第13話 吸血姫と夜のベール⑤
また遅刻を回避した。
最近、普通の学生生活をおくれてえらいぞと自分を甘やかしたくなるけど、他の人からすればそれは普通なので抑える。
それにしても、この間まで保健室登校で万全の状態でもそうでなくても移動に時間のかかるボクでも思ったことだけど。保健室から教室までは少し距離がある。
毎日のようにお見舞いに来てくれていた浜凪たちには感謝しかないな。
「おかえひ」
教室に帰ってくると数分前まで感謝の対象でだった
ちなみに今は昼休み前なのでこれは早弁もしくは間食だろうか。
「ただいま。
「服とかタオルで覆いまくった甲斐があったか。学校着くまではマラソン走ったあとみたいにぐったりしてたし、良かった良かった」
浜凪は朝の登校風景を思い出しながら食べ終えたパンの袋を細くして結んでいる。
席を持ち主に返す気はさらさら無いらしい。パンの袋って折れるところまで細かくしてから結ぶとあんなに小さくできるんだ。
「浜凪も来てくれたらよかったのに」
「んー、私がいると話しにくいこともあると思ってさ」
「別になにもなかったけど?」
「分かんないならいいんだよ」と細かくした袋を捨てに浜凪は私の席を離れる。
今のうちに座らないとまた席を占拠されるのですぐに腰を下ろす。
なんて不毛な椅子取りゲームだろうか。
「あ、私の席が」
「ボクのだよ!」
「
「ちがう」
「じゃあ桐子は私のだよ?」
「もっと違う」
「違わないけど?」
じりじりと近づいて来たあと、浜凪の両手が壁に張りつく。あ、これ知ってる。壁ドンとかいうやつだ。
「……」
「こわいこわい」
「まあ、嘘なんですがね」
無言の一瞬、怖いときの浜凪の目だったので恐怖を感じたけど、すぐに元に戻った。
「もう! 身の危険感じた!!」
「さすがの私もこんなとこじゃできないよ」
ボクが元気になってから浜凪の自由度が跳ね上がった気がする。
うちの幼なじみがフリーダムすぎるんですがどうしたらいいでしょうかなんてタイトルのライトノベルありそうだよね。真理夏に検索してもらおうかな。
「んで、姫香のマジックアイテムは触ってみた?」
「うん。うちのオーダーメイドだった。壊れちゃってるっぽいから帰りにうちに寄ってもらおうかと思ってるんだけど」
「じゃあ帰りもおくるみしないと」
「おくるみって単語可愛いよね」
時間に余裕があるし朝よりは楽かなと話していると予鈴が鳴り、この話はお昼休みに持ち越しとなった。
最近、お昼休みにいろんな人とご飯を食べるようになった。
保健室登校じゃなくなってから最初こそ人見知りしてしまったが、毎日顔を合わせて話していれば自然と慣れるもので少しづつ仲良くなれてると思う。
今日は
植村さんは理系なので吸血鬼である姫香ちゃんをうちまで運ぶのに何か知恵を貸してくれるかもと思って誘った。
出水さんは今のところ皆勤でいろんな人と仲良くなっているので、ボクのいない間の姫香ちゃんのこととか聞きたくて誘ったら喜んで来てくれた。
「さて、ご期待に添えるといいのだけど」
アドバイザーとして呼ばれた植村さんは栄養剤を溶かした液体(なんかいろいろ聞いたけど知らない成分)が入ったカップを触手で口元に固定すると両ひじを机に置いた。
「吸血鬼を日光から守りながら移動する良い方法ってない?」
カップの中身をストローで吸いながらもひじを顎に当てて考えるポーズをする植村さん、なかなかに器用だ。家だと食事しながら本読んでそう。
「ふむ、さっき聞いた話だと行きは布である程度覆ったんだよね? 応急処置としては正解かな」
「帰りは保健室で日傘を借りていけば行きよりは楽じゃないかと思う」
「結舞さんは保健委員だし難しくないね!」
日傘! そうだ、保健室になら簡易的なものは大体ある。
なんでさっき気づかなかったんだろう。
「それと、夕方なら日中よりは受ける影響が軽減されるらしいよ。参考にしてみて」
「ありがとう! 助かったよ」
植村さんの説明が分かりやすくてほぼ解決しちゃった。第一印象ヤバい人だったけど頼りになるなあ。
第一印象といえば、ボクらの席から少し離れたところに視線を移すとワコちゃんを抱きしめながら
入学当初の振る舞いは幼なじみの植村さんからすれば彼女なりの夢魔らしさを表現した高校デビューだったらしい。
その後、一ヶ月経たずして……。
『無理してましたごめんなさい! やっぱりこういうのキャラじゃないんです!!』
キャラ作りをやめた途端、ボクを含めて声をかけてきた生徒全員に謝ってまわっていた。
本当の彼女は見つめた相手を眠らせてしまう夢魔の魔眼を隠すために前髪を伸ばしている気弱で可愛いもの好きな少女だっのだ。
「レンゲ」
「ん。ごめんね、わたしは席を外させてもらうよ」
「あ、うん。ありがとね」
植村さんはミルクちゃんに呼ばれて行ってしまった。
あの二人、幼なじみ故の距離感出してて引き離すの申し訳なくなってくるからちょうど良かった。
「立葵さんっておしとやかなかんじするよね、姫っぽい?」
「おしとやかかは分かんないけど姫っぽさはある。あと日中じゃなかったらすごい元気」
「へぇ、面白いね」
浜凪と出水さんが姫香ちゃんの話を始めていたので混ざることにした。
「あの子、曇りか雨の日でもちょっと元気なさそうでさ。本調子だとどんなだろ?」
「見た感じ、運動神経は私と同レベルかな」
「そんなに動いてるの見てないじゃん」
「そしたら出来る者同士に伝わるあれだね」
たしかに公園から去っていく姫香ちゃんは早かったけど、浜凪と同じくらいだといよいよボクの貧弱さが際立ってしまう。
体力測定の結果とかもう見たくないぐらい低かったからね。軽く触れるとソフトボール一桁、握力平均以下……。
「
「それについては桐子が」
「ん!?」
急にパスが回わってきてお弁当を喉に詰まらせかけた。会話に混ざらずにご飯に集中してたらこれだよ。
「えっと、じつは今日うちでなんとかできないか相談する予定で」
「おお! 頑張って成功させてよ!」
「せ、正確には頑張るのうちのお父さんだから……」
そう、頑張ってもらうのはボクじゃなくてお父さんなんだよね。
「でもでも、そこに繋いだのは結舞さんだよ? すごいよ!」
「えらいえらい」
出水さん優しい。ボクも何か出来てるって思うと嬉しくなっちゃうよ。
浜凪の頭なでなではよくわからないけど。
「微力だけど頑張ります」
放課後に向けて少しでも頑張ってみようと思いつつ残りのお弁当を口に運ぶ。
んー、夕方まで少し時間あるし誰か連れてって姫香ちゃんと遊ぼうかな?
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