 しかし優しさに感動している雪虎に悪夢が襲う…アレがやってきたのだ。

 そう、龍虎である。


『ナァゴナァゴナァゴネェコネェゴロスネェェゴ!ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアカアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 何でか真田家の寧々子、通称ネコに怒り狂い、アイカを俵のように投げ、雪虎を辱め、その場で博之にヤラれ、立ち上がったと思ったら突然に外に出て、名家が一同に集まり半グレ組織を潰す作戦に乱入し全員の感度を爆上げし、就職して帰ってきた。

 その辺りは別で語られているので興味のある方は見ていただければと思う。


 しかしその後、博之と付き合う事になり本当に妊娠し、子供を産んだ娘は多少大人しくなった。

 いよいよ自分の手を卒業した…と、思った時に事件は起こった。

 


――――――――――――――――――――――――


 娘の事が落ち着いたと思ったら新たな問題が発生した。


 私が働いているのは健康食品やその他諸々を取り扱うコールセンター。

 その名は【てるてるセンター24時】


 初めてのコールセンターでも手取り足取り教えます!頑張った貴方には正社員でなくとも賞与あり!更には社員登用もしています!皆でわきあいあいとした職場です!


 と、当時、まだ龍虎が産まれたばかりの時、私はコールセンターの募集を見て応募した。

 あらゆる環境に対応するという殺し文句に殺し屋と同じだと思い感銘を受けてだが…

 私は派遣コミュニケーターという、将棋で言うと歩、戦場で言えば駆り出された農民のようなポジションからスタートした。


『コ■スゾてめぇ!女!おい!聞いてんのか!?』


 ハードなクレームらしいが殺し屋時代にこの様に吠える奴は不安しかない事を知っている。

 私はコケシの様な顔で『テメェクソ女コ■ス』『はい』『聞いてんのかクソっ!』『はい、聞いております』と繰り返していた。

 周りの派遣もおぉみたいな感じになっている。

 すると上長が『キミ、良いねぇ?SV(スーパーバイザー)やってみない?』とのお言葉。



 何だ、こんな脅迫みたいなの受けるだけだったら簡単に出来るぞ!と思っていたのが運のツキ…


 リーダー業務になった途端、おばちゃん達はハンドルを握らずアクセル全開でとばす車の様な、一ミリも合理的ではない批判が飛んできた…

 シフト、売上、クライアントとの折衝…雪虎かメインで担当したのはアオクサ薬師堂…


 アオクサ薬師堂のすっぽんエキスでぬるりポン。すっぽんを人類の未知の圧力、マリアナ海溝の海底と、同じ圧力ですっぽんを破壊。そこから取れる希少なエキスを錠剤にしました。飲んでいるだけで貴女のアソコもぬるりポン。楽しい毎日です。


 私は人体に詳しい…こんなもの効くわけ…いや言うまい。

 他にも謎の砂をテープに付けて貼ったり、謎の粉をまぶした下着だったりを70〜80代に売りさばく仕事だ。


『今だけオペレーターを増員しています!』


「皆さんっ!後で掛け直すって言って電話回して!」


 私はまだSVになった当時、本来は増員していますと出る番組を複数掛け持って大人数で取り続けるセオリーを知らず、少ない人数で番組の為に一時間だけ出勤させて回そうとして業績的に死んだり人望はゴミカスの様になるミスを繰り返した。


 そこからは神経を擦り減らす毎日…職場にお菓子を買っていってペコペコ、お客様にペコペコ、クライアントにペコペコ、上司にペココ、娘の事で近所にペコリンコ…毎日、家族の為に仕方ないなと思いながら、その日、予定より早く帰って家のドアを開けると…


