知り合いの知り合い
今日の昼は学食にした。かやくうどんと鮭おにぎりのセットを二つ持って、譲は席とりをしてくれている友人の前に座る。
「ほい」
「さんきゅーさんきゅー」
嬉しそうに受け取ったのは
「あれ?知り合い?」
梓の隣で食事のトレーを持って席を探していた女生徒が、やりとりに気づいて声をあげた。
「おー、上総じゃん」
「美紅ちゃん、知ってるの?」
「うん。同じ中学だったんよ」
梓の隣にいる女子生徒と譲は、中学で二年間同じクラスだった。性別も部活も違っていたとはいえ、二年も同じクラスなら友達とはいえないまでも知り合いの範疇に入るだろう。
(信濃の友達だったのか)
二人が仲良さそうにしているのが、正直いって意外だった。……そして、そう思った自分に驚いた。
梓は口数が多そうではなかったし、今までも誰かと一緒にいるところを見たことがなかった。控えめで静かな佇まいのイメージだという、ただそれだけで「一人で本を読むのが好きな大人しい子。友達は少ない」と勝手にレッテルを貼ってしまっていたことに改めて気付かされ、譲は頭を掻いた。
「なあなあ」
ぼんやりと横を見ていた譲を、横に座っていたクラスメイトが肘でつついてくる。
「こいつ彼女できたんだってよ」
他のメンバーにからかわれている男子は、やめろよと口で言いながら満更でもなさそうだ。
「写真みせろ写真」
「どこの娘?うちの学校?」
みんな楽しそうに盛り上がっているが、実は譲はさほど興味がない。
「彼女いるってどんな感じなんだろ」
向かいで雄二がぼそっと呟く。
「女ってなんか面倒くさそうじゃね?俺、男同士でこうやってるほうがずっといいわ」
雄二は言葉を続ける。譲も口には出さないが同感だ。実は中学の時に女子に告白されて付き合ったことがあるが、よくわからないまま数回映画やショッピングセンターでデートしただけでいつのまにか終わっていた。ごく短期間の「お付き合い」は、譲にとって「女子と出かけた」という事実に過ぎず、これなら男子どうしでつるんでいるほうがよほど楽しいという感想だけを残した。
雄二の呟きはスマホを必死で守っている男子生徒にも聞こえたようだ。別に気を悪くするでもなく、相手は言った。
「わかってねーな、お前まだ好きな子できたことがないって、自分でバラしてるようなもんだぜそれ」
「そうか?」
「そうそう」
別の男子生徒も頷いている。
「男同士は気楽でバカできていいけどさ、それとはちょっと違うんだよなあ」
「女相手だと確かに、返事とかマメにしないとだけど、ちょっとしたことでも楽しいし」
「わかる。それにさ、なんつーかこう、いい匂いするよな」
「柔らかいし」
「あっ、お前もう触ったんか!?」
「触ってない触ってない!当たっただけ!!」
わあわあとまた盛り上がり出した彼らを、譲と雄二は「そんなもんなのかー」という目で見てから顔を見合わせた。
少し離れた席では、梓と美紅が楽しそうに笑ってはしゃいでいる。
「ねえ梓、上総とどういう知り合い?」
「知り合いっていうか…」
以前から恋愛相談も聞いてもらっていたので、美紅は梓が失恋したことは知っている。だが、譲と出会ったきっかけがまさにその場だったとは、さすがに気恥ずかしくて言えなかった。
「よく行く本屋さんで働いてるから、顔を知ってる程度で」
「そっか、あいつ本屋でバイトしてたね。…あっ!」
そしてはっと何かに気づいたように美紅は目を瞬かせた。
「上総と梓って響きが似てる。かずさ、あずさ、ほら!」
そしてけたけたと屈託なく笑う。裏表のない真っ直ぐな美紅は、一緒にいてとても居心地がよい。女子特有のグループ行動や仲間内での愛想笑い、べったりとした付き合いなどが苦手な梓にとって、そう思える相手はとても貴重だった。
「上総くんっていうのね、名前」
「そうだよー。上総、譲だったかな?確か」
ランチの日替わり定食を小気味好く食べ進めながら、美紅が小首を傾げつつも教えてくれる。梓はサンドイッチを食べ終えた包みを折りたたみながら名前が判明した相手に視線を向けた。
男子の一団は食べ終えたところらしく、賑やかに立ち上がって食器を返しにいくところだった。
「男子って楽しそうでいいよねえ」
梓の視線を追った美紅が、頬杖をついて感想を述べた。
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