【短編】ツンツン王女マリアの魔法学園日記〜プライドの高い王女様の語尾が「にゃん」になった〜

渡月鏡花

第1話

//SE 魔法薬品が床に落ちて割れる音とともに、女の子の咳き込む音

//SE バタバタと足音がした後に、窓が開く音

//SE 風が入り込み、カーテンがバタバタとはためく音


「コホコホ……」


「もう……調合を間違えちゃったじゃないですかっ!」// 怒ったような声


「きみが『マンドレイク』を削って入れるって言うから、その通りにしたのに……」


「全然調合に成功しなかったじゃないですかっ!」


「これじゃ、わたし明日までに魔法薬の課題を提出できないじゃないですか!」


「きみが自信満々に『唯一の得意科目が魔法薬だから手伝うよ』って言ったから、仕方なく頼んだんですからねっ!」


「それなのに……きみときたらちっとも役に立たないですね!!」


「……なんでさっきから黙り込んでいるんですか?」//少し訝しげで、それでいて不安そうな声


「それにチラチラとわたしから視線を外していますよね……」


「え?わたしの頭に何かついているんですか……?」


//SE 髪に触れる音の後に、ぴこぴこと耳が動くような音


「……っ!?か、鏡はどこですかっ!」//驚きで息を呑むような感じ


//SE バタバタと足音


「これって——耳?」


「ど、どうしてわたしの頭に耳が生えているんですかっ!!」


//SE ヒロインがパッと振り返る音


「もしかして、きみ、わざと調合を間違えるように指示したんじゃないですよねっ!?」


「そもそも初めからおかしかったんですっ!」


「急にきみの方から課題を手伝おうなんて言って近づいて来たことからして、怪しいと思っていたんですからねっ!」


「だって、わたしたちだいぶ前に疎遠になっていましたし」


「いくら幼い頃によく遊んでいた仲だとはいえ……」


「今更近づいてくるなんて、怪しいと思っていたんですからっ!」


「きみも、第二王女としてのわたしのことを利用するつもりなんでしょ!?」


//SE 主人公がぶんぶんと首を横に振る音


「そんなに必死になって否定するなんて、ますます怪しいですね」//ジトーっとした視線を感じさせるように


「ふーん……ほんとに嘘はついていないんですか……?」


//SE 主人公が勢いよく土下座をする音


「はあ……」//呆れる声


「そこまで真摯に土下座をするあたり……わかりました」


「一応、信じてあげることにします」


「それに一度起こってしまったことは仕方がありませんし」


「空間魔法で時を戻すことなんてできないですしね」


「だから、今回だけは許してあげ——にゃん」


「……っ!?」 //とっさに口元を抑える音


「なんでもありま——にゃん」


「な、なんで笑うんですにゃんっ!」


「ううう」//主人公を睨むような悔しそう声


「きみ……ほんとにわざと間違えていにゃいんですにゃん?」


「ほんとに……ほんとですにゃん?」


「もしも嘘ついたら……パパに言いつけますにゃん」


「きみが、王女であるわたしのことを猫族の姿に変えたって言いますにゃん」


//SE 主人公が自分の頭を地面に打ちつけて謝る音


「も、もう、わかりましたにゃんっ!」


「きみのことは信じますにゃん」


「だから顔をあげてくださいにゃん」


「はあ、でもこれからどうしますかにゃん」// 困ったような声


「え……今、にゃんと言いましたにゃん?」


「とりあえず先生を呼んでこようですってにゃん!?」//驚きの声


「それはダメですにゃんっ!」


//SE 主人公に駆け寄る足音

//SE ローブの裾をギュッと掴む音


「わたしは王女ですにゃんっ!」


「だから、にゃにごとも完璧じゃにゃければにゃらにゃいのですにゃん」


「それにゃのにこんにゃところで他人に弱みを見せるわけにはいかにゃいですにゃん!」


「ううう」//SE 少し恨めしい声で


「意地を張っているから学園で孤立してしまったんじゃにゃいかですってにゃん」


「……そんにゃことはわかっていますにゃん!」


「でも王族であるわたしが弱みを見せることはできにゃいにゃん」


「にゃんで僕にだけ本心を言うのですかにゃん……?」//SE 少し不思議そうな声で


「それは……」//SE 少し戸惑ったように小さな声で


「きみが特別だからですにゃん」


「つ、つまり幼馴染だからに決まっていますにゃん」//SE 焦ったように早口で


「そんにゃ恥ずかしいこと言わせないでほしいですにゃんっ!」


「そ、そんにゃことよりも、今の状況ですにゃん」


「ほんとにどうにかしにゃきゃまずいですにゃん」


「はあ……」

「明日までにこの耳……元に戻るのですかにゃん?」


「え、きみのお部屋で薬の効果が切れるまで一緒にいますにゃん?」


「でも……わたしが王宮にゃいにいにゃいことがわかった暁には大ごとににゃってしまいますにゃん」


「それにきみだって、わたしと一緒にいることが知られてしまったら困るはずですにゃん」


「だって——今のわたしは王女できみは単なる平民にゃんですからにゃん」


「しかし……」//考えるような声


「この姿を誰かに見られてしまう方が問題ですにゃん」


「オールビール王国は、奴隷制を撤廃したといえ獣人種への扱いはひどいままですにゃん」


「王族であるわたしが獣人族の姿だと噂されてしまったら……」


「すごくまずいですにゃん」//焦った声で


「これ以上、王宮内での立場を危うくしたくにゃいですにゃん」


「……わかりましたにゃん」


「本当にほんの少しだけですにゃん」


「仕方にゃく一緒にいることにしますにゃん」


「きみの言うとおり、きみの部屋で魔法薬の効果が消えるまで待つことにしますにゃん」


「そうと決まったら、善は急げですにゃん」


「わたしの姿を見られてしまう前に」


「早くきみの寮に行きますにゃん」

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