 パン!パパン!パパン!パン


「いええええあ!アイツぁいつもおせぇからよぉ!今日はおウチデリやんけぇっ!女デリバリーやんけぇい!ナァタツァァァ!?」


「おやじ、デリのいみ、ちがうよ、きょうかしょにハイタツってかいてあるよ」


「アハハっ!女のデリやんけエエエエエエエエェェイイ」


 旦那が知らないの女と…致していた…奥の部屋で龍虎は旦那の行動に興味無さそうに根多さんから貰った竹トンボの上部分に糊付けしていた…その様に激昂した。


 感情ヲ殺し続け、我慢を重ね、道場を建てて、真面目に働かない旦那の為…我慢我慢…我慢が暴発した。


「え?何でせつ…『シイイイイイイイッッッ』


 近くにあった千枚通し…殺し屋時代に一番効率の良い武器として使っていた。


 ストレスもあったのかも知れない…私は気付けば千枚通しを拾い最短距離で旦那の心臓目掛けて突き刺す…が、小さな手に止められた。


 小学校に入ったばかりの龍虎が全力の私の刺突を、龍倫さんの心臓手前で止めた…本気の私の刺突…を、あっさり手首を掴んで止めたのだ。


「さつじんじけんはやめて。ひっこししたらヒロたちにあえなくなるでしょ。だからやめて」


 デリ嬢と合体したまま恐怖で漏らしている龍倫さん…


 龍虎の発言で…そして、あっさり止めた事に冷や汗が止まらなかった。今、自分がやろうとした事…龍虎がやった事…それから導き出される未来…驚愕した。


「なかよくしろとはいわない。りこんもしたければするといい。ただ、わたしからうばわないで、ヒロを」


「でも…龍虎のお父さんは酷い事をしたのよ…浮気なんて…」


「おやじは、いえで、だいたいこんなかんじだよ、だけどかじはしてるよ。かあちゃんは、はたらきにでてる、だからしらない。でもかあちゃんががんばっていることをおやじもしらない。おたがいしればいい、それじゃだめか?かあちゃんはさ、ほんとにおやじすきか?おやじはおんなすきだけどかあちゃんもすきっぽいぞ?」


