第5話 しゅうかつ

 「タナカさん、最近疲れた顔をしているね。眠れてないんじゃない?」と祖母が心配げに聞いた。

 こくりとタナカさんが頷く。

 「中々、就職活動が上手くいかなくて・・・。目を瞑って寝ようとすると、心配事ばかり考えてしまうんですよ。」

 「私にはね、タナカさん、何かとても焦っているように見えるの。違ったらごめんね。」

 「え、焦ってる、ですか。」

 タナカさんはコーヒーに映る自分の顔をじっと見た。  


 「確かにそうかもしれません。私の友人たちのほとんどが数社の内定を持っているんです。だけど、私はまだ一社からも貰えていないんです。比べてはいけない、って思っているんですけどどうしても比べてしまって。」

 彼女は話す度に、どんどん表情が暗くなっていった。


 「タナカさん、だいじょうぶ?はいこれ、ハンカチ使って。」

タナカさんが泣いちゃうと思ったわたしは、咄嗟に彼女にハンカチを渡していた。

 

 「ありがとう。大丈夫、大丈夫。何とかして見せる。」と言いながら、彼女の眼は少し潤んでいた。


 「そうそう、タナカさん。大丈夫よ。私だって何とかここまで生きてこれたんだから。」祖母が笑った。つられて祖父が笑い、アキラのおじいちゃんはゆっくりと頷いた。

 「もし、どうしようもなく辛くなったらいつでもここに来な。年寄りが多いけれど、話し相手くらいにはなれると思うよ、ははは。」祖父はそう言いながら、そっとホットケーキをタナカさんの前に置いた。おまけのアイスクリームが添えられていた。それを見てわたしは「いいなー」と言うと、タナカさんがくすっと笑った。みんなも笑っていた。


 わたしはタナカさんの言っていた「ないてい」とか、「しゅうしょく」とかさっぱり分からないことだらけだったけれど、タナカさんが今ものすごく悩んでいるのは分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る