第2話 前世は勇者でした②
三葉はケータイを携帯していないようで、メッセージを送っても返事がこない。
いるのは分かっているので、仕方なく浜凪と手分けして探すことにしたのだが。
「いない」
まずは一番確率が高そうな校庭に足を運んでみたが、三葉の姿はなかった。
てっきり、グラウンドを周回してると思ったんだけどな。
あとはどこだろう?中庭か図書室か、予想を裏切って体育館?
こんなことなら、日向先生にどこで見かけたかを聞いておくんだった。
手間のかかる後輩だ。
次に、中庭に行ってみたが、ここにも三葉はいなかった。
代わりに、つなぎ姿のお兄さんが花壇の手入れをしている。
確か、用務員の
天住さんは私に気づいたのか、こちらに振り向いた。
年頃の少女たちが噂するだけあって、整った顔立ちをしている。
あと、若い。大学生と言われたら、そうなんですねと納得してしまいそう。
初恋泥棒とか言われてたのも聞いたことあったけど。今なら、ちょっと分かる気がする。
「えっと、何かご用?」
短い金髪の用務員さんは、見た目よりも優しく、不器用そうな第一印象を与えてくれた。
「友だちを捜してまして。中等部の制服を着いて、快活そうな娘なんですが」
天住さんは私の質問に「ああ」と合点がいったようで、うなずいた。
「それなら、さっきまでいたよ。気晴らしがてらグルグル回ってくると言ってたから、そろそろ戻ってくるんじゃないかな」
三葉らしいな。それなら、私もここで待って合流した方がいいか。
「ありがとうございます!その娘、ケータイ忘れて、連絡つかなかったので、助かりました」
「その子も誰か探してるみたいだったから、待ち人から来てくれたみたいで、良かったよ」
待ち人か、見た目に似合わず古風な言い回しをする人だ。
おみくじとか好きなのかな?
「そうか、今日は入学式だったな」
私の胸ポケットの花飾りを見て、そう呟くと。
天住さんは、ポケットから花をかたどった髪飾りを取り出した。
「何かの縁だ、持て余しているものなんだけど。入学祝いだと思って受け取ってくれないか?」
「いいんですか?」
手渡された髪飾りをよく見ると、花はフリージアを模している。
凝った造りだけど結構高いものなんじゃ?。
「気に入って衝動買いしたんだけど、俺はつけられないし。やっぱり似合う人が使うのが一番いいと思うんだ」
似合う人と言ってもらうと、なんだか嬉しい。
人の好意を無下にするわけにもいかないし、貰えるものは貰っとこうかな。
「ありがとうございます!大切に使わせてもらいますね。」
「うん、きっと似合うと思う」
「せんぱーい!」
後ろから三葉の声がする。やっぱりここで待っていて正解だったか。
「じゃあ、ここらで失礼。俺、仕事中だから」
慣れた手つきで道具を回収し、天住さんは去っていった。
あれじゃあ、噂になるよね。
手元に残った髪飾りを早速つけてみる。この安定感、やっぱり安物じゃないな。
一点物っぽいし、お父さんに見せたら興味持つかも。
「どうしたんすか、その髪飾り。プレゼントっすか?」
「うん、持ってても使わないからあげるって、さっきもらった」
いつの間にか背中に張り付いていた三葉に髪を触られる。
また前兆が来てるのか、ぜんぜん気がつかなかったな。
「それって、さっきの天住さんっすか?お兄さん用務員の」
「そうそう、初恋泥棒で有名な」
「結構なレアキャラらしいっすけど、会ってみると普通っすね」
「初対面の人に髪飾り渡してくる、初見殺しなところあるから侮れないけどね」
人のうわさなんてそんなものってことか。
人づてに伝われば美化もされるし、尾ひれもつく。歴史と似てるわ。
「そういえば三葉」
「はいな」
「あんた今日、日向先生に見つかってたよ」
「お姉、目いいな・・・」
私の背中でもたれかかって休みながら、三葉はため息をついた。
反省、というよりは先生に見つけてもらえて、嬉しかったのほうが強いか。
「ところで先輩、友だちは増えそうっすか?」
「んー、たぶん無理。ホームルームでやらかしたから、当分は遠巻きにされると思う」
客観的に評価して、精神的に安定してないやつと積極的に話そうとは思えないんだよね。
私だったら話しかけないし。
実際、中等部の終盤から、同い年では浜凪としか話していない。
「それはそれは、災難でしたね」
頭を撫でられながら、後輩に慰めてもらう。
「私も浜凪先輩も、マリもいますから安心してください」
「頼りにしてんよ」
すらすらとそんなセリフを吐けるから、私は三葉のことが好き。
そのまま成長してくれると、先輩は嬉しい。
「お、三葉いた!ついでに桐子も」
「ついでって言うな」
三葉見つけたけど、浜凪に連絡するのを忘れてた。
結局、連絡しなくても集合できたから良かったけど。
「ところで三葉、ヒュドちゃんに見っかってたぞ」
「なんでみんな、お姉の話題出したがるんすか!?」
「あ、ヤバいかも」
急に眠気が襲って来た、前兆はあったし、そろそろ来るとは思ってたけど。
「三葉!」
「はいっす!」
浜凪の合図で、背中に張り付いていた三葉が離れ、私を受け止める態勢へと動く。
何度もこういうことはあったので、二人ともこういう状況には慣れている。
意識が落ちる前に、なるべく簡潔に喋った。
「あと、よろしく・・・」
まぶたが自制できず、そのまま意識を失った。
ポケットから携帯電話を取り出すと、電話帳から目当ての人物の番号を探して掛ける。
今日は休みなので相手はすぐに出た。
「もしもし、俺だ。今さっき、お前の姉さんに会ったよ」
「ん?、言うわけないだろ。言っても何のことだか分からないだろうし」
「あと、あれは渡しておいたから。ああ、それじゃあ済まないが、あとは頼んだ」
簡潔に言えと言われたので、さっきの出来事をサラっと話したら電話を切られる。
少し肩の荷が下りた気分だ。
やっと俺の待っていたものが見られると思うと、この五百年待ったかいがあったというものだな。
勇者よ、目覚めのときだ。
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