 舌っ足らずでペラペラ喋る娘の…どこで覚えてきたのか…説法に聞こえた…涙が出た…


 後から聞いた…根多夫婦は子供が出来るまで毎日殺し合いに近い喧嘩をしていたのに何で結婚したのか聞いたらしい。


『喧嘩するのはね、お互いの事を知らないから、そして知って欲しいから』


 一度は信じ、一緒になった旦那様だ…一度の不貞ぐらいは許さなければ…龍虎も真っ直ぐ見ている…


「貴方…分かったわ…今回は許してあげる…でもね…私は嫉妬深いの…浮気するやつなんて死んだ方が…いや、死でもぬるいと思うわ…だから次やったら…」 


「お、おう、分かった…善処する…」


 しかし…旦那は何度も裏切り続けた、知らない女がいつも近くにいた。

 その都度、私は責めた。気絶、失神、骨折り、打撲、刺突を繰り返した。

 その都度、問い詰めた。何でそんな事するのか…と。


 ある日、龍倫さんは私達の家族の為に命をかけた。

 何かが繋がった…もしかして彼は…自分の死期を悟っていたのかも知れない。

 私は泣いた…自分の愚かさに…短い人生ならやりたい事をさせてやれば良かった、叶えてあげれば良かった。何で私は…と嘆いた。


『愛しているぞ!雪虎!龍虎!息災にな!』


 今だにあの時の笑顔を思い出すと涙が止まらない…彼の命をかけた種火を無駄にしてはいけない…私は…彼の愛に殉ずる…


 だが…人間は儚くも脆いものだと知った。

 平穏と日常は安寧は…心を弱くする。そして劇的な刺激を求める…恐ろしい誘惑…


「藤原さん!帰りに飲みましょうよ!」


「だーめ!大学で他に良い娘がいるでしょ?」


 大学生の田中君…彼は私のコールセンターに来てもう3年目…とても私に懐いている。

 高身長のイケメンで、中性的な旦那と違い男らしい顔の彼。

 私は彼にアルバイトながら色々任せていた。

 就職の時にその経験を活かせると良いね程度に考えていた。


 どうやら違っていたらしい…田中君は私に本気の好意を持っていた。

 でも駄目だよ…私は寡婦…薬指の指輪が光る…永遠の誓い…思いながらも彼の男らしい喉チンコに目が行く…


「関係ありませんっ!お願いです…綺麗で、素敵な雪虎さんにもっと俺の事を知ってほしいんです!」


 それは駄目…知ってしまっては駄目…思えば龍倫さんの時も一瞬だった…自覚している…私は恋に弱い…感情に弱い…押しに弱い…今…堕ちかけている自分がいる。


「私は元殺し屋なの…そんな事言う女なんて地雷でしょ?だから…私はやめておいた方が良いわ…」


 大人の女を演じる…駄目よ…こんなのでは止まらない、分かってるのに…若さはまさに暴走列車…とまらない…


「関係ありません!雪虎さんが良いんです!なんだって知りたいんです…お願いしますよ!」


 彼も思春期の恋に恋をしているだけ。今が終われば…きっと…そう…なんだったら今だけ…

 今だけ…か…そうか…私が本気にならなければ良いんだ…


「あ、ほら…私こんな格好…それに殺し屋よ?だから遊びだったら良いわよ…ほら…どう…わ、私はそういう女よ?ハァ♥ハァ♥」


 間違えた、言葉とは裏腹に私の心は滅茶苦茶になっていた。一言で言えば動物…発情期のメスだ。


 コールセンターの入った建物の駐車場で誘惑する。おかしいと思いながらも止まらない。

 思えばコールセンター…おばちゃん達が言っていた…


『コールセンターって主婦が若い男とやっちゃうで有名な職場よね?』『そうねぇ、やぁねぇ』


 思えばあの話を聞いた時から狂っていたのかも…だってコート下に昔の服…若い時の衣装だ…パンツが、何もしなくても見えている…昔は足の付根近くまであったサイハイブーツも今はニーハイの様に…グローブも肩まであったものが肘まで…首から胸周り、脇もあり得ないぐらいムチムチしている。


「だってこんな…わたし…ファ?♥「関係ありません!もっと雪虎さんを知りたいんです!…好きです!俺だけの人になって下さい!」


 誘惑しているつもりが…肩を掴まれて私は彼の言葉で心も身体もベロンベロン…気付けば互いの唇がぶつかった。カチンとは言わず互いの舌がすんなりと絡まり、彼の唾液で脳が焼き切れた。

 余りにも惨めに、腰を小刻みに痙攣させながら彼に打ち付ける動き…自分では見えぬ蕩けきったであろう顔…そして彼のアレを受け入れる場所が、丸見えになっている下着の惨状が、余りに卑猥で恥ずかしく、僅かに残っていた女心がこれ以上下がらないタイトなミニスカートを下げようとする…殺し屋の衣装が滑稽な娼婦のようで、堪えきれず背を向けようとして逃げようとした。

 本気で逃げようとなんて考えてないくせに…


「待ってっ!雪虎さん!俺は貴女を逃さないから!一人にしないから!」


 後ろから捕まり、更なる責苦を味わう。

 エナメルスーツの脇から胸に手を入れられた…いよいよ、私の偽装おっぱいも、仮面で隠し続きたた卑猥な本性も剥がれた。

 最愛の旦那がいた時は表現方法が分からなかった、しかし…情慾は表現方法が分かるほど加速する。


 彼の手を自ら誘導する。私の胸が無い(Aカップ)なのも気付いただろう…それでも私の心を揉みしだくその動きに私の脳はぬるりポンが無くとも熱されたバターのように蕩けていた…快楽の頂きを…え?

 

 突然光が照らされた…もし殺し屋時代だったら、今のこの身体状態、メンタルであれば間違いなく死に直結するだろう。

 でも…今なら死んでも良いと思った。


『浮気するやつなんて死んだ方が…いや、死すら生温いと思うわ』


 ふと、思い出す言葉…それと同時に見えたのは…最初に愛したあの人にそっくりな…娘だった。

 そして私を信じてくれていた…博之君。


 何よりも…すぐ側には死んだ筈の…愛していた龍倫あの人さんがいた。


 天国のような…地獄。

 私の甘え、快楽への堕落、自我の開放は…一番見られたく無い人達に晒された。


 娘の姿をした断罪者が言った。私の作り上げたものは、貞操は…砂上の楼閣だった。


「もしもし、お母さん?聞いてくれよ、ウチの母ちゃん若い男とチョメチョメ…」



 なんでえぇ!?だめぇっ!やめてぇぇぇぇぇぇ!!!

 

※今回は、浮気母の回なのでスポンサーはいません。後、長い…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る