第11話 吸血姫と夜のベール③
遅刻は無事に免れて。
ボクらは教室に、姫香ちゃんは陽花ちゃんに背負われたまま保健室に向かった。
授業もいくつか終わったあと、休憩時間の合間にボクは一人で保健室に向かっている。
浜凪も連れていこうかと思ったけど、うるさくなるから行かないと断られた。
「お!、結舞さんじゃん。また具合悪くなった?」
保健室のドアをノックして入ると、
みずみずしく透き通った肌に白衣を通した女性がこちらに顔を向けた。
彼女はボクを見ると、当然のようにベッドへ誘導しようとする。
「
「あれ、一人称だけイメチェン?」
「そんなところです。ところで」
「あ、立葵さんなら一番奥のベッドにいるけど」
「話が早くて助かります」
「今、休んでる人、立葵さんしかいないからね」
養護教諭の
生徒が緊張しないように診察時に姿を変えるんだけど、
逆にドキドキしちゃう生徒がけっこういる。
ちなみにうちの学校の保健室はサボりに来る生徒が少ない。
理由は澄先生が健康な生徒にはイタズラするから。
ボクは、今の状態になる前は保健室登校だったので顔パス状態で入れる。
あと、澄先生との約束で卒業するまでずっと保健委員をすることになっている。
「桐子ちゃん!」
「保健室のベッドはどう?。すぐにうとうとしちゃうでしょ」
「ええ、実はさっきまで寝てたわ。体調は安定したんだけど、教室は窓から日光が入ってきちゃうから・・・」
様々な種族の生徒が在籍する浮島学園は防火や耐水などに力を入れていて、中でも保健室はかなり特徴的。
水槽や植木鉢はあるし、陽当りのいい場所と陽の当たらない場所が壁で仕切られてたりする。
姫香ちゃんが居るのは窓のない隅っこのベッドだ。
「そういえば、聞きたかったんだけど。姫香ちゃんのベールってちゃんと効果発揮してる?」
「ううん。入学式のときは大丈夫だったんだけど今は効かないの」
「ちょっと見せてもらってもいい?」
「どうぞ」
手に持ってみると、普段使いしているのに真っ白なベールは汚れなど知らないかのように状態がいい。
お父さんの作品は持ちが良く、見た目も維持出来てるの凄いなぁ。
さて、お父さんみたいにはいかないけど、これでもマジックアイテム工房の娘。チェックぐらいはお手のもの。
指先が薄く光り、情報が頭に直接入ってくる。
ボクは真理夏が使う精神系の強力な魔法は使えないけど、職人が使う微弱な鑑定魔法なら実は使える。
「どう?」
「うーん。もしかしてこれ、もともと姫香ちゃん用じゃない?」
「吸血鬼の力が強まったのが越してきた直後で、
同じくらい吸血鬼力の強い叔母に相談したらこれを着けてれば大丈夫って渡されたの」
「最近、能力向上したから知識がないのはしょうがないとして、オーダーメイド品をそのまま使わせるのはダメでしょ・・・」
「桐子ちゃん?」
「入学式は親族故にまぐれで発動か、でもそのあとからは機能停止。また使えるかな?、一回お父さんに見せないと」
「はーい、クールダウン!」
「ひゃっ!?」
いろいろと考えてたけど、背中ににゅるんとした感触がして引き戻された。
後ろを向くと、澄先生は机から動かず、透き通った水色の腕だけが伸びてボクの背中に張りついている。
「お、戻ってきた?。考え過ぎて周り見えなくなる癖、そのままだね」
椅子に座ったまま片手間作業をする先生、いつ見ても器用だ。
「ありがとうございます、そろそろ手離してくれません?」
「ん、んー?。ちょっと会わないうちに育ってきた?」
「やっ!?。お腹さわろうとすんな!!」
背中からお腹の方へ手が這ってきたので咄嗟に掴んで剥がす。
危ない危ない、ヘンな雰囲気になるとこだったよ。
行き場を失った澄先生の手が縮んで元の長さに戻っていく。
「この間より元気になったね。先生うれしい」
「・・・」
「ごめんてー」
軽く謝る澄先生を無視して姫香ちゃんを見ると、
自分も何かされるのではと思ったのか、さっきよりも高い位置に毛布をかけていた。
「大丈夫だよー、一部の子にしかこういうのしないからー」
「その一部の子から抗議を送ります。年頃の学生のお腹を触ろうとしないで!」
性懲りもなくニコニコ顔でそんなことを言う先生に反抗する。
澄先生には今の状態になる前に日向先生と同じくらいお世話になってるけど、
思い返すとけっこう恥ずかしいことされてるんだよね。
「姫香ちゃん、あの人あんなだけど一定のラインは越えようとしないから」
「え、うん」
「結舞さんが一応信用してくれてるの嬉しいよ」
なに考えてたんだっけ?と思い出そうとしたら予鈴が鳴る。
あ、そうそう!。この手に持ってるベールのことだ。
「もう休み時間終わるから説明省いちゃうけど、放課後うちに寄って!」
「え?」
「授業、遅れちゃダメだよー」
「姫香ちゃんに変なことしたら、もう選別作業手伝いませんからね!」
「保健委員なんだから、それはやってよー」
保健室を出る間際に澄先生に釘を刺しておく。この人、ボディータッチとか平然としてくるから。
「さて、授業に遅れないようにしないと」
あー、筋肉痛がひどい。走れないし、どうか教室に着くまでにチャイムが鳴りませんように。
静かになった部屋で、保健室の先生がフフッと笑う。
さっき桐子ちゃんが一定のラインは越えようとしないって言ってたけど体が反応して毛布で胸を隠した。
「あ、この笑いは悪だくみとかそういうのじゃないから安心して」
池井先生は私の反応に気付いて両手をプラプラさせる。
揺らし過ぎた腕がゴムのおもちゃみたいにあっちこっちへ跳んでは戻っているが先生は気にせず話を続けた。
「結舞さんがね、本当に元気になってるの見てホッとしたんだ。あの子、この間までいろいろあってほとんど保健室登校だったから」
「そうだったんですか?」
「すぐ気絶とかしちゃうから危なくて、それでも学校には来るからここにいたの」
確かにたまに学校に来れたとき。浜凪ちゃんはいても桐子ちゃんはいなかった。
昨日の引きこもりかなってぐらいの体力のなさはそういうことだったのね。
「自習してたら気を失ってたりで最初はハラハラだったね」
「それ、本当に学校来ちゃいけない状態じゃないですか」
「ねー。そういえば、前にどうしてそこまでして学校来るの?って聞いたことあったんだけど」
「私が倒れたら友だちが助けてくれるからって言ってたわ」
「良い話ですね」
「まぁ、保険室の先生としては危険だから自宅療養を勧めたんだけど。またいろいろとあってね、仕方ないから保健委員にして私の傍に置いたんだ」
無理に登校して保健室にいて、友だちに助けてもらって。今の私に似ていると思った。
昨晩、数回しか会ったことのない私のお願いを聞いてくれて、
今朝は日光に倒れた私のそばにヘロヘロになりながら駆け寄ってくれた桐子ちゃん。
自分がしてもらったことを誰かにしてあげたいのかもしれない。
力不足なところはありそうだけど、桐子ちゃんかっこいいな。
「あー、今日暇だなぁ、事務作業さっき終わらせたし。・・・結舞さんの昔話聞きたい?」
「え?」
「いつもそばにいる子たちも知らなさそうなこと、多分いっぱい知れるよー」
保健医の観察眼のなせる技なのか、私が桐子ちゃんのことを考えているのを当てられて少しドキッとした。
浜凪ちゃんたちも知らない桐子ちゃん・・・。
知り合ったばかりの私が聞いてもいいのかな?。でも、この機会を逃したらもう聞けないかもしれないし。
「き、聞きたいです」
「正直だねー」
その後、池井先生は保健室登校していたときの桐子ちゃんの話を作業の片手間に話してくれた。
当時の体調のことや偶然発見した才能のこと。あとは恥ずかしいこととか・・・。
少しだけ桐子ちゃんの違う一面を聞けて教室にいなくても寂しくなかったけど、
やっぱり私も